書いてあること
- 主な読者:社会保険(健康保険・厚生年金保険)制度の法改正について知りたい経営者
- 課題:細かい改正点もあり、ポイントを押さえにくい
- 解決策:社員にプラスとなる改正が多い。育児休業中の保険料免除は運用が厳格化される
1 押さえておきたい改正点は4つで、2022年1月と10月に注意
2022年に、社会保険制度に関する複数の法改正があります。社会保険制度については、労務管理に密接に関連するもので、会社と社員の双方にとってとても重要な仕組みです。細かい改正点も多いですが、この記事では、経営者が押さえておくべき次の改正ポイントを紹介します。
- 傷病手当金の支給期間の通算化(2022年1月1日施行)
- 任意継続被保険者制度の見直し(2022年1月1日施行)
- 育児休業中の社会保険料免除の見直し(2022年10月1日施行)
- 社会保険に加入するパート等の拡大(2022年10月1日施行)
2 傷病手当金の支給期間の通算化(2022年1月1日施行)
対象は、健康保険の被保険者である社員です。
傷病手当金とは、
社員が私傷病による療養で働くことができず、休業が連続3日以上となった場合、4日目以降から支給される健康保険の給付
です。2022年1月1日以降、傷病手当金の支給期間が次のように変わります。
1日当たりの傷病手当金の支給額は、原則として、次のように計算します。標準報酬月額とは、月例賃金などの「報酬月額」を区切りのよい幅で区分したものです。
支給開始日以前直近12カ月間における各月の標準報酬月額の平均÷30×2/3
傷病手当金の支給期間中、社員が一時的に就労して賃金をもらった場合、
- 賃金額(日額)≧傷病手当金の支給額(日額):支給されない
- 賃金額(日額)<傷病手当金の支給額(日額):差額が支給
となります。
現行の制度では、傷病手当金が支給されなかった期間があっても、支給開始日から起算して1年6カ月を経過すると傷病手当金の支給は打ち切られます。しかし、
2022年1月1日以降、支給開始日から就労等により不支給であった期間を除いた支給期間が、通算して1年6カ月間になるまでは期限なく支給
されます。
3 任意継続被保険者制度の見直し(2022年1月1日施行)
対象は、健康保険の被保険者である社員です。
任意継続被保険者制度とは、
退職した社員が、最大2年間、在職中に加入していた健康保険の被保険者(任意継続被保険者)になれる制度
です。2022年1月1日以降、任意継続被保険者の資格喪失事由(任意継続被保険者でなくなる事由)が次のように変わります。
現行の制度では、退職者が好きなタイミングで資格を喪失することはできません。しかし、任意継続被保険者は社会保険料を全額自己負担(通常は労使折半)するため、好きなタイミングで資格を喪失できないと、生活を圧迫する恐れがあります。そこで、
2022年1月1日以降、退職者本人の申請によって任意継続被保険者の資格を喪失できる
ようになります。
なお、任意継続被保険者の社会保険料は、「退職者の従前の標準報酬月額」「保険者の全被保険者の平均の標準報酬月額」のうち、いずれか低い額を基に算定されます。ただし、
2022年1月1日以降、健康保険組合の場合は、組合の規約に基づき、退職者の従前の標準報酬月額を基に社会保険料を算定することも認められる
ようになります。
4 育児休業中の社会保険料免除の見直し(2022年10月1日施行)
対象は、健康保険・厚生年金保険の被保険者である社員です。
育児休業中の社会保険料免除とは、
社員が3歳未満の子を育てるために育児休業を取得する場合、その期間中の社会保険料が労使ともに免除される制度
です。2022年10月1日以降、育児休業中の社会保険料免除の要件が次のように変わります。
現行の制度では、月末時点で育児休業を取得している場合に限って、その月の社会保険料が免除されます。そのため、育児休業の期間が同じでも、月末を含むか否かで社会保険料の負担が変わるという問題がありました。しかし、
2022年10月1日以降、育児休業が同月内に開始・終了する場合でも、育児休業期間が14日以上なら社会保険料は免除
されます。
また、現行の制度では、賞与支給月の月末時点で育児休業を取得している場合、賞与保険料も免除されます。しかし、これだと賞与保険料の免除だけを目的に短期間の育児休業を取得するといった事態が起きかねないため、
2022年10月1日以降は、育児休業期間が1カ月超の場合に限り、賞与保険料が免除
されます。
5 社会保険に加入するパート等の拡大(2022年10月1日施行)
社会保険に加入するパート等とは、
- 週の所定労働時間と月の所定労働日数が正社員の4分の3以上の者
- 週の所定労働時間または月の所定労働日数が正社員の4分の3未満で、一定の要件を満たす者
のいずれかに該当する人です。2022年10月1日以降、2.の要件が変わります。ここでは、便宜上、2.に該当する人を「4分の3未満パート等」とします。
現行の制度では、雇用期間(見込み)の要件が1年以上と長くなっています。また、厚生年金保険の被保険者を一定数雇用する会社のことを「特定適用事業所」といいますが、その規模も被保険者数常時501人以上と、大企業を想定したものになっています。しかし、
2022年10月1日以降、雇用期間(見込み)が2カ月超に短縮され、特定適用事業所の規模も被保険者数常時101人以上
となります。
なお、特定適用事業所については、次のように対象となる会社の規模が段階的に引き下げられる予定なので注意してください。
- 2022年10月1日以降:被保険者数常時101人以上
- 2024年10月1日以降:被保険者数常時51人以上
以上(2021年12月)
(監修 社会保険労務士 志賀碧)
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