書いてあること
- 主な読者:税務調査について知りたい経営者・経理担当者
- 課題:税務調査はどのように始まり、何をされ、どのように終わるのか
- 解決策:調査対象の選定から更正・決定までの流れを解説
税務調査は、会社から提出された申告書などに記載されている金額が正確かどうかを税務署などの職員が判断するために行う一連の調査(証拠資料の収集、要件事実の認定、法令の解釈適用など)です。また、税務調査の一環として、オフィスや工場などに職員が出向いて調査を行うことを実地調査といいます。
一般的に税務調査という場合、この実地調査を指すことが多いですが、この他にも電話や文書での問い合わせ形式による税務調査や反面調査など、納税者と接触しない形で行われる調査も含まれます(「反面調査」については後述)。
以降では、税務調査の全体の流れに沿って、それぞれの手続きを解説していきます。なお、本記事では国税庁、国税局または税務署を「課税当局」、課税当局の職員を「調査職員」、調査を受ける者を「納税者」としています。
2 税務調査の流れ
1)調査対象法人の選定
課税当局は、国税庁のオンラインシステム(KSKシステム)を活用して、データベースに蓄積された法人税の申告内容や各種資料情報などを基に、調査対象の会社を選んでいます。その事務年度(その年の7月からの1年間)における重点調査業種に該当しているかどうかや、業種・業態・事業規模といった観点から分析されます。
これら資料情報には、税法などの法令により提出が義務付けられている給与所得の源泉徴収票や利子等の支払調書の他、税務調査などの際に把握した裏取引や偽装取引に関する情報など、さまざまなものが含まれています。
2)書面添付の有無
税理士が税務代理業務を行い、税理士法第33条の2において規定されている書面(税理士が申告書の作成に関して計算し、整理し、または相談に応じた事項などを記したもの)を添付している場合、納税者への事前通知をする前に、税務代理権限証書(税理士または税理士法人が税務代理する場合に、その権限を有することを証する書面)を提出した税理士にあらかじめ意見聴取が行われます。
この意見聴取によって、調査職員の疑問点が解消されたときは実地調査が省略され、税理士に対し、現時点では調査に移行しない旨、口頭(電話)で連絡されます。一方、実地調査の必要があると認められたときは、事前通知前に税理士に対して、意見聴取結果と実地調査に移行する旨の連絡が行われます。
3)事前通知
税務調査が入るときには、原則として、課税当局から納税者に対して次に掲げる事項の事前通知があります。なお、税務代理権限証書を提出している場合は、顧問税理士に対して通知があります。
実際に実地調査が行われる場合は、事前通知の前段階で日程調整が行われます。
- 実地調査を行う旨
- 調査開始日時
- 調査を行う場所
- 調査の目的
- 調査の対象となる税目
- 調査の対象となる期間
- 調査の対象となる帳簿書類その他の物件
- 調査の相手方である納税者の氏名および住所または居所
- 調査を行う調査職員の氏名および所属官署
- 調査開始日時または調査開始場所の変更に関する事項
- 上記4~7に掲げる事項以外について非違が疑われることとなった場合には、当該事項に関し調査を行うことができる旨
なお、事前通知を行うことを原則としていますが、事前通知なく税務調査が実施される場合もあります。これは、提出した申告書や過去の調査結果の内容、またはその営む事業内容などから、違法や不当な行為の疑いが強く、資料収集が難しい、また調査自体が適正に行えない恐れがあると認められる場合に限り行われるものです。
4)実地調査
1.実地調査とは
実地調査とは、調査職員が会社などで質問検査などを行うことをいいます。調査職員は「質問検査権」を与えられて実地調査が可能になります。ただし、「質問検査権」は、「調査について必要があるときは」と規定されており、納税者は明らかに必要のないとされる質問に対しては、これに応じる必要はありません。
しかし、必要に応じて帳簿書類等の提出が求められたときなど、質問検査権に基づく質問に対して答えない、または偽りの返答をした場合などには、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます。
2.実地調査に必要なもの
実地調査時に必要な帳簿書類や物品には、税法上で備え付け、記帳または保存しなければならない帳簿書類(詳細は後述)の他、調査のため必要と認められるものも含まれます。具体的には、取締役会などの会議の議事録や稟議(りんぎ)書など紙で保管されている証憑(しょうひょう)書類、給与データ、電子メールなどのデジタル記録、金庫や固定資産台帳に記載されている機械装置などの物品も対象となります。
帳簿書類には「仕訳帳、総勘定元帳、その他必要な帳簿」「取引先から受け取った注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類等」「棚卸表、貸借対照表および損益計算書並びに決算に関して作成されたその他の書類」があります。
また、実際の物品なども対象であることから、必要に応じて工場、営業所、支店などで現物確認調査が行われることもあります。
これらの書類や物品はすぐに提出・案内しなければなりません。必要があるときは、調査職員は提出された物品を課税当局の庁舎に持ち帰ることができます。これを「留置き」といいます。留置きは、納税者の理解と協力の下、実施されるものであり、留置きが行われた場合、納税者は調査職員から預かり証を受け取ります。留置きされたものは、留め置く必要がなくなったときに返還されます。また、事業の遂行上の必要性のためなどの理由があるとき、納税者が返還の請求をすることもできます。
5)取引先等調査
取引先等調査とは、いわゆる反面調査のことをいいます。調査職員は、税務調査において必要であると合理的に判断される場合には、取引先や雇用主などに対し、質問や検査等を行うことができます。
6)調査結果説明
実地調査等や取引先等調査の結果、誤り・訂正がある場合等には、調査職員が、納税者に対して調査結果の内容・金額・理由を説明します。なお、法令上は説明の方法が明示されているわけではなく、多くの場合、口頭で行われています。
7)修正申告等の勧奨
調査結果説明の後、調査職員は納税者に対し修正申告または期限後申告(以下「修正申告等」)を勧奨することとしています。課税当局が職権で訂正(更正・決定)することも可能ですが、納税者が自ら理解して是正することが、申告納税制度の趣旨にかなうものと考えられているからです。
8)更正または決定をすべきと認められない旨の通知
実地調査等や取引先等調査の結果、誤り・訂正がない場合等は、課税当局は納税者に対し、その旨を「書面」により通知する必要があります。
9)修正申告等
納税者が自ら、修正申告書または期限後申告書(以下「修正申告書等」)を提出します。納税者は修正申告書等を提出した場合、再調査の請求や、審査請求といった不服申し立てはできません。
10)更正・決定
納税者が調査結果の内容説明に納得せず、修正申告等の勧奨に応じない場合、税務署長は職権で更正又は決定の処分を行います。これに対して納税者は、不服がある場合には、処分の通知を受けた日の翌日から3カ月以内に税務署長に対して再調査の請求をするか、国税不服審判所長に対して審査請求することが認められています。
なお、更正とは期限内に申告した申告書について、誤り・訂正があった場合に税務署の職権で税額等を計算する処分をいいます。一方、決定とは期限内に申告をしなかった者に対して、課税当局の職権で税額等を計算する処分をいいます。
3 実地調査の観点と対策のポイント
実地調査では、帳簿書類の確認などを通じて、法人税法などの法令にのっとって適切に税務処理されているかが調査されます。これは、税務申告書上の計算・転記誤り、記載漏れや故意によるものだけではありません。日常の経理処理のミスや決算手続きの際に漏れてしまった項目なども含まれます。例えば、請求書の発行の締め日が25日だった場合、決算手続きの際、決算月の26日から月末までの売り上げが集計から漏れていたとすると、いわゆる「期ズレ」として、売り上げの計上漏れの指摘を受けることになります。
また、法令上の適否以外に、要件事実の認定という観点からも調査されます。例えば、代表取締役1人で経営している青色申告法人の現金出納帳上の現金残高が200万円、実際の現金残高が10万円と大幅にズレていたとします。この場合、差額190万円について、未精算経費の存在など合理的な説明ができなければ、代表取締役による使い込みとして、いわゆる役員賞与(損金不算入。源泉所得税の納付漏れ)の認定・指摘をされる恐れがあります。
実地調査の対策としては、調査職員の質問に正確に回答できるよう、帳簿書類その他の物件を整理しておくことが肝要です。そのためには、帳簿の記帳や証憑書類の作成・保管、固定資産の管理などの整備を、日ごろから心掛けておく必要があります。また、正確な会計・経理処理の実践も不可欠です。
こうした取り組みは、基本的なことではあるものの、税務調査対策という観点からだけではなく、内部管理体制の充実という観点からも重要なポイントとなります。
以上(2020年8月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)
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