書いてあること
- 主な読者:「ウィズ・コロナ」の環境で戦える組織作りをしたい経営者
- 課題:リモートワークを特別ではなく、当たり前のものとして定着させたい
- 解決策:無駄なコミュニケーションや悪平等をやめ、できる社員が働きやすい環境を整える
1 「ウィズ・コロナ」を勝ち抜くための取り組みとは?
新型コロナウイルス感染症の影響で始まった“半強制リモートワーク”ですが、その後も取り組みを継続する会社は多くあり、足元では56.4%が実施しています(東京都「テレワーク導入率調査結果をお知らせします!3月後半の調査結果」2021年4月2日)。
リモートワークをしている経営者が見据えるのは、ウィズ・コロナに通用する組織作りです。そこで本稿でご提案したいのは、
- 無駄なコミュニケーションを取らない
- 「自前主義」を徹底する
ことです。意外かもしれませんが、
ウィズ・コロナで必要なマネジメントは、異能の者を束ねて機能させる「オーケストレーション」
であり、先の2つの取り組みを行うことで実現できます。その取り組みをご提案していきます。
2 無駄なコミュニケーション不要、外部の知見を吸収し尽くす
1)「できる/できない」のシンプルな違いから目をそらさない
リモートワークで成果を上げられる社員と、上げられない問題社員(以下、便宜上の表現として「問題社員」)の差は、「できる/できない」という非常にシンプルなものです。
- 自分で考えて、仕事を「作れる/作れない(指示待ち)」
- 実際にその仕事が「できる/できない」
- 自分で時間管理が「できる/できない」
- 自分からきめ細かいコミュニケーションが「取れる/取れない」
- 自分の足りない部分を知り、自ら勉強が「できる/できない」
「できる/できない」の差はリモートワークが始まる前からありました。しかし、問題社員でも、出社すれば上司の指示や同僚のフォローが受けられるため“げたを履いた状態”になっていました。ところが、リモートワークが始まってこうしたフォローが受けにくくなり、問題社員の本来の実力が露呈したのです。
ここで、「問題社員のフォローを強化して何とかしよう」とすると、“組織全体の戦闘力”が低下しかねません。自分で考えて動けない問題社員は指示やフォローを待つだけですが、リモートワークにおいてこのコミュニケーションコストは、出社時の比にならないくらい大きいものです。それなのに、できる社員が出社時の何倍もの時間をかけて問題社員のフォローをすると、本来、できる社員が行うべき仕事に時間をかけられなくなり、機会損失が発生します。
2)無駄なコミュニケーションを取らない
リモートワークが定着した組織では、「仕事の進め方を確認する会議」のような、従来は不可欠と考えられてきたコミュニケーションが、最低限しか実現できません。対面で丁寧に説明したとしても、仕事の進め方には認識の相違が生じるもので、いかにオンラインツールを駆使しても、非対面でこまごまとした仕事の進め方を理解し合うのは難しいことなのです。
ですので、コミュニケーションの取り方を工夫して、何とか仕事の進め方を理解し合うのではなく、マニュアルを作成して、コミュニケーションを取らなくてもよい体制にするように考え方を変えるべきです。最近のマニュアル作成ツールでは、写真や動画を使ったマニュアルが簡単に作れます。
会議についても同様です。一応参加はしているが内容を理解しておらず、また理解するつもりもない。ビデオをオフにして会議を休憩時間のように捉えている問題社員は、会議に参加させる必要はありません。これまでの悪平等を撤廃し、やる気のある社員だけが会議に参加するべきです。
なお、誤解のないように補足しますが、
人と人との関係を良くするためのコミュニケーションはたくさん取るべき
です。例えば、“バーチャル雑談ルーム”などは、ぜひとも設置したいものです。
3)自前主義を徹底する
多くの中小企業は、リソースやコストなどの問題から、新しいことを始める際も既存社員で対応します。その結果、「広く浅く」対応できる器用な社員が優遇されますが、我流には限界があるため専門性が高まりません。また、業務の属人化が進み、“筋の悪いブラックボックス”も生まれます。
先に、「無駄なコミュニケーションを減らすためのマニュアル作成」を提案しましたが、これによって自社の社員が行うべき業務と、そうでない業務とが峻別(しゅんべつ)されます。
単なる作業は問題社員に任せますが、秘書代行サービスなどを使って外注することもできます。一方、将来の事業展開に必要で、自社の社員がやるべき業務だが専門性がなくて対応できない場合は、プロ人材の派遣サービスなどを使って専門知識に積極的に触れます。社員の成長スピードを速めるためにも、実務を通じてプロ人材から学び、そのノウハウを徹底的に吸収することに注力するのです。
これはつまり、必要な事業を早期に自社内で行えるようにすることであり、「自前主義」の徹底であるといえます。自社にコアとなる事業が生まれるからこそ、他社との提携も進み、実力のある人材も集まってきます。
3 労働条件の変更は慎重に行う
ここまで紹介してきたことを実行すると、成果主義・役割主義が推し進められます。これはつまり、「何ができるか」によって社員を評価する体制に移行するということです。
一方、多くの日本企業は日本式の能力主義を採用しており、「◯◯ができるはず」という基準で社員を評価しています。日本式の能力主義から成果主義・役割主義に移行すれば、社員の労働条件は変わります。できる社員はより厚遇され、問題社員にとっては厳しい状況になるかもしれません。
労働条件の変更は、これまで以上に慎重に行いましょう。リモートワークだからといって、労働法の解釈が緩和されるわけではありません。それに、対象となる問題社員とのコミュニケーションが取りにくい状況だと、意図せぬトラブルが発生するリスクが高まります。オンラインで賃下げなど労働条件の引き下げを伝えなければならない場合、複数人が参加する、記録を取るといったオフラインの際の基本を徹底します。
また、労働条件の変更では、就業規則や賃金規程、人事考課表などの見直しが必要です。後々のトラブルを防ぐためにも、労働法を遵守して周知しましょう。
4 止める“コロナ離職”と、少し考えたほうがよい“コロナ離職”
いわゆる“コロナ離職”の問題についても触れておきます。コロナ離職には止めるべきものと、少し考えたほうがよいものとがあります。
止めたほうがよいのは、できる社員が転職活動をし、実際に離職してしまうケースです。ただし、人材流動化の流れを止めることはできないため、自社で何とか囲い込もうとするよりも、副業・兼業を認めて引き続きその社員の力を借りつつ、労働市場に出てきた別の人材を獲得したほうが得策かもしれません。
少し考えたほうがよいのは、「自分のやりたいことを見失った」「環境の変化についていけなくなった」などの理由によるコロナ離職です。リモートワークにおける経営者の悩みは、目に見えない企業文化などの価値をいかに浸透・維持するかですが、そもそもこうした理由で退職する社員は、少なくともその時点で企業文化を受け入れていません。であれば、ここで雇用関係を終了したほうが双方のためになるという考え方もあるのです。
5 オーケストレーションが求められる
これまで見てきたように、ウィズ・コロナで通用する組織を作るためには、既存制度をゼロベースで見直していく必要があります。そして、その核心は、属性や能力などが違う異能の者を集め、事業が自動的に動いていく仕組みを整える「オーケストレーション」のマネジメントです。そのために、経営者は以下の視点を持って組織作りを進めましょう。
- 問題社員との関係性を見直す(悪平等を断ち切る)
- 外部コストを恐れずに業務委託を利用する(雇用しなくても、労働力は得られる)
- 事業のオペレーションを見直し、仕組み化を進める(しがらみを断ち切り、徹底的に無駄をなくす。仕組み化には、若手の意見を取り入れる)
これらを進める上で、もう一つ意識しておきたいのが若手の登用です。リモートワークでは、若手を教育する時間が取りにくくなるという問題があります。いかにオンライン教育の仕組みを作っても、リアルでしか感じられないもの、伝えられないものがあります。経営者は意識的に若手を教育し、登用することが大事です。結局、自社の社員で、経営者の考えを理解している元気で優秀な若手が、会社の発展のために不可欠であることを忘れてはなりません。
6 信頼関係のない社員とその家族にご用心?
補足ですが、リモートワークでは社員の家族への配慮も忘れてはなりません。在宅勤務の場合、社員の仕事の様子を家族は見聞きしています。イヤホンなどを使っていなければ、社員の家族が仕事上の会話を全て聞くことができます。経営者や上司と、前提となる関係性がない家族は、自分の家族が上司から叱責されたり、残業を命じられたりすると、ハラスメントであると勘違いする恐れがあります。
社員との関係がしっかりとできていれば、社員自身が誤解であると家族に説明するでしょう。しかし、そうした信頼関係のない社員やその家族は“被害者意識”を膨らませていくかもしれません。リモートワークにおいて、信頼関係が築けていないと感じる社員とその家族は、新たな労務リスクになる恐れがあることを心得ておく必要があります。
リモートワークについては、次のコンテンツも参考になります。ぜひ、ご活用ください。
▶ 00387 リモート時代の人事考課は「できる/できない」を基準に、教育とセットで進める
▶ 00388 リモートに疲れた社員のメンタルヘルスケア。基本を押さえつつ、少し工夫する
以上(2021年6月)
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画像:pixabay