書いてあること
- 主な読者:取引先とのビジネスで注意すべきルールを知りたい新入社員
- 課題:自社のために、取引先に多少の無理をお願いしてもよいのか分からない
- 解決策:自社が有利な立場にあるときほど慎重に進め、相手と良い関係を構築する
今日の商談は違和感があったな〜。こちらが発注する側で有利なんだし、金額とか納期とか、もっと良い条件で進められたはずなのに、なんか先輩は妙に低姿勢だったんだよな……。交渉なんだから、有利に進めば会社の利益につながるはず……うん、やっぱり先輩が相手に気を使いすぎなんだ! 次に私が訪問したときは、もっと攻めていくぞ!
1 取引先に無理なお願いをするのは問題です
仕事ですから、皆さんは取引の際に、自分の会社の利益を優先しなければなりません。ただし、だからといって相手の利益を全く考えないようでは、相手と良い関係を築くことはできません。それに、こちらが有利な立場にあるときほど取引内容に注意しないと、「下請法」という法律に違反してしまうことがあります。
例えば、こちらが仕事を発注する側の場合、下請法では、
- 仕事を発注する側を「親事業者」
- 仕事を受注する側を「下請事業者」
と定義しています。そして、親事業者が下請事業者に無理を強いることがないように、さまざまな義務や禁止事項が設けています。違反すると、公正取引委員会から勧告を受けることがあります。そうなると、会社名が公表されるので、自社の社会的な信用を傷つけてしまいます。
下請法の対象となる取引は、「親事業者・下請事業者の資本金規模」と「取引内容」によって定義されます。例えば、自社が資本金6000万円の機械メーカーだとします。商品の原材料製造を発注する場合、資本金1000万円以下の企業や個人事業主などとの取引が下請法の対象になります。
ちなみに仕事を発注する相手が、個人で事業を行う「フリーランス」の場合は、下請法の他に「フリーランス・事業者間取引適正化等法」という法律が適用されることがありますが、この記事では割愛します。
2 守らなければならない義務と禁止事項
親事業者には、次の4つの義務があります。
- 発注に際して書面を交付する
- 支払期日を定める(受領日から60日以内)
- 業務を委託した場合にその内容などを記載した書類を作成・保存する
- 支払いが遅延した場合は遅延利息を支払う
例えば、「原材料Aについて、来月5日に100個納品してください」と電話のみで発注することは、書面の交付がないので発注に際して書面を交付する義務に反します。また、親事業者には、次の11項目の禁止事項があります。
- 発注した商品の受領拒否
- 下請代金の支払遅延
- 下請代金の減額
- 不当返品(下請事業者に責任がないにもかかわらず返品)
- 買いたたき
- 親事業者が指定する商品の購入強制・利用強制
- 報復措置
- 有償で親事業者が支給する原材料などの早期決済
- 割引困難な手形の交付
- 不当な経済上の利益の提供要請
- 不当な給付内容の変更及び不当なやり直し
例えば、「思ったよりも売れ行きがよくないので、発注時に決めた単価よりも、安く納品してほしい」などは下請代金の減額、「セール時に販売スタッフが足りないので、(無償で)応援に来てください。無理な場合は取引を中止します」などは、不当な経済上の利益の提供要請に該当します。
3 インボイス制度にもご用心!
「インボイス制度」にもご用心。非常に簡単に説明すると、次のような制度です。
- 消費税は、預かった消費税から支払った消費税を差し引いて納税額を計算します。この支払った消費税を差し引くことを仕入税額控除という
- インボイスに対応していない相手に支払う消費税は仕入税額控除の対象にならない
例えば、預かった消費税が100万円、支払った消費税が90万円であれば、10万円の消費税を納付することになります。
納税額は10万円:100万円−90万円
ところが、支払った消費税90万円のうち、インボイスに対応していない取引先に支払ったものが50万円だとすると、次のようになります。
納税額は60万円:100万円−40万円
相手がインボイスに対応していないと、これまでよりも消費税の負担が大きくなります。こうした仕組みを知っていれば、インボイスに対応していない相手に、
- 皆さんの会社の負担増になる消費税分の値下げ要請をする
- インボイスに対応するように強く依頼する
といったことをしたくなりますが、これは下請法などに違反する恐れがある行為です。ビジネスを有利に進めたいのは当然なのですが、いろいろと難しい問題があるので、皆さん、ご注意ください!
以上(2025年1月更新)
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画像:Mariko Mitsuda