書いてあること

  • 主な読者:源泉徴収事務を行っている経理担当者
  • 課題:取引の内容や、相手によって源泉徴収が必要かどうか迷うことが多い
  • 解決策:源泉所得税の基本を押さえた上で、フリーランスと業務委託した場合や副業を認めた場合などの取り扱いを解説

源泉徴収とは、会社がフリーランスに報酬を支払ったり、社員に給料を支払ったりする際に、その金額に応じた所得税等(所得税及び復興特別所得税)を差し引き、本人に代わって国に納めなければならない制度です。この差し引かれる所得税等を源泉所得税といいます。

社員・契約社員・外国人社員、フリーランスなど、企業が労働力を確保する方法が多様化しています。それに応じて源泉徴収のルールも違ってくるため、源泉徴収事務にもミスが出やすくなっています。源泉所得税の基本を押さえた上で、具体的に見ていきましょう。

1 源泉所得税とは~現場担当者の迷いどころ~

1)源泉徴収は会社の義務

源泉徴収は、給与や報酬を支払う側(会社側)の義務です。源泉徴収した所得税等は、原則、報酬等を支払った月の翌月の10日までに国に納めなければなりません。もし、納付漏れが生じた場合、罰則を科せられるのは源泉徴収義務者となります。

2)給与に係る源泉徴収税額表にある3つの欄~甲・乙・丙欄の違い~

会社が社員らに支払う給与から徴収する源泉所得税額は、国税庁「源泉徴収税額表」を使用して、決めていきます。まず、月額払いの場合には月額表を、日当払いの場合には日額表を使用します。いずれの表にも、「甲」「乙」欄があり、日額表にはこれに「丙」欄が追加されます。それぞれの欄には、次のような意味があります。

  • 甲:「給与所得者の扶養控除等申告書」の提出があった人が当てはまります。具体的には、その従業員にとって、その会社が主たる給与の支払先である場合が該当します。
  • 乙:「給与所得者の扶養控除等申告書」の提出がない人が当てはまります。具体的には、その従業員が2カ所以上の事業所から給与をもらっていて、自社以外の者に「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出している場合が該当します。
  • 丙:日雇い労働者や雇用期間が2カ月以内の短期雇用者が該当します。

なお、年末調整ができるのは「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出した甲欄が適用される人だけとなります。

3)ミスの多い報酬・料金等に係る源泉徴収

源泉徴収事務の中でミスが生じやすいのは、報酬・料金等に係る源泉徴収です。報酬・料金等は、給与のように毎月(または毎日)定期的に発生しないものが多く、また、通常の取引の中で発生するため、請求時に個々の判断が必要です。報酬・料金等の源泉徴収が必要なのは、日本国内に住所があるか、または現在まで引き続き1年以上居住している個人(以下「居住者」)に対して、次の支払いがあった場合です。 

  • 原稿料・講演料など
  • 弁護士、公認会計士、司法書士等の特定の資格を持つ人に支払う報酬・料金
  • 社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬
  • プロスポーツ選手やモデル、外交員などに支払う報酬・料金
  • 芸能人や芸能プロダクションを営む個人に支払う報酬・料金
  • コンパニオンやホステスなどに支払う報酬・料金
  • プロ野球選手の契約金など、役務の提供を約することにより一時に支払う契約金
  • 広告宣伝のための賞金や馬主に支払う競馬の賞金

4)源泉所得税の納期の特例

所得税等の納付は、原則、給与等を支払った月の翌月10日までに所定の納付書により、所轄の税務署へ納付しなければなりません。

しかし、給与等の支給人員が常時10人未満である場合には、1~6月に徴収した所得税等を7月10日までに、7~12月に徴収した所得税等を翌年1月20日までの年2回に納付回数を少なくすることができます。この特例を受けるには、「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を税務署に提出しなければなりません。そうすると、申請書を提出した月の翌月に支払う給与等から、適用することができます。

ただし、対象となるのは、給与や退職金から源泉徴収をした所得税等と、弁護士・税理士などの一定の報酬から源泉徴収をした所得税等に限られており、原稿料や講演料などに係る源泉所得税等は納期の特例の対象となっていません。対象外の源泉所得税については、原則通り支払った月の翌月10日までの納付となります。

2 ケース別の源泉所得税の取り扱い

1)契約社員を採用した場合

契約社員の給与や賞与(以下「給与等」)は、正社員と同様の取り扱いになります。給与等から源泉所得税を徴収するに当たり、雇用契約の違いにより区分することはありません。

2)外国人を採用した場合

外国人が居住者と非居住者(居住者以外の個人)のどちらに該当するかにより取り扱いが異なります。

日本へ入国した日の翌日から1年以上居住していること、もしくは継続して1年以上居住することを通常必要とする職業に就職したことを満たしている外国人は「居住者」に該当します。その場合は、日本人の他の社員らと同様に、源泉徴収税額表を使用して求めた所得税等を徴収します。

それ以外の者は「非居住者」に該当し、税率20.42%で所得税等を徴収します。ただし、出身国との租税条約により課税関係が変わる場合もあるので注意が必要です。なお、租税条約の有無や、要件などの判断は複雑なため、税理士など専門家に相談するようにしましょう。

また、採用時に記載してもらう「給与所得者の扶養控除等申告書」に日本国外に居住する親族を含める場合は、その者と生計を一にする証明書として「親族関係書類」及び「送金関係書類」を添付する必要があり、その書類が外国語で作成されているときは翻訳文も添付する必要があります。

もちろん、入管法に違反しないようにパスポート及び在留資格の確認は必ずしておきましょう。なお、採用後不法就労が判明した場合でも、その者への給与からは源泉徴収をしなければなりません。

3)個人(フリーランス)と業務委託した場合

業務委託の内容が前述の報酬・料金等に該当する場合は、所定の税率(報酬・料金等の種類により異なる)により源泉徴収します。なお、報酬・料金等には、ホームページや会社ロゴ作成に伴うデザイン料、翻訳や通訳の料金、建築士の業務報酬なども該当します。個人(フリーランス)に対して支払いが生じるときは、都度源泉徴収が必要かどうかを確認するようにしましょう。また、その業務委託が実質の雇用とみなされる場合は、報酬・料金等ではなく、給与として取り扱われます。なお、雇用契約とは使用者の指示に従い業務を遂行することに対して、業務委託とは委託者から独立して、受託者(本ケースでは、個人・フリーランス)の判断により業務を進めていく点が異なります。

4)副業を認めた場合

副業を認めた場合においては、「給与所得者の扶養控除等申告書(以下「扶養控除等申告書」)」の提出の有無がポイントになります。

副業をしている社員にとって、自社の仕事が本業である場合は、自社に扶養控除等申告書を提出します。この場合、源泉徴収税額表の甲欄を適用します。一方、自社の仕事が副業である場合は、他社に扶養控除等申告書を提出しており、自社には提出することができません。そのため、乙欄を適用することになります。なお、社員自身がいずれの会社にも扶養控除等申告書を提出することのないよう、副業に許可を出す際には、確認が必要です。

以上(2020年8月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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画像:photo-ac

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