中堅社員のAさんが勤める会社では、「働き方改革」の一環として、いわゆる「5S」を推進しています。しかし、大ざっぱな性格のAさんは、整理整頓がとても苦手です。Aさんのデスクは常に書類が山積みで、パソコンのデスクトップもファイルが散乱しています。
ある日、課長がAさんに言いました。
「昨日Aさんに渡した資料が見当たらないんだが、キャビネットに戻してくれた?」
焦ったAさんは、ガシャガシャと書類をかき分けながら資料を探し始めましたが、なかなか見つかりません。あきれた課長は、「見つかったら持ってきてね。整理整頓しないと書類をなくすよ!」と言って、立ち去ってしまいました。
残されたAさんは、心の中で思っています。
「整理整頓が大切なのは分かっているけど、忙しいから仕方がない! 仕事で成果を上げればいいんでしょ!!」
整理整頓は仕事の一環
まず理解したいのは、オフィスは「公の場所」であるということです。そこで働く以上、同僚などに不快感を与えないように、整理整頓するのは最低限のマナーです。
しかし、「売上が先、整理整頓は後!」といったように、この点を理解していない人がいます。「ビジネスなのだから、整理整頓をしなくても、仕事で成果を上げればよい!」と考えているわけですが、これは正しいとはいえません。整理整頓ができていないと、以降で紹介するようなマイナスポイントがあります。
3つのマイナスポイント
1)相手に不信感を抱かれる
デスクの整理整頓ができない社員は、パソコンやかばんの中も散らかっています。目の前でノートパソコンの中のファイルを探していたり、かばんの中の名刺入れを探していたりするような人が、相手から信頼を得ることは難しいでしょう。
2)コストをムダにする
整理整頓が苦手な社員は、コスト感覚も欠如しています。整理整頓ができておらずに会社の備品をなくした場合、会社のコストをムダにしています。また、デスクやパソコンのファイルなどが散らかっていると、本来は必要のない探し物をする時間が生じます。ビジネスパーソンが探し物をする時間は、年間150時間といわれますが、整理整頓ができていない社員はもっと長くなります。
仮に時給4000円とすると、その社員が150時間探し物をする場合の人件費は年間60万円です。探し物をしている間、別の社員を待たせることもあるため、ムダなコストはこれよりも大きくなります。
3)情報の漏洩、紛失
整理整頓されていないと、情報の漏洩や紛失が起こりやすくなります。例えば、パソコンのファイルが整理されていないと、メールの添付ファイルを間違えてしまうことがあります。もし、他社の営業情報や個人情報が記載されたファイルを誤って送ってしまったら、取り返しがつきません。
こうしたリスクを知っている上司は、部下に整理整頓を指示します。実際、デスクやパソコンを整理していくと、意外に不要な書類やファイルが多く、「なんで、とっておいたんだっけ?」と思うものがあるはずです。その気になれば、どんどん捨てられます!
書類の分類でトレーニング
仕事で成果を上げるために、整理整頓が大切であることはお分かりいただけたと思います。では、整理整頓が苦手な人はどうすればよいのか、そのヒントを紹介します。
1)処分する癖をつける
まず、面倒がらずに書類やファイルを処分する癖をつけましょう。捨てるかどうか迷うものは、一時保存の場所を確保し、しばらくたっても使わなければ、捨ててしまうとよいでしょう。
2)書類とファイルの保管方法
紙の書類を、次から次へと積み重ね続けるのはやめましょう。書類を種類別に整理すべきファイルを作って、そこに入れるようにします。そもそも、紙の書類は廃止していくのが好ましいかもしれません。
また、パソコンにあるファイルについては、ファイル名のルールを決めましょう。少なくとも「日付、内容、作成者」が明らかになるようにします。また、これらの要素の順番も統一します。
整理整頓も仕事の1つ
整理整頓ができない上司の部下は、上司に似て整理整頓ができなくなります。中堅社員にも部下がいるはずですが、整理整頓は部下指導の一環でもあります。
そのため、中堅社員は、自身はもちろん、部下や同僚にも整理整頓をするように働きかけましょう。会議室などの共用スペースについても、整理整頓を心がけると理想的です。こうした姿勢が部下に伝われば、仕事を整然とこなす強いチームを作ることができ、結果として生産性が向上していきます。
Point
- オフィスは「公の場所」である。自分のデスクなどはもちろん、共用スペースも整理整頓をしよう。
- 生産性の向上につながる!
以上(2019年8月)
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画像:Eriko Nonaka