現在の時刻は17:45。営業を担当する中堅社員のAさんは、本日18:00までに企画書をクライアントにメールで送ることになっています。しかし、現段階で、企画書は70%の出来です。
そこでAさんは、先方にリスケジュール(以下「リスケ」)をお願いしようと電話をしました。その際、納期遅れの後ろめたさからつい焦り、次のように言ってしまいました。
「18:30までに必ず提出します」
70%の出来の企画書が18:30までに終わるはずもなく、再びリスケをお願いする羽目になりました。結局、企画書を提出できたのは23:00でした。念のためとクライアントに電話してみましたが、既に営業終了を伝える自動アナウンスに切り替わっていました。
翌日、Aさんから一連の報告を受けた上司は言いました。
「なぜ、もっと早くクライアントに連絡して適切な時間にリスケしなかったの?」
中堅社員に求められる“リスケ力”
時間厳守は理屈抜きのルールです。ビジネスで時間にルーズな人は、決して信用してもらえません。
一方、ビジネスではさまざまな要因によって、スケジュールが変更されます。時間厳守が前提ですが、正当な理由によるリスケは織り込み済みであるということです。
注意が必要なのは、どのような理由があるとはいえ、リスケによって一度約束した時間が変更されるため、“まずい”リスケをすると、相手の信頼を失い、関係を悪化させてしまうことです。中堅社員には、トラブルなくリスケを行う“リスケ力”が必要です。
“まずい”リスケの典型例
“まずい”リスケの典型例を確認していきましょう。「あぁ~、やったことがある」と心当たりのあるリスケはないでしょうか?
1)時間に鈍感な人の「俺様リスケ」
ビジネスは、関係者が時間を分け合いながら進めるものです。この基本を理解せず、時間の価値を軽んじる人は、簡単なメールだけで気軽にリスケをします。リスケをされた相手がスケジュール変更を余儀なくされ、手待ち時間が生じることをイメージできないのです。
こうした自分勝手な「俺様リスケ」に対して、相手は“大人の対応”をしてくれるかもしれませんが、信頼関係は確実に損なわれています。
2)“ビビり”な人の「自作自演リスケ」
“ビビり”な人は、リスケする自分を過度に責める傾向があり、必要以上に相手に気を使います。その結果、冒頭のAさんのように、自分で自分を苦しめるような、できもしないリスケを申し出てしまいます。
結局、リスケしたスケジュールも守れずに何度もリスケをお願いするという、「自作自演リスケ」に陥ります。一見、丁寧なように見えますが、相手にとっては、何度もリスケをされて迷惑です。
情報を集め、素早く、丁寧に
- 「リスケの申し出は、その可能性が高まった時点で速やかに」
言うは易しで、これを実行するには、ビジネスの計画と、その遂行を妨げる要因が生じていないか(生じる恐れがないか)をチェックしておかなければなりません。
そこで、中堅社員は部下を巻き込んで、仕事に関する情報が自分のところに集まってくるようにしましょう。集まってくる情報は、部分的・断片的で、バイアスもかかっています。その情報をいかに適切に処理するかが、中堅社員の腕の見せどころです。
リスケが確定したら相手に新しいスケジュールを伝えます。その際、焦って連絡せず、もう一度状況を確認しましょう。最近は、メッセンジャーなどのツールで手軽に相手と連絡がとれるため、考えがまとまっていない状態で用件を伝えてしまいがちですが、リスケの場合は慎重にならないと、「俺様リスケ」や「自作自演リスケ」になってしまいます。
“相手ありき”を忘れない
リスケは、「確実に実現できる最も早い時間」とするのが基本ですが、これも相手の状況次第です。例えば、当日の23:00であれば確実に企画書を提出できるとしても、それはあくまでこちらの都合です。相手からしてみれば、当日の18:00に間に合わないなら、翌朝の9:00でも同じことかもしれません。それに、「働き方改革」が進む今、遅い時間に連絡をするのは、相手にも迷惑ですし、こちらの状況も“透けて見える”ことになってしまいます。
一方、少し違った見方をすれば、リスケを当日の23:00とするのがよいのか、翌朝の9:00とするのがよいのかを、その場で考えているようではいけません。中堅社員には、事前に「自社が企画書を提出した後、相手はどのように動くのか?」を把握しておき、それに適した対応が求められます。「次工程はお客様」という言葉がありますが、文字通り、リスケをする際は次工程を考えることが大切です。
ビジネスを成功させる「良いリスケ」
最後に、リスケには「良いリスケ」もあることを、中堅社員は覚えておきましょう。「良いリスケ」とは、双方の利益を高めるために必要な時間を見込んだリスケです。例えば、「もう少し周囲の状況を把握・調整してから動いたほうが、お互いに進めやすくなる」といった場合です。
「良いリスケ」をする必要が生じたら、その理由を相手にきちんと説明し、相談をしてみましょう。タイミングさえ間違わなければ、これは「提案」の一環でもあるのです。
時間厳守は理屈抜きのビジネスのルールですが、「良いリスケ」もまた、ビジネスを成功させるために必要なものなのです。
Point
- 時間厳守がビジネスの基本。しかし、一定のリスケはやむを得ない。
- 相手のことを考えて丁寧にリスケすること!
以上(2019年8月)
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画像:Eriko Nonaka