書いてあること
- 主な読者:プラスチックをビジネスで使用している経営者
- 課題:環境対策のために脱プラスチックを図りたい
- 解決策:環境に優しいバイオプラスチックへの代替を検討する。ベンチャー企業などで商品化の動きも進んでおり、政府の導入推進と動きも含めたトレンドを把握する
1 SDGs達成に不可欠なバイオプラによる「脱プラ」
かつて「夢の素材」といわれたプラスチックは、今では海洋汚染や二酸化炭素排出の元凶となり、廃プラスチックの「3R(リデュース、リユース、リサイクル)」が地球環境問題の重要テーマとなっています。しかし、年間3億6800万トン(2019年)も生産されるという全てのプラスチックを3Rだけでカバーするのは現実的ではありません。また、焼却して「熱回収」しても二酸化炭素の排出問題は解決されません。
こうした中で注目されているのが、
生物由来の原料や、自然に分解される性質を持った代替素材「バイオプラスチック」
です。既存のプラスチックと比べてまだ割高ですが、世界的な地球環境問題への関心の高まりに伴い、普及への動きが急速に進んでいます。世界では、
2022年のバイオプラスチック製品の生産能力は、2021年の2倍近くに増強される
との推計もあります。国内でも、ベンチャー企業なども含めた民間企業が商品化を進めており、政府も積極的に利用を推進しています。
国連が提唱するSDGs(持続可能な開発目標)の中でも、バイオプラスチックの普及は「12つくる責任 つかう責任」「13気候変動に具体的な対策を」「14海の豊かさを守ろう」などに深く関連しています。この記事を通じて、バイオプラスチックの普及に向けた官民の動きをチェックし、「脱プラ」を検討してみてください。
2 バイオプラスチックの現在の普及状況
1)生分解性は海水での分解、バイオマスは非可食素材が開発テーマに
バイオプラスチックには2種類あります。1つは、
微生物によって最終的に水と二酸化炭素に分解される生分解性プラスチック
で、もう1つは、
生物由来の再生可能な原料で製造されるバイオマスプラスチック
です。生分解性プラスチックの中には生物由来でないものもありますが、バイオプラスチックと総称されます。2種類のバイオプラスチックは、製品の用途や処分(リサイクル)方法によって使い分けされます。
同じ生分解性プラスチックでも、素材によって分解の条件が異なります。分解される条件が最も限定されている一方、開発が一番簡単なのが、専用のコンポストに入れると分解される素材です。次いで土の中で分解される素材、淡水で分解される素材が続き、最も開発が難しいのが、微生物の少ない海水でも分解される素材です。
バイオマスプラスチックに関しては、とうもろこしなどを原料とした可食性の素材と、植物残渣(ざんさ)など非可食性の素材に分けることができます。将来的な食料問題を想定し、非可食性の素材を開発する動きも進んでいます。
2)バイオプラスチックの生産量
欧州のバイオプラスチック製造業者などで構成される「ヨーロピアンバイオプラスチックス」によると、2021年の世界のバイオプラスチック製品の生産能力は241万7000トン(生分解性プラスチック155万3000トン、バイオマスプラスチック86万4000トン)でした。2022年には471万9000トン(生分解性プラスチック369万4000トン、バイオマスプラスチック102万5000トン)へとほぼ倍増し、2026年には759万3000トン(生分解性プラスチック529万7000トン、バイオマスプラスチック229万7000トン)へと3倍以上に増加するとの見通しとなっています。
日本バイオプラスチック協会によると、国内では2019年のバイオプラスチックの出荷量の推計(原料別)は、生分解性プラスチックが4300トン、バイオマスプラスチックが4万2350トンで、合わせて4万6650トンとなっています。日本プラスチック工業連盟が公表した2019年のプラスチック原材料生産実績の約1051万トンと比較すると、約0.44%に相当します。
3 商品化が進むバイオプラスチック
最近は地球環境問題への関心の高まりもあって、ベンチャー企業などを中心に、バイオプラスチックの商品化が進んでいます。一部を紹介します。
1)植物に多量に存在する「ヘミセルロース」を活用
事業革新パートナーズは、細胞壁など植物の成分の約20%を占める多糖類「ヘミセルロース」を原料とした生分解性プラスチックを開発しました。ヘミセルロースは、摂氏27度の海水で90%の生分解率があるのが特徴です。
東日本旅客鉄道(JR東日本)のベンチャー子会社とともに、福島県の鉄道林の間伐材から抽出したヘミセルロースを原料にしたタンブラーを製造しました。
2)海水での生分解率を向上
ダイセルは、植物由来のセルロースと酢酸を原料とした生分解性プラスチック「酢酸セルロース」の海水での生分解率を、従来の2倍に高めました。2021年8月には、海洋生分解性を証明する国際認証「OK biodegradable MARINE」を取得しています。
ダイセルは後述のネクアスと共同で、食品容器や包装資材などの製品開発を進めています。
3)竹を主原料としたストローの国内生産を開始
アミカテラは植物繊維を主原料に、でんぷんや植物由来の天然樹脂を使ったバイオプラスチックを開発しました。植物繊維は、植物残渣や農業廃棄物などからも抽出でき、独自開発した機械で粉砕をして加工します。
海水での生分解も可能といいます。2021年10月からは、竹を主原料としたストローの国内生産を開始しました。
4)木粉を複合したウッドプラスチックを商用可能に
アイ-コンポロジーは、木粉とプラスチックの複合材であるウッドプラスチックを、耐熱性が求められる射出成形も可能な素材に改良しました。これにより、プラスチック製品の量産に適し、コスト面でも商業的に活用できるようになったといいます。
また、東京都立産業技術研究センターと共同で、海水での生分解性を高めた生分解性プラスチック樹脂を開発しました。サトウキビと石油を使ったポリマーと植物粉を混ぜています。
5)独自開発の添加剤で既存のバイオプラスチックを進化
バイオワークスは、耐熱性や成形性で難点のあったバイオプラスチック「ポリ乳酸」に、独自に開発した植物由来の添加剤を5%加えることで、耐熱性や強度を向上させることに成功しました。他のバイオプラスチックと比べてコスト面で優位にあり、生分解も可能といいます。
6)卵の殻やコーヒーかすなどからバイオプラスチック製品を製造
プラント設備などを行う三和商会のグループであるネクアスは、石油由来のポリマーに、卵の殻、米、木粉、貝殻、灰、コーヒーかすなどを高充填したバイオプラスチック製品を開発しています。顧客の要望によって充填する素材を変えることも可能です。
7)米どころ新潟で古古米を使った製品を開発
新潟県上越市にあるバイオポリ上越は、古古米などを使ったバイオマスプラスチックを開発しました。もみ殻や木くず、貝殻でも製造が可能です。米由来の製品では、プラスチック樹脂の他、ごみ袋やうちわ骨なども製造しています。
この他、新潟県南魚沼市に工場があるバイオマスレジンホールディングスも、食用に適さない古米や、米菓メーカーなどで発生する破砕米などを混ぜたバイオプラスチックを開発し、スプーン、おちょこ、レジ袋などを販売しています。
8)再製品化までのサービスを提供
カミーノは、ポリ乳酸に紙を複合させて耐熱性や耐久性、成形性を改良したプラスチック製品を開発しました。主に飲食店や公共施設など向けに、タンブラー、カップ、トレーを販売しています。生分解も可能ですが、製品を回収して再製品化するサービスも行っているのが特徴です。顧客が回収した古紙を使って製品を製造することも可能といいます。
個人向けにはタンブラーを販売しています。
4 バイオプラスチックの普及に向けた政府の取り組み
2021年1月に環境省、経済産業省、農林水産省、文部科学省が合同で策定した「バイオプラスチック導入ロードマップ」によると、既存のプラスチックと比べたバイオプラスチックの製造コストは、生分解性プラスチックが約2~5倍、バイオマスプラスチックが約1.5~3倍です。まだまだ価格面では既存のプラスチックに劣っていることから、現時点でのバイオプラスチックの普及に向けた動きは、「官主導」の側面が強いといえます。この章では政府の取り組みを紹介します。
1)2030年までにバイオマスプラスチックを約200万トン導入
消費者庁など9省庁が2019年5月に策定したプラスチック資源循環戦略では、2030年までにバイオマスプラスチックを最大限(約200万トン)導入するよう目指すことを掲げています。これに基づき前述の通り2021年に環境省、経済産業省、農林水産省、文部科学省が合同で、「バイオプラスチック導入ロードマップ」を策定しています。
また、内閣府の「統合イノベーション戦略推進会議」が2021年1月に策定した「バイオ戦略2020(市場領域施策確定版)」では、「バイオプラスチック」を9つの市場領域の1つに指定しました。市場規模目標として、高機能バイオ素材などを含めた2030年の市場規模を41.4兆円(2018年は23.1兆円)に引き上げると設定しています。
さらに、経済産業省による産業構造審議会のバイオ小委員会が2021年2月に取りまとめた報告書では、今後、バイオプラスチックであることが分かる新たな表示制度の導入を進めることや、バイオ由来製品の開発・利用企業の中で、先進的・独創的な取り組みを行った企業の表彰制度を創設するとしています。
2)プラスチック資源循環法が施行
2022年4月、プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(プラスチック資源循環法)が施行されます。プラスチック製品の設計から廃棄物処理まで、プラスチック製品の資源循環などの取り組みを促進させるための法律です。
同法によって、バイオプラスチックなど代替素材の活用など、環境に配慮したプラスチック使用製品の設計指針が策定されます。設計指針に適合した製品は、国から認定を受けることができます。
3)グリーン購入法にバイオプラスチックを追加
2019年度から、政府は環境負荷が低い製品やサービスの購入を推進する「グリーン購入法」の対象に、バイオプラスチックを追加しています。プラスチック資源循環戦略に基づいたもので、2019年度、2020年度の見直しに伴い、バイオプラスチックに関する基準を定めたものは、重点的に調達を推進すべき環境物品等(特定調達品目(275品目))のうち37品目となりました。2021年度には、ごみ袋等の植物を原料とするプラスチックの含有率の引き上げなどを行っています。
グリーン購入法に基づいた製品やサービスの購入は、国などの機関は義務、地方公共団体などは努力義務とされています。公的機関などのバイオプラスチックの需要の拡大によって、バイオプラスチックの製造コストの低減につながることが期待されます。
以上(2022年2月)
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画像:pixabay