書いてあること
- 主な読者:PL法への対応が必要な製造業者や輸入業者
- 課題:PL対策として何に取り組むべきか分からない
- 解決策:本稿では、製品事故の未然防止、保険への加入などを取り上げるので、これらを参考に対策を行う
1 PL法の概要
「製造物責任法」(以下「PL法」)は、製造物の欠陥により人の生命、身体または財産に係る被害が生じた場合にメーカーや輸入業者の損害賠償の責任について定めた法律です。
PL法の特徴は、被害者の円滑かつ適切な救済を行うため、企業に過失がなくても製品に欠陥があれば賠償責任を負わせるという点にあります。すなわち、被害者である消費者が救済されやすくするとともに、企業には製品の安全性確保のための努力を促す法律であるといえます。
1)製造物
PL法では、製造物を「製造又は加工された動産」と定義しています。一般的には、工業製品を中心に、人為的な操作や処理がなされた動産を対象とします。未加工の農林畜水産物や不動産、電気やソフトウエアなどの無体物はPL法に定める製造物には該当しません。
2)欠陥
PL法でいう欠陥とは、「当該製造物に関するいろいろな事情(判断要素)を総合的に考慮して、製造物が通常有すべき安全性を欠いていること」をいいます。安全性に関わらないような、単なる品質上の不具合はPL法が定める欠陥には該当しません。
欠陥の類型としては、次の3つがあります。
- 製造上の欠陥(製品の製造過程で粗悪な材料が混入したり、製品の組み立てに誤りがあったりなどの原因により、製品が設計・仕様通りに作られず安全性を欠くような場合)
- 設計上の欠陥(製品の設計段階で十分に安全性に配慮していなかったために、製造される製品全体が安全性に欠ける結果になるような場合)
- 指示・警告上の欠陥(有用性ないし効用との関係で除去し得ない危険性が存在する製品について、その危険性の発現による事故を消費者側で防止・回避するに適切な情報を製造事業者等が分かりやすい方法で与えなかったような場合。表示や取扱説明書中に、指示や警告が適切に示されているかどうかも考慮されます)
3)製造業者等
PL法でいう製造業者等とは、製造物の製造業者、加工業者、輸入業者、および製造物に氏名などを表示した事業者を指し、単なる販売業者は原則として製造業者等には該当しません。ただし、販売業者であっても、OEM製品やプライベートブランドのように、販売業者の名前が前面に出ており、販売業者への信頼によって消費者の商品選択が行われるような場合には、その販売業者はPL法に定める製造業者等に該当します。
また、販売業者の名前が製造物に記載されていなかったとしても、実際の製造業者の名前を出さずに、販売業者が自社の名前で広告を展開するような場合は、販売業者は製造業者等に該当します。こうしたケースは医薬品などでよく見られます。
4)賠償責任
製造業者等が賠償責任を負うのは、製造物の欠陥により、人の生命、身体に被害をもたらした場合や、欠陥のある製造物以外の財産に損害を与えた(拡大損害が発生した)場合です。欠陥のある製造物のみの損害にとどまった場合は、PL法の定めによる賠償責任は発生しません。
5)免責
製造物の欠陥による拡大損害が発生した場合でも、製造業者等が賠償責任を免責される2つの場合が規定されています。
1つは、製造物の引き渡し時点の科学技術の水準では製造物に欠陥があることが分からなかった場合です。これは例えば、製造当時は危険はないとされていた物質が、後になって発がん性を持った物質であることが判明した場合などがあります。
もう1つは、部品・原材料の製造業者等において、その部品・原材料を組み込んだ製造物の製造業者等の指示に従ったために欠陥が発生した場合で、部品・原材料の製造業者等に過失がなかった場合です。この場合、部品・原材料の製造業者等は免責となります。
例えば、下請け業者が、納入先からの規格や仕様などの指示に従って部品を製造したものの、指示に誤りがあったために欠陥が発生する場合などがあります。この場合、下請け業者は免責となります。ただし、下請け業者が、指示に誤りがあることに気付いていながらその誤りを指摘しなかった場合などは、下請け業者に過失があったとして賠償責任を負わされる可能性があります。
免責事由は上記の2つですが、いずれの場合も、免責事由に該当することを製造業者等が立証しなければなりません。
6)民法の適用
安全性に関わらない不具合はPL法に定める欠陥に該当しないため、そうした不具合があってもPL法に基づく賠償責任は発生しません。また、製造物に欠陥があったとしても、拡大損害が発生しなかった場合はPL法に基づく賠償責任は発生しません。
ただし、これはあくまでPL法に基づく賠償責任がないというだけで、こうした場合には民法の瑕疵(かし)担保責任(2020年4月以降は契約不適合責任)、債務不履行責任、不法行為責任に基づいて賠償責任が発生する場合があります。
2 PL法への対応
1)製品事故の未然防止
PL法への対応としてまず考えるべきことは、製品の欠陥をなくし、製品事故を未然に防ぐための対策を講じることです。前述の通り、PL法でいうところの「欠陥」には、製品自体の欠陥だけでなく、指示・警告上の欠陥も含まれます。そのため、製品事故の未然防止を考える際には、その両面から考える必要があります。
1.製品の安全性向上
製品自体の安全性を向上させるべく、設計・製造段階において対策を講じます。その際に留意すべき点は次の通りです。
【設計段階】
- 技術開発、および安全性試験の強化を進める
- 販売店や消費者の意見を反映させるシステムを確立する
- 自主基準を更新し、高度化を図る
【製造段階】
- 製造マニュアルの見直しを含め、製造工程の改善を図る
- 外部機関を活用する(民間機関による自主的な認証制度の導入)
- 企業間の協力体制を整備する(親企業と下請け企業、部品・原材料や産業用機械のメーカーとユーザー、メーカーと販売業者などの企業間や業界単位で安全性チェック体制を整備)
2.表示・取扱説明書の充実
製造物の取り扱いについて消費者に情報を伝達し、誤使用などによる事故の防止を図ります。その際に留意すべき点は次の通りです。
- 取扱説明書の内容をより一層分かりやすいものにする
- 危険レベル(危険、警告、注意)の表示などに統一的な基準を導入する
- 表示事項の優先度、内容および表示方法の見直しを図る
- 過去の事故やクレームを参考にする
2)社内体制の構築
製品自体の安全性向上に取り組むとともに、安全性確保に向けた社内体制の構築・整備も重要です。社内体制の構築に当たっては、経営者が自ら先頭に立ち、PL対策への取り組みを推進しなければなりません。その際に留意すべき点は次の通りです。
- 社員教育を徹底し、製品の安全性を重視する社風を作り出す
- 製品の技術開発、安全性試験の強化を図る
- 部品や原材料の品質管理を徹底する
- PL対策部門の設置および専任スタッフを任命する
- 検査記録などの文書の管理をしっかり行う
- 消費者のクレームなどを迅速に処理するため、紛争解決体制を整備する
3)保険への加入
細心の注意を払っていても、事故が発生する可能性はゼロにはなりません。万一事故が発生した場合、企業は多額の費用負担を強いられる恐れがあり、それを回避するための手段として、保険の加入があります。
損害保険会社や商工会議所などでは、製造物責任を補償する保険を取り扱っています。
3 輸入業者とPL法
1)輸入業者の責任
製造業者とともに輸入業者もPL法において責任主体となっています(PL法第2条)。この規定の趣旨としては、次の事項が挙げられます。
- 輸入業者は日本国内における最初の流通開始者または製品供給者である
- 輸入業者は日本国内の規制を受ける最初の事業者である
- 外国の製造業者の責任を問うことが実質的に困難である
例えば、商社が米国から玩具を輸入し、国内の流通業者を通じ全国で販売したとします。その玩具に設計上の欠陥があり、玩具を使用していた子供がけがをした場合、商社はPL法の規定に基づき賠償責任を負います。
輸入業者も事故発生の際、製造物責任を負う可能性があることから、製造業者同様、PL法への対策が求められています。
輸入業者は、輸入業者固有のものとして次のような対策を講じる必要があります。
2)製造業者のPL対策の確認
輸入した製品を国内で販売する場合、製造業者がどのようなPL対策を講じているかを確認することが重要です。その際の確認方法として、次に挙げる資料を製造業者から入手するなどしておくとよいでしょう。
- 製品の設計図・仕様書
- 各種安全基準の認定証
- 製造工程表
- 取扱説明書・警告表示
- クレーム処理マニュアル
- PL保険証券の写し
前述の資料だけで不十分な場合、輸入業者は製造業者から直接話を聞くか、製造工場を訪問します。製造業者のPL対策を確認した結果、国内で製品を販売する際に問題となる点が判明した場合には、輸入業者は製造業者に対策の改善を求める必要があります。
3)取扱説明書や警告表示の翻訳
輸入品の取扱説明書や警告表示は、日本の消費者が理解できるように日本語に翻訳する必要があります。この際、「意味・内容を取り違える可能性がある」「日本語として分かりにくい」など、適切な翻訳がなされていないと、「警告・表示上の欠陥」として輸入業者が損害賠償責任を負う可能性があります。
さらに、翻訳が不適切であったために「警告・表示上の欠陥」となった場合、その責任は輸入業者にあると考えられ、製造業者に対して求償できない恐れがあります。
従って、輸入業者が日本語の取扱説明書や警告表示などを作成する場合は、製造業者に内容の確認をとりながら、慎重に作業を進める必要があります。
4)輸入契約の締結
輸入した製品に欠陥があり、事故が発生した場合、PL法の規定により輸入業者は損害賠償責任を負います。輸入業者が支払った賠償金について、輸入業者は、改めて製造業者に損害賠償を求めることができますが、必ずしも賠償金の支払いを受けられるというわけではありません。また、訴訟によって製造業者に損害賠償を請求する場合、製造業者の所在する国と日本との法制の違いなどもあり、手続きも複雑です。
従って、輸入業者が製造業者と輸入契約を締結する際には、次の条項などを盛り込んでおく必要があります。
- 製品の欠陥により輸入業者が損害賠償請求を受けた場合、製造業者に求償できる
- 日本国内で発生したトラブルに基づく訴訟については、日本の法制に従う
ただし、契約書に求償権について規定していたとしても、実際に製造業者に支払い能力が無ければ意味がありません。輸入業者は、輸入契約締結に際して、製造業者の企業規模などを考慮するとともに、製造業者は、日本を対象地域とするPL保険に加入することを義務付けておくとよいでしょう。
以上(2020年3月)
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画像:photo-ac