書いてあること
- 主な読者:調味料を製造したり、原料として使用したりする食品メーカー
- 課題:既存のうま味調味料の代替品を探している
- 解決策:従来のうま味調味料の代替品として、ビール酵母やパン酵母を原料として生産する「酵母エキス」などが利用されている
1 うま味調味料とその他の調味料の特徴の比較
アミノ酸の効果により、料理にうま味を利かせるうま味調味料は、汎用性や保存性、コスト面に優れており、一般家庭でも広く使用されています。うま味調味料の代替品として、酵母エキス、エキス調味料、たんぱく加水分解物、魚醤・塩こうじなどが想定されます。
図表は、うま味調味料と、その代替品として想定される調味料の特徴を比較したものです。調味料ごとに特徴があるので、使用目的や、使用者が重視するポイントに合わせて選択するのが望ましいといえるでしょう。
なお、図表の評価は2020年4月17日時点における業界団体や調味料メーカーなどの情報を基に作成した一例であり、それぞれの調味料の特徴を正確に比較したものではありません。さまざまな評価がありますし、今後の商品開発や製品分析の研究の進展などによっても、評価が大きく変わる可能性があります。
次章以降では、それぞれの調味料の特徴や、うま味調味料の代替性について紹介します。
なお、うま味調味料やその代替品に関しては、「化学調味料」「天然素材」などとの表現で区別されることもあります。原材料や製造過程を理解しないままに呼び方だけが先行している部分もあり、実際に「化学」的な調味料と「天然」の調味料の線引きをするのは困難な面があります。
従って本稿では、それぞれの調味料への理解を深めるためにも、原材料や製造過程を含めて紹介していくことにします。
2 既存のうま味調味料
現在、最も一般化しているうま味調味料は、グルタミン酸ナトリウム、イノシン酸ナトリウム、グアニル酸ナトリウムの3物質で作られています。グルタミン酸はアミノ酸系で、昆布やチーズ、野菜などに多く含まれます。残りの2物質は核酸系で、イノシン酸はかつお節や肉類、グアニル酸は干ししいたけに多く含まれています。それぞれに水酸化ナトリウム溶液を加えると3物質になります。
「味の素」の場合、グルタミン酸ナトリウムが97.5%、残り2物質が各1.25%で構成されています。味の素のウェブサイトなどによると、グルタミン酸ナトリウムの製造方法は、まずサトウキビを搾って取り出した糖蜜を発酵液の入ったタンクに入れ、他の栄養素とともに加熱殺菌します。その後「グルタミン酸生産菌」を加えて発酵させると、発酵過程でグルタミン酸生産菌が糖分を取り込んでグルタミン酸を作ります。発酵液を酸性にすることでグルタミン酸を結晶化させて分離し、これに水酸化ナトリウム溶液を加えてグルタミン酸よりも水に溶けやすいグルタミン酸ナトリウムを合成します。ろ過して不純物を取り除いたものを乾燥させると、グルタミン酸ナトリウムの結晶ができます。
一連の製造過程を踏まえて、うま味調味料を「化学調味料」と見なすかどうかは意見が分かれているようですが、食品衛生法では3物質を食品ではなく食品添加物に指定しています。
3 酵母エキス
近年、従来のうま味調味料の代替品として、ビール酵母やパン酵母を原料として生産する「酵母エキス」が使われるケースが見られます。酵母エキスは液体タイプだけでなく、ペーストタイプや粉末タイプも開発されています。食品添加物に分類されていないため、「無添加」「化学調味料不使用」を強調する加工食品に含まれていることも多いようです。健康志向の消費者向けにも訴求できることから、需要の伸びが期待されており、既存のうま味調味料のメーカー以外も積極的に酵母エキス調味料の製造に参入しています。
酵母エキスとは、発酵液が入ったタンク内で酵母を培養・増殖させ、酵母に含まれるアミノ酸やペプチド、核酸などの成分を抽出したものです。酵母の細胞壁を溶解して内容物を抽出しますが、細胞壁を溶解する方法は酸・アルカリ処理や酵素処理などがあります。酸処理は塩酸など、アルカリ処理は水酸化ナトリウムなどを使用します。酵素処理には、酵母菌自体が持つたんぱく質分解酵素および核酸分解酵素などで分解する「自己消化」処理と、他の分解酵素を加えて処理する方法とがあります。成分を抽出した後は、遠心分離やろ過で不純物を取り除き、乾燥もしくは濃縮させてペーストや粉末などに加工します。
原料の酵母や製造方法によってアミノ酸などのうま味成分の含有量や割合が異なってきますし、近年ではうま味を強めるために、グルタミン酸の生成能力の高い酵母菌の選抜や、加水分解酵素などの酵素を加えてグアニル酸やイノシン酸を増やす方法も開発されているようです。
酵母エキスは基本的に天然の原料を用いて製造されているようですが、工業的な製造手法などを指摘して、「自然には存在しないもの」「自然な成り立ちではない」との意見も一部にあります。
酵母エキス調味料の主な商品は、次のウェブサイトに掲載されています。
■アサヒグループ食品「ハイパーミーストHG」■
https://www.asahi-fh.com/products/wholesale/yeast-extract02.html
■三菱商事ライフサイエンス「酵母エキス・アミノ酸事業」■
https://www.mcls-ltd.com/business/yeast.html
■富士食品工業「酵母エキス」■
https://www.fuji-foods.co.jp/product_process/div_01.html
■大日本明治製糖「コクベースシリーズ」■
https://www.dmsugar.co.jp/products/seasoning/kokubase.html
4 エキス調味料
肉・魚類、野菜など自然の素材からうま味成分を抽出したのが「エキス調味料」と呼ばれる調味料です。2003年9月に日本エキス調味料協会も発足しています。エキス調味料は「天然調味料」とも表現されており、健康・本物志向の消費者などからの支持を得ています。ただし、1種類の調味料で多くのシーンに使えるという、うま味調味料の特徴でもある汎用性や保存可能期間の点から、うま味調味料の代替としてのニーズはそれほど高くないとみられます。
■日本エキス調味料協会■
https://ekisu.jimdo.com/
エキス調味料の主な商品は、次のウェブサイトに掲載されています。
■日研フード■
http://www.nikkenfoods.co.jp/overview/lineup.html
■イズミ食品■
http://izumi-syokuhin.com/product/
■焼津水産化学工業■
https://www.yskf.jp/product/l-seasoning.html
■仙味エキス■
http://www.senmiekisu.co.jp/material.html
■久原本家グループ「茅乃舎(かやのや)」■
https://www.kayanoya.com/products/
5 たんぱく加水分解物(アミノ酸混合物)
原料となる素材のたんぱく質をアミノ酸に分解したものです。「食品添加物」には当たりませんが、分解する際に塩酸などを用いると、人体への有害性が指摘されているクロロプロパノール類が生成されることが指摘されています。農林水産省もウェブサイトで「食品中のクロロプロパノール類及びその関連物質に関する情報」を掲載しており、「その量によっては健康に悪影響を及ぼす可能性があります」と注意を喚起しています。
■農林水産省「食品中のクロロプロパノール類及びその関連物質に関する情報」■
https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/c_propanol/
6 魚醤・塩こうじ
消費者の健康志向の中で、天然由来の魚醤や塩こうじといった、古来使われているうま味を引き出す調味料が再び注目されているようです。魚醤には秋田県の伝統調味料である「しょっつる」、タイの「ナンプラー」も含まれます。ただ、魚醤や塩こうじは基本的に液体やペーストであり、開封後の保存可能期間の面で劣ることや、うま味調味料と比べて塩分が多いという点でも、うま味調味料の代替として使用されるケースは少ないと考えられます。
以上(2020年6月)
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画像:pixabay