書いてあること

  • 主な読者:種類株式について知りたい経営者
  • 課題:どのような種類株式があるのか分からない
  • 解決策:本稿では種類株式の概要や、発行手続きについて紹介するので参考にする

1 種類株式の概要

株式会社は、剰余金の配当、残余財産の分配、株主総会において議決権を行使することができる事項など、会社法に定められている事項について異なる定めをした、内容の異なる2以上の種類の株式を発行することができます(法第108条第1項。本稿の参照条項は全て会社法の条文であり、「法」と表記しています)。

内容の異なる2以上の種類の株式を発行する場合、その各株式を「種類株式」と呼びます。法第108条第1項には、種類株式の内容として定めることのできる事項について、次章で示す9つの事項が掲げられています。

種類株式を活用することにより、株主から出資を受けながら、経営権限の分散防止を図ることができます。また、1つの株式には2以上の内容を付することができます。例えば、1つの株式について、剰余金配当優先(第1号)と議決権制限(第3号)の内容を付することができます。

2 9種類の種類株(法第108条第1項)

1)剰余金の配当(第1号)

剰余金の配当について、異なる内容を定めた株式をいいます。

2)残余財産の分配(第2号)

会社解散後の清算段階における残余財産の分配について、異なる内容を定めた株式をいいます。

3)株主総会において議決権を行使することができる事項(第3号)

議決権制限株式に係る種類株式の規定です。議決権制限株式とは、株主総会で決議する全部または一部の事項について議決権を行使することができない株式をいいます。なお、公開会社では一部の経営者等が議決権制限株式を利用することで、少数の議決権で会社を支配する状況を生み出すことは好ましくないとの観点から、議決権制限株式数が発行済株式総数の2分の1を超えた場合、当該会社は直ちに2分の1以下にするための措置を講じる義務が課せられていますので注意が必要です(法第115条)。

4)譲渡による当該種類の株式の取得について当該株式会社の承認を要すること(第4号)

譲渡制限株式(法第2条第17号)に係る種類株式の規定です。譲渡による株式の取得について当該株式会社の承認を要する旨の定めを設けている場合における当該株式をいいます。会社法では譲渡制限性は株式の種類の1つとして位置付けられています。なお、一部の種類の株式のみ譲渡制限がある会社であっても、会社法上の公開会社になり、非公開会社に比べて厳格な規律に服することになる点には注意が必要です(法第2条第5号)。

5)当該種類の株式について、株主が当該株式会社に対してその取得を請求することができること(第5号)

取得請求権付株式(法第2条第18号)に係る種類株式の規定です。取得請求権付株式とは、株主が会社に対して保有する株式の取得(買取)を請求できる株式をいいます。この場合、株主は、定款に定められた期間内に請求することで、定款の定めに従い、対価を得ることになります(法第108条第2項第5号、第107条第2項第2号)。

6)当該種類の株式について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができること(第6号)

取得条項付株式(法第2条第19号)に係る種類株式の規定です。取得請求権付株式は、株主が請求できるものであったのに対し、取得条項付株式は、一定の事由が生じたことを条件に会社側が当該株主の保有する株式を取得することができる株式です。この場合、会社は、定款に定められた事項が生じたこと等を株主等に通知・公告(法第168条第2項および第3項、法第169条第3項および第4項、法170条第3項および第4項)し、定款の定めに従い対価を支払うことになります(法第108条第2項第6号、第107条第2項第3号)。

7)当該種類の株式について、当該株式会社が株主総会の決議によってその全部を取得すること(第7号)

全部取得条項付種類株式に係る規定です。全部取得条項付種類株式とは、会社が株主総会の特別決議(法第171条第1項、第309条第2項第3号)によりその全部を取得することができる種類の株式をいいます。この場合、定款で発行可能種類株式総数と取得対価の決定方法等を定めておく必要があります(法第108条第2項第7号イ)。

8)株主総会において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とするもの(第8号)

拒否権付株式、いわゆる「黄金株」に係る種類株式の規定です。株主総会等の決議に加え、種類株主総会の決議があることも必要とする株式をいいます。

9)当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役又は監査役を選任すること(第9号)

取締役等の選任に係る種類株式の規定です。特定の種類株主総会決議により、取締役等を選任することが定められた株式をいいます。ただし、取締役等の選任に係る種類株式は、委員会設置会社および公開会社は発行することができません(法第108条第1項但書)。

3 種類株式を発行するための手続き

1)定款の変更

これまで種類株式を発行していない株式会社が新たに種類株式を発行するためには定款を変更する必要があります。定款を変更するためには、株主総会の特別決議が必要です。

特別決議は、当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成により成立します(法第466条、第309条第2項第11号)。

2)定款に記載すべき内容

種類株式を発行する場合に、定款で定める事項は法第108条第2項で次の通り定められています。発行可能種類株式総数および発行する各種類の株式の内容は登記事項です(法第911条第3項第7号)。定款を変更した際には、定款変更決議の効力発生日から2週間以内に、本店所在地の管轄法務局に変更の登記申請をする必要があります(法第915条第1項)。

【法第108条第2項】
株式会社は、次の各号に掲げる事項について内容の異なる二以上の種類の株式を発行する場合には、当該各号に定める事項及び発行可能種類株式総数を定款で定めなければならない。
 一 剰余金の配当 当該種類の株主に交付する配当財産の価額の決定の方法、剰余金の配当をする条件その他剰余金の配当に関する取扱いの内容
 二 残余財産の分配 当該種類の株主に交付する残余財産の価額の決定の方法、当該残余財産の種類その他残余財産の分配に関する取扱いの内容
 三 株主総会において議決権を行使することができる事項 次に掲げる事項
  イ 株主総会において議決権を行使することができる事項
  ロ 当該種類の株式につき議決権の行使の条件を定めるときは、その条件
 四 譲渡による当該種類の株式の取得について当該株式会社の承認を要すること 当該種類の株式についての前条第二項第一号に定める事項
 五 当該種類の株式について、株主が当該株式会社に対してその取得を請求することができること 次に掲げる事項
  イ 当該種類の株式についての前条第二項第二号に定める事項
  ロ 当該種類の株式一株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の他の株式を交付するときは、当該他の株式の種類及び種類ごとの数又はその算定方法
 六 当該種類の株式について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができること 次に掲げる事項
  イ 当該種類の株式についての前条第二項第三号に定める事項
  ロ 当該種類の株式一株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の他の株式を交付するときは、当該他の株式の種類及び種類ごとの数又はその算定方法
 七 当該種類の株式について、当該株式会社が株主総会の決議によってその全部を取得すること 次に掲げる事項
  イ 第百七十一条第一項第一号に規定する取得対価の価額の決定の方法
  ロ 当該株主総会の決議をすることができるか否かについての条件を定めるときは、その条件
 八 株主総会(取締役会設置会社にあっては株主総会又は取締役会、清算人会設置会社にあっては株主総会又は清算人会)において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とするもの 次に掲げる事項
  イ 当該種類株主総会の決議があることを必要とする事項
  ロ 当該種類株主総会の決議を必要とする条件を定めるときは、その条件
 九 当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役又は監査役を選任すること 次に掲げる事項
  イ 当該種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役又は監査役を選任すること及び選任する取締役又は監査役の数
  ロ イの定めにより選任することができる取締役又は監査役の全部又は一部を他の種類株主と共同して選任することとするときは、当該他の種類株主の有する株式の種類及び共同して選任する取締役又は監査役の数
  ハ イ又はロに掲げる事項を変更する条件があるときは、その条件及びその条件が成就した場合における変更後のイ又はロに掲げる事項
  ニ イからハまでに掲げるもののほか、法務省令で定める事項

なお、種類株式発行会社がある種類の株式の発行後に定款を変更して当該種類の株式に取得条項を付し、または取得条項の内容を変更する場合(法第108条第1項第6号)には、株式会社が実際に取得条項付株式を取得する際に、株主保護のため、当該株主全員の同意が必要です(法第111条第1項)。

4 事業承継で後継者が経営権限を持つ方法

1)考えられる方法

種類株式発行会社ではない非公開会社で、現に複数の株主が既発行の株式を保有している状況で、後継者に経営権限を集中させるための方法は種類株式によるものに限られません。種類株式によらない方法としては、例えば「新株発行による方法」があります。

一方で、種類株式を活用することにより、後継者以外の株主による議決権を制限する方法としては、「既発行株式の内容変更による方法」「全部取得条項付株式による方法」「取得条項付株式による方法」などがあります。

以降で非公開会社を想定した上記の方法を紹介しますが、これを読むとオーナー経営者および後継者が経営権限を持つための方法が複数あることが分かります。どの方法が最も適切かは会社の規模や株主構成、または株主の関係などの要因によって異なります。そのため、実際には、弁護士・公認会計士・税理士などの専門家の助言を得ながら進める必要があります。

2)新株発行による方法

当該株式会社が新株を発行し、それを後継者に対して割り当てます。後継者が他の株主が保有する議決権の合計を上回る株式を保有する状態にすれば、結果として後継者が過半数または3分の2超の議決権を持つことになります。

新株を発行する際には、株主総会で募集事項を決定し、募集手続きを取らなければなりません。

1.募集事項の決定

会社が株式を発行する場合(募集株式を引き受ける者の募集をする場合)、募集する株式の数や、払込価額、払込期日など当該募集に関する事項(以下「募集事項」)を決定しなければなりません(法第199条第1項)。この募集事項の決定は、原則として株主総会の特別決議によらなければなりません(法第202条第3項第4号、第309条第2項第5号)。

2.募集手続き

会社は募集に応じて募集株式の引受けの申込みをしようとする者に対し、募集事項などの通知をしなければなりません(法第203条第1項)。

引き受ける者の申し込み(法第203条第2項)を受け、会社は申込者の中から割り当てを受ける者を定め、かつ、その者に割り当てる募集株式の数を定めなければなりません(法第204条第1項)。募集株式が譲渡制限株式である場合には、その決定は原則として株主総会の特別決議によらなければなりません(法第204条第2項、第309条第2項第5号)。

また、会社は払込期日(期間を定めた場合はその期間の初日)の前日までに、申込者に対し、当該申込者に割り当てる募集株式の数を通知しなければなりません(法第204条第3項)。

なお、これらの規定は、募集株式を引受けようとする者がその総数の引受けを行う契約(総数引受契約)を締結する場合は適用されません(法第205条)。

募集株式の引受人による出資の履行により、当該引受人は募集株式の株主となります(法第209条)。なお、金銭ではなく現物で出資された場合、出資された財産等の価額が不足する場合には取締役等の填補責任が定められていますので注意が必要となります(法第213条)。

3.ポイント

新株発行による方法は、手続きが比較的シンプルという利点がありますが、後継者が発行される新株を引き受けることができるだけの資金力を持っていることが必要です。

3)既発行株式の内容変更による方法

後継者以外の株主が保有する株式を議決権制限株式に内容変更する方法です。手続きは次の通りです。

1.議決権制限株式を発行する旨の定款変更

株主総会の特別決議により、議決権制限株式を発行できる旨の定款変更を行います(法第466条、第309条第2項第11号)。

2.議決権制限株式に変更される各株主の同意

上記の定款変更の他、議決権制限株式に変更される各株主の同意も必要と解されます。

3.ポイント

上記の方法は、議決権制限株式に変更される各株主の同意が必要であるため、実際にこの方法が活用できるケースは極めて限定的であるといえます。

4)全部取得条項付株式による方法

当該株式会社が、株主が保有する株式を全部取得条項付株式に変更した上で株式を取得し、その対価として議決権制限株式を交付する方法です。

1.議決権制限株式を発行する旨の定款変更

株主総会の特別決議により、議決権制限株式を発行できる旨の定款変更を行います(法第466条、第309条第2項第11号)。

2.既発行株式を全部取得条項付株式とする旨の定款変更

株主総会の特別決議および種類株主総会の特別決議(法第111条第2項)により、既発行株式を全部取得条項付株式とし、取得対価として議決権制限付株式を交付する旨の定款変更を行います。

3.議決権制限株式の交付

全部取得条項付株式の対価として、従前の持ち株比率に応じて議決権制限株式を交付します。交付に先立ち、取得対価の内容や割り当てに関する事項等を株主総会の特別決議で決定する必要があります(法第171条、第309条第2項第3号)。

4.株式の処分

当該株式会社が全部取得条項により取得した自己株式を、現オーナー経営者に割り当てることにより処分します。それによって、現オーナー経営者は議決権を有する株式を独占することができます。自己株式の処分は新株発行と同じ手続きが必要とされているので、法第199条第1項により募集事項を定め、現オーナー経営者に株式を割り当てます。なお、この募集事項の決定は、原則として株主総会の決議によらなければなりません(第202条第3項第4号、第309条第2項第5号)。

5.ポイント

全部取得条項付株式による方法は現オーナー経営者の手元に潤沢な資金がなくても実行できることが特長です。一方、手続きが煩雑で、全部取得条項付株式への内容変更に反対の株主には買取請求権が認められています(法第116条第1項第2号)ので、当該株式会社には買取資金を準備しておく必要がある場合があります。また、現オーナー経営者の持ち株数が議決権の3分の2に達していない場合、オーナー経営者には不足する株式を取得するための資金が必要となります。

5)取得条項付株式による方法

株主が保有する株式を当該株式会社がいったん取得し、対価として議決権制限株式を交付する方法です。

1.議決権制限株式を発行する旨の定款変更

株主総会の特別決議により、議決権制限株式を発行できる旨の定款変更を行います。

2.既発行株式を取得条項付株式とする旨の定款変更

既発行株式を取得条項付株式に転換することは、一定の事由が生じた際にいわば強制的に当該株式会社が株式を取得することになるため、株主全員の同意を得ることが必要とされています(法第110条)。

3.株式の取得と議決権制限株式の発行

あらかじめ定款に定めた日の到来や取締役会の決議など、一定の事由が生じたことによって当該株式会社が取得条項付株式を取得し、その対価として議決権制限株式を発行します。

4.ポイント

取得条項付株式による方法は、株主全員の同意が必要であるため、実際にこの方法が活用できるケースは極めて限定的であるといえます。

以上(2019年9月)
(監修 TMI総合法律事務所 弁護士 池田賢生)

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画像:unsplash

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