書いてあること

  • 主な読者:簿記の知識を身に付けて会社の取引の全体像を把握してみたい新人経理担当者
  • 課題:財務諸表を理解するためには、勘定科目とその処理の方法を知る必要がある
  • 解決策:貸借対照表の表示区分に従って、各勘定の処理方法を確認してみる

1 経理担当者の基礎は簿記

財務諸表を作成するには、勘定科目とその処理方法を知る必要があります。そのために必要なのが、簿記の知識です。全ての取引を仕訳し、項目ごとに集計したものが財務諸表となるからです。取引を見たとき、会計上、どのように処理されるのかをすぐに判断するためにも、項目ごとの仕訳のパターンをイメージできるようになることが大切です。反対に財務諸表の項目から、仕訳をイメージすることで数値に変動があったときの分析に役立ちます。

この記事では、

  • 複式簿記の基本“貸方”と“借方”の考え方
  • 貸借対照表の表示区分ごとの各勘定の処理方法

をまとめています。簿記の基本中の基本を押さえていきましょう。

2 複式簿記の基本“貸方”と“借方”の考え方

簿記(この記事では複式簿記)は、企業の活動を記録するものです。例えば、商品を現金で仕入れれば、商品(資産)が増え、現金(資産)が減ります。また、商品を現金で販売した場合、売上高(収益)が増え、現金(資産)も増えると同時に、商品(資産)が減り、売上原価(費用)が増えます。複式簿記は、こうした

出ていく財貨と入ってくる財貨といった、2つの流れを同時に記録

できます。

勘定は借方(かりかた)と貸方(かしかた)の2つに分けることができます。貸借対照表の左側(資産の部)の科目が借方勘定で、右側(負債の部と純資産の部)の科目が貸方勘定です。また、損益計算書の収益・利益に当たるのが貸方勘定で、費用・損失に当たるのが借方勘定です。

初心者には理解しにくいかもしれませんが、貸借対照表の場合、次のように考えると分かりやすいと思います。貸借対照表の右側は負債の部と純資産の部ですが、これは企業活動に必要な資金の調達方法を表しています。この資金を左側の資産の部にあるさまざまな資産の形で運用します。

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簡単な簿記の仕訳例を見ながら、どのように各勘定に反映されるのかを見てみましょう。

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  • 現金及び預金勘定は10万円の増加(-10万円+20万円)
  • 仕入勘定は25万円の増加(+10万円+15万円)
  • 売上勘定は45万円の増加(+20万円+25万円)
  • 買掛金勘定は15万円の増加
  • 売掛金勘定は25万円の増加

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勘定科目の内容は、貸方と借方に分かれます。各勘定科目の金額の増減は、次のようになります。

  • 貸方勘定の金額の増加は貸方に記帳、減少は借方に記帳
  • 借方勘定の金額の増加は借方に記帳、減少は貸方に記帳

以降で、貸借対照表の表示区分ごとの、主な勘定の処理方法について説明していきます。

3 流動資産

1)流動資産に含まれるもの

流動資産に含まれるものは、現金及び預金、受取手形、売掛金、有価証券、商品及び製品(棚卸資産)、前渡金、前払費用、未収収益、未収入金などです。

2)売上債権と貸倒引当金

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受取手形と売掛金は売上債権といいますが、これは必ずしも確実に現金化できるとは限りません。こうした債権には貸し倒れリスクがついて回ります。例えば、売掛金の期末残高が1000万円あり、過去のデータから、このうちの2%程度が貸し倒れになるリスクがあると判断した場合、20万円(1000万円×2%)の貸倒引当金を設定します。

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3)棚卸資産

商品は、仕入れて保有している段階では資産です。その商品を販売すると売上原価(費用)になります。売上原価は次の式で算出されます。

期首商品棚卸高+当期商品仕入高-期末商品棚卸高=売上原価

この期末商品棚卸高が貸借対照表の流動資産の棚卸資産を構成します。また、これが翌期の期首商品棚卸高となり、翌期以降に費用となって売上原価を構成することになります。

例えば、期首商品棚卸高200万円、当期商品仕入高1000万円、期末商品棚卸高100万円の場合、当期の売上原価は次の通りです。

当期の売上原価=200万円+1000万円-100万円=1100万円

期末商品棚卸高100万円が流動資産に表示されます。

4)前渡金、前払費用、未収収益、未収入金

1.前渡金

前渡金は商品や原材料などの仕入れや外注加工などの発注に際し、代金の一部または全部を、物品の受け入れや外注加工の完了前に交付した場合、その金額を一時的に処理する勘定で、前払金、手付金ともいわれます。前渡金は金銭債権ではなく物品やサービスの給付請求権となるため、貸倒引当金を設定できません。

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2.前払費用

前払費用は、一定の契約に基づいて、継続して役務やサービスの提供を受ける場合、決算日においてまだ提供されていない役務やサービスに対して事前に支払った対価のことです。未経過の支払利息、賃借料などがこれに当たります。

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これにより翌期分の費用を翌期に繰り延べることができます。

3.未収収益

未収収益は、一定の契約に基づいて、継続して役務やサービスの提供を行う場合、決算日において既に提供した役務やサービスに対してまだ受領していない対価のことで、未収の受取利息、賃貸料などです。

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これにより当期分の収入を見越して当期の収益を計上することができます。

4.未収入金

未収入金は、売掛金以外の固定資産、有価証券売却代金などの本来の事業目的以外の財貨やサービスを提供した場合の代価の未収額を処理する勘定です。

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4 固定資産

1)固定資産に含まれるもの

固定資産には有形固定資産、無形固定資産及び投資その他の資産が計上されます。有形固定資産には建物、機械装置、車両運搬具、土地などが含まれます。無形固定資産にはソフトウエア、のれん、借地権、工業所有権(特許権、実用新案権、意匠権、商標権)などが含まれます。投資その他の資産は、投資有価証券、関係会社株式などが含まれます。

2)有形固定資産の減価償却

減価償却費は営業費用の一部として損益計算をする上で費用計上されます。減価償却累計額は固定資産勘定を間接的に減額する評価勘定です。減価償却累計額は、土地などの非償却資産を除く固定資産の減価償却費の累計額です。固定資産取得価額から減価償却累計額を差し引いた価額が、償却資産の未償却残高(帳簿価額)となります。

ここでは次の条件を基に「定額法償却」について説明します。

条件:期首に機械装置を100万円で購入、耐用年数:10年

定額法による場合、各年度の減価償却費は次の式で算出されます。

  • 各年度の減価償却費=取得価額/償却率(耐用年数ごとに定められている定額法の率)
  • 各年度の減価償却費=100万円/0.100(耐用年数10年の場合の償却率)=10万円

また、期首資産価額、減価償却費、期末資産価額は次のように推移します。資産は備忘価額1円を残して、10年間で99万9999円を償却します。

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減価償却累計額は、原則的には貸借対照表の有形固定資産を間接的に減額する評価勘定として表示され、減価償却費は、損益計算書において営業費用として処理されることになります。

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有形固定資産の貸借対照表での表示は次の通りです(5年度の期末)。

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3)投資その他の資産

投資その他の資産は、投資有価証券、関係会社株式、関係会社出資金、破産更生債権等、投資不動産などで構成されています。

例えば、取引先の経営状況が悪化して、会社更生法や民事再生法などの適用を受けることになった場合、通常の売掛金と区別するため、次のような会計処理を行い、投資その他の資産の欄に計上されるようになります。

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5 繰延資産

かつての会計規則(旧商法施行規則)では、繰延資産として、創立費、開業費、研究費及び開発費、新株発行費、社債発行費、社債発行差金、建設利息が挙げられていました。

ただ現在の会計規則(会社計算規則)では、繰延資産についての例示はなく、「繰延資産として計上することが適当であると認められるもの」を「繰延資産」とするとされています。繰延資産は帳簿価額から償却額を控除した直接控除方式で記載しなければなりません。

6 流動負債

1)流動負債に含まれるもの

負債の部は流動負債と固定負債に分けられます。流動負債は、支払手形、買掛金、短期借入金、リース債務、前受金、前受収益、未払金、未払費用などで構成されます。

2)支払手形、買掛金

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3)前受金、前受収益、未払金、未払費用

1.前受金

前受金は商品や原材料などの仕入れや外注加工などの受注に際し、代金の一部または全部を、物品の出荷や外注加工の完了の前に受け取った場合、その金額を一時的に処理する勘定です。前受金は金銭債務というよりも、物品やサービスの給付債務となります。

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2.前受収益

前受収益は、一定の契約に基づいて、継続して役務やサービスの提供を行う場合、決算日においてまだ提供していない役務やサービスに対して事前に受領した対価のことです。未経過の受取利息、賃借料などがこれに当たります。

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これにより翌期分の収益を翌期に繰り延べることができます。

3.未払金

未払金は、固定資産、有価証券購入代金などの本来の事業目的以外の財貨やサービスの提供を受けた場合の代価の未払分を処理する勘定です。

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4.未払費用

未払費用は、一定の契約に基づいて、継続して役務やサービスの提供を受ける場合、決算日において既に提供を受けた役務やサービスに対してまだ支払っていない対価のことで、未払いの支払利息、保険料、賃借料、リース料などです。

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これにより当期分の正しい費用を計上することができます。

4)借入金

借入金は、金銭消費貸借契約により金銭を借り入れた場合に生じる債務です。この借入金は、返済期限までの期間によって次のように分類します。

  • 短期借入金:決算日から1年以内に返済期限の到来するもの
  • 長期借入金:決算日から1年を超えて返済期限の到来するもの

短期借入金の借り入れから返済までの取引の仕訳を見てみましょう。

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また、短期借入金、長期借入金は、もし役員からのもの、親会社からのものがあれば、それぞれ区分して計上しなければなりません。

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7 固定負債

固定負債は、社債、長期借入金、退職給付引当金などで構成されています。ここでは、社債の発行について説明します。

社債は、資金を調達するために社債券という有価証券を発行することによって生じる企業の債務です。

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社債発行費の償却を60カ月(償還までの期間5年)とした場合、社債発行費の償却、社債の額面と簿価の差額は×6年3月31日に解消します。

×6年3月31日に社債を償還した際の仕訳例は次の通りです。

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8 純資産の部

1)純資産の部の表示項目

純資産の部は、株主資本、評価・換算差額等、新株予約権に区分されます。さらに、株主資本は、資本金、資本剰余金、利益剰余金、自己株式に区分されます。また、評価・換算差額等は、その他有価証券評価差額金、繰延ヘッジ損益、土地再評価差額金に区分されます。

会社計算規則に基づいた純資産の部の表示項目は次の通りです。

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2)増資の仕訳

株主総会決議に基づく取締役会の決議により、株式1000株を第三者に割当増資することになりました。

発行価額は1株につき7万円、1株当たり2万円を資本金に組み入れないことにし、かつ発行価額と同額の申込証拠金を受け入れることにしました。また、申込期日までに全額が払い込まれました。

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3)利益配当

株主総会において、次の配当を決議しました。

  • 配当金:1000万円
  • 利益準備金:100万円

この場合の仕訳例は次の通りです。

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4)自己株式

自己株式を1000万円で取得しました。

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自己株式1000万円を1100万円で売却しました。

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自己株式処分差益は、純資産の部のその他資本剰余金となります。

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以上(2024年4月更新)
(監修 税理士 谷澤佳彦)

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