書いてあること

  • 主な読者:噂に惑わされず、税務調査の実態を知りたい経営者
  • 課題:「調査官によって厳しさが違う」などの噂が本当なのか確かめようがない
  • 解決策:臆測で税務調査を捉えない。大切なのは、日ごろの税務・会計処理、契約書面の作成などを徹底すること。また、イレギュラーな処理の場合は事前に税理士に相談

もはや都市伝説? 税務調査にまつわる噂

「別に悪さをしているわけではないけれど、税務調査は嫌だ」。ほとんどの経営者はこう考えるでしょう。いきなり調査官がやって来て、あれこれと帳簿の提出を求められ、多額の税金を支払わされるイメージです。それに、とにかく「面倒」です。

こうした思いもあり、税務調査については、

「コロナが落ち着くまで税務調査は行われない」

など、さまざまな臆測が飛び交いますが、これは本当なのでしょうか。この記事では、現役税理士に覆面インタビューを実施し、普段はなかなか聞くことのできない税務調査の舞台裏を徹底的に聞き出しました。

Q1 コロナが落ち着いたら税務調査が増える?

2020年11月に東京国税局から発表された情報では、2020年6月までの直近1年においては、大口・悪質な不正計算が想定される会社を中心に税務調査を実施しており、法人税・消費税の調査件数は前年比の75%まで減少したようです。

これは、悪質な案件に調査対象を絞ったということもありますが、2020年に入ってからの新型コロナウイルス感染症による影響も少なからずあると思います。そのため、今後、新型コロナウイルス感染症が落ち着いた場合、2019年以前の水準まで調査件数が増えることは予想されます。

また、新型コロナウイルス感染症の影響で、今まで黒字だった会社が赤字に陥ったケースも増えています。しかし、中には「コロナを理由に、粉飾決算で赤字を装っている会社も存在する」と税務当局は見ているようです。そのため、急に赤字となった事業者のうち、事前の予備調査で「怪しい」と思った案件を中心に税務調査が実施される可能性もあります。

Q2 税務調査は突然やって来る?

税務調査は強制調査と任意調査とに大別されます。強制調査は、突然、やってきますが、これは悪さをしている場合に受ける調査です。通常は、事前に連絡があります。

強制調査とは、悪質な脱税の疑いがある者に対して行われる調査です。いわゆる「マルサ」(国税局査察部の通称)が担当し、査察調査とも呼ばれます。調査官は事前に実態を調べ、脱税が事実であることに確信を持った上で会社にやって来ます。納税者による帳簿などの証拠書類の隠蔽を防ぐために、事前の連絡はなく、突然やって来ます。

任意調査とは、調査に入るために会社の同意が必要な調査です。ほとんどの税務調査がこちらに該当し、強制調査のように突然やって来ることはありません。事前に会社や確定申告書に署名している税理士に対して調査の予告が来ます。基本的には電話で連絡が来た後に、事前準備資料リストその他の書類が送られてきます。

Q3 税務調査を断ることができる?

強制調査の場合は、裁判所の令状を持って調査に入るため断れません。会社側の都合で調査日を変更することもできません。

任意調査の場合も、原則として断ることはできません。ただし、事前予告の段階での日程調整は融通が利きます。調査官から日程が提案されますが、会社の繁忙期、立ち会いの税理士の都合などもろもろの正当な理由があれば、日程を調整できます。

Q4 税務調査が集中する時期はある?

調査官(税務職員)の人事異動は毎年7月に行われます。そこから1年間、調査官は与えられたノルマ(調査件数や指摘金額)を基に税務調査を行っていくことになります。なるべく早くノルマを消化するため、年内、特に8~9月に税務調査が多く行われます。

また、7月の人事異動に合わせて、調査官の評価が決まることを考えると、年内、遅くとも翌年の4月ごろまでに行われる調査に力が入ると考えられます。

Q5 税務調査が中止になることはある?

基本的に、一度予告された税務調査は必ず行われます。

ただし、4~6月ごろに予告された税務調査について、調査時期を7月以降で日程調整をお願いすると、まれに調査が実施されないことがあります。はっきりした理由は分かりませんが、調査の実施自体がうやむやになってしまうケースが過去にありました。明確ではありませんが、考えられるのは「7月に行われる調査官の人事異動により、新旧担当者間の引き継ぎがうまく行われていない」「そもそも重要性の高い調査対象ではない」といった理由です。

Q6 反面調査はどのように対応する?

反面調査とは、調査対象会社の取引先などに対して、取引状況などを確認する調査で、自社に対しては調査対象会社との契約書や請求書などの提出が求められます。反面調査の性質は、調査対象会社に対する税務調査が強制調査か任意調査かに準じます。調査対象会社に配慮して、事実と異なった回答をしたり、あやふやな回答をしたりすると、自分の首を絞めることにもなり得ます。事実を淡々と語り、求められた書類などは提出するようにしましょう。

Q7 繰越欠損金があると税務調査が入りにくい?

繰越欠損金がある会社は、税務調査後において修正申告をしても所得が発生しにくいので、税金を徴収できる可能性が低いという意味においては対象外となることが多いのではないでしょうか。

ただし、繰越欠損金のある会社に税務調査が入るケースもたくさんあります。そのため、繰越欠損金があるから、税務調査が来ないだろうという考えは正しくありません。

Q8 どういった科目を重点的に調査する?

売上・仕入関連の勘定の場合、期ズレに注意しましょう。例えば、3月決算の会社であれば、特に3月・4月の取引は重点的に調べられます。収益・費用を正確に計上するためには、日々の書類整理や、経理担当者だけでなく営業担当者など、従業員全体の期ズレに関する意識を高めることなどが大切です。

人件費では、役員、特に同族会社であれば身内に関連する報酬や給与でしょう。例えば、勤務実態(業務内容や出勤日数)に見合わない報酬・給与を支払っていないかが重点的に調べられます。

固定資産では、資本的支出(固定資産として計上しなければならない修繕費用など)を、費用計上していないかといった点も指摘されやすい箇所でしょう。

他には、外注委託費です。特に外注委託先に身内が経営している会社がある場合、委託業務の内容と金額が適正なものかがよく調べられます。

Q9 税務調査に臨む経営者にアドバイスを!

税務調査のあるなしにかかわらず、税務顧問としてお願いしたいのは、「イレギュラーなことをやるときは、事前に相談してほしい」ということです。事前に相談してくれさえすれば、多くの場合、税務的なリスクをかなり減らすことができます。もちろん、完全に違法な取引を合法にすることはできませんが、白黒つけがたい取引であれば、より白に近づけることは可能です。もし、事後に報告を受けた場合には、後付けで対策を練ることとなってしまい、十分な対応ができません。

また、税務・会計処理は日々の取引の積み重ねです。税務調査の予告が来てからまとめて書類を整理したとしても、どうしても抜け漏れが生じます。日々の税務・会計処理を、継続して適切に処理していれば、税務調査は決して恐れるものではないのです。

以上(2021年9月)

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画像:Veres Production-shutterstock

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