書いてあること
- 主な読者:購買担当者、購買担当者を任命する経営者
- 課題:資材に関する専門的な知識がより一層必要になっている
- 解決策:「適切な品質」「適切な価格」「適切な納期」「適切な数量」「適切な購入先」の5つを知ることが重要である
1 企業活動における購買の役割
企業活動における「購買」とは、事業に必要な資材・製品・設備を外部から調達することを指します。資材・製品・設備などの他に、外部のサービスを利用することも購買に含まれます。企業規模によって異なるものの、企業には購買担当者が存在し、営業担当者や製造担当者からの要望により、必要な資材を調達しています。
近年では、企業の社会的責任として環境問題への対応が求められる中で、大手企業が中心となって「グリーン調達」が一般的になっていますが、その中心となっているのは購買担当者です。
また、経営環境の変化は激しさを増しており、これまでと同じ資材購買のやり方では、成果を上げることが難しくなっています。資材購買コスト削減の基本は、それまでと同品質の資材を低コストで調達することですが、これを実現するためには資材に関する専門的な知識や、豊富な調達先を持つ購買担当者の存在が重要になります。
本稿では、資材購買コストの削減に注目し、これを実現するためのポイントを簡単にまとめていきます。
2 資材購買計画の立案とコスト削減策の検討
資材購買コストの削減を図るためには、「適切な品質」「適切な価格」「適切な納期」「適切な数量」「適切な購入先」の5つを知ることが重要です。そのためには、資材購買計画を立案し、自社の購買の実態を把握する必要があります。資材購買計画の立案方法は次の通りです。
資材購買計画とは、購買に際して要する予算などを決定する計画であり、生産計画・資材購買方針を前提にして立案されます。生産計画は、自社製品の生産量などの他に、生産形態(見込み生産か受注生産か)などによってもその内容は異なります。
また、資材購買方針を立案する際は、購買条件などが記載されている資材購買の規定などのマニュアルを参考にするとよいでしょう。こうしたマニュアルは、社内の購買条件などが記載されており、資材購買方針を立案する際に役立ちます。
資材購買計画を整理することで、自社の資材購買の現状を客観的に把握することができるため、次の点を検討しやすくなります。
- 購買先や購買方法を変更する余地があるか否か
- 購買先を変更する場合、変更先にはどこがあるのか
- 変更先との価格交渉のラインをどの程度に設定するか
3 資材購買コスト削減のポイント
1)購買担当者の意見を取り入れた資材購買
中小企業では、営業担当者や製造担当者などからの要望を購買担当者がまとめ、資材の仕様・規格・品質や在庫状況を確認した上で複数の購買先から相見積もりを取ります。その結果、自社にとって最も条件のよい購買先に発注します。最も条件のよい購買先を検討する際は、例えば次の基準を参考にします。
- 企業信用力:財政状態だけではなく、災害時の事業継続性なども検討する
- 資材の品質:業界標準と比べた品質水準などを検討する
- 納期:業界標準および発注ロットに見合った納期であるかを検討する
- 価格:業界標準および発注ロットに見合った価格であるかを検討する
基本的に、購買担当者は営業担当者や製造担当者の要望に従って資材を発注するため、「多品種少量の資材を使う」「単価の高い特殊な資材を使う」など設計段階で生じるコスト増大要因に対処することが難しくなります。この場合、購買担当者は、資材を可能な限り安く調達できる購買先を探すくらいしかできません。もちろん、これは非常に重要なことですが、この取り組みだけでは資材購買コスト削減の効果が限定的なものになってしまいます。
そこで、営業担当者や製造担当者が要望する資材を決定する場に購買担当者も参加し、主に次の点から、購買担当者の視点も踏まえて資材購買の方針を決定するようにします。
- 資材点数の削減
- 資材の材料、品質、形状などの標準化
- 製造担当者が要求する資材より、安価で質の高い代替資材の採用
この場合、購買担当者の知識と経験が非常に重要になります。営業担当者や製造担当者は、「自分が製品を販売し、あるいは製造して売り上げを上げている」との自負があります。そのため、購買担当者もそれなりの準備をして説明しないと、資材点数の削減などに関する提案をなかなか受け入れてもらえません。
例えば、購買担当者は生産計画や資材購買方針を説明することで、営業担当者や製造担当者から理解を得られる場合があるでしょう。
とはいえ、資材購買計画とは異なる購買も時には必要であり、購買担当者は営業担当者や製造担当者の意見には十分に耳を傾け、柔軟に対応する姿勢が必要です。また、企業は購買担当者に日本能率協会が主催する「調達プロフェッショナル認定者」(詳細は後述します)の試験を受けさせるなどして、その育成に努めることが重要です。
2)購買先の絞り込みとその際の留意点
購買先の選定に当たっては、複数の購買先候補から見積もりや試作品を入手して、十分に比較検討します。
また、購買先を絞り込んで大量に発注することでスケールメリットを得ることもできます。
ただし、購買先を絞り込み過ぎると、その相手に何らかのトラブルが生じた場合の対処が難しくなります。信用調査を徹底するとともに、災害時の事業継続計画(いわゆる「BCP」)などにも注意する必要があります。東日本大震災では、自動車部品をはじめとして、多くの部品メーカーが被災したことによりサプライチェーンが分断され、大手自動車メーカーなどで生産ラインの停止に追い込まれるといった影響が出ました。こうした事態を防ぐためには、メーンの購買先と地理的に離れた場所に、サブの購買先を確保するなどの対策が必要となります。
3)一括購買を検討する
社内の情報共有は資材購買コスト削減において非常に重要です。例えば、各工場の在庫情報を本社が一元管理できるようになれば、工場間で資材の融通が可能になるため、無駄な発注がなくなります。
また、各工場の発注を一本化することでスケールメリットが得られる可能性があります。ただし、場合によっては遠方からの納品となって、従前よりも物流費が上昇する恐れがあるので注意が必要です。
4)購買先と交渉する際のポイント
資材購買コストに限らず、値下げ(コスト削減)交渉の窓口となった担当者は、上長に指示された通りにコスト削減をすることばかりに意識が向きがちです。そうした担当者は、値下げ交渉をせざるを得ない自社の状況や値下げ幅の設定根拠などを相手に十分に説明せず、繰り返し値下げ要請だけをしがちです。
しかし、理由はどうであれ、値下げを依頼される購買先は自社に対して少なからず不信感を抱くものです。過去にも値下げをしたことがある場合はなおさらです。
そのため、値下げ交渉の窓口となった担当者は、誠意ある姿勢で相手と交渉しなければなりません。その際、該当する資材の市況なども話題になるはずなので、そうした意味で、購買担当者には資材に関する専門的知識の他、コミュニケーション能力や交渉力も求められます。
4 情報を活用するための体制整備
1)社内イントラネットなどで情報を収集
購買は単に購買担当者だけで完結する業務ではなく、営業担当者や製造担当者などさまざまな部門とのやり取りが必要になります。そのため、社内イントラネットなどを使って社内の情報がしっかりと共有できる体制を整えることが不可欠です。こうした情報システムでは、資材に関する全ての情報を一元管理するのが望ましいでしょう。
2)社外のマーケットプレイスへの参加
現在、資材調達に関するさまざまなウェブサイトが開設されています。業界団体や複数の大手企業が合同で開設したマーケットプレイス(MP)は参加企業が多いことから、従来よりも低コストで資材が購買できる可能性があります。実際に売買取引をしなくても、地域やロットによる資材の相場観を知ることができます。
また、オフィス備品や消耗品を中心に扱うECサイトの「カウネット」では、複数の調達先から一括で見積もりを取ることができる商談機能や会計システムと連携できるシステムを提供しています。こうしたサービスの利用を検討することで、購買業務の手間を削減できるかもしれません。
このように、購買担当者は社外のMPにも精通し、必要に応じて参加することが重要です。また、MPの運営者が「資材購買コストの削減セミナー」などを開催することがあるので、購買担当者は積極的に参加するようにしましょう。参加者は、同じような課題を抱えた企業の購買担当者であり、お互いに情報を交換するなどしておけば、そこで形成した人脈は後々も役に立つでしょう。
5 最も重要な購買担当者の育成
資材購買コストの削減において購買担当者が果たす役割は非常に大きなものです。特に、限られた従業員が購買を担当している中小企業では、いかに購買担当者の知識レベルを向上させ、経験を積ませるかが重要になります。
そのため、企業は購買担当者に次に紹介するような資材購買関連の資格取得を奨励しましょう。次に挙げる資格取得を目指すのは、一部上場クラスの企業の購買担当者が中心ですが、中小企業の購買担当者が取得しても十分に役立つものです。
1)日本能率協会「調達プロフェッショナル認定者」
日本能率協会では、購買・調達業務のプロフェッショナルとして必要とされるスキルを習得した者を、調達プロフェッショナル認定者(Certified Procurement Professional、以下「CPP」)として認定する資格試験を実施しています(試験方法は、コンピューターを用いた、いわゆる「CBT」)。
「CPP資格 公式サイト」によると、CPP資格の種類などは次の通りです。
2)日本資材管理協会「資材管理士」
日本資材管理協会では、資材・購買部門の実務担当者を対象に、資材管理士の資格認定を行っています。この資格を取得するには、日本資材管理協会が実施する資材管理士専門コースを受講し、受講後に、所定のリポート審査に合格することが必要です。日本資材管理協会ウェブサイトによると、資材管理士の試験概要は次の通りです。
- 時期:毎年約3カ月間のうち、十数回にわたる講義が実施されます
- 費用:会員は16万円(1名・税込み)
非会員は19万5000円(1名・税込み)
以上(2020年7月)
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