書いてあること

  • 主な読者:社名の変更を検討している企業の経営者
  • 課題:社名変更に際しての留意点を押さえておきたい
  • 解決策:必要な手続きを理解するとともに、他社の変更事例を参考にする

1 社名変更の意義と気を付けるべきこと

1)企業のブランドイメージ構築や方向性を左右する社名変更

企業は、合併やブランドイメージの構築などに際して、社名を変更することがあります。社名は、企業のブランドイメージや目指す方向性に関わる大切なものであるため、慎重に決定しなければなりません。

2)何のための社名変更か

社名変更には必ず理由があります。例えば、次に挙げるようなものがあります。こうした理由は1つではなく、いくつか重なっているケースもあります。

  • 企業合併、経営統合の一環
  • 経営者交代による旧来の企業イメージの一掃
  • 社名と事業の実態の一致
  • ブランドイメージの一新や向上

社名変更の理由はさまざまですが、重要なことは「社名変更は企業刷新のために実施する」ということです。一方で、社名変更を企業刷新の出発点とするはずが、「社名を変更する」という作業がゴールになってしまうケースもあります。このような社名変更はその後の具体的な行動と結びつきにくくなってしまいます。

3)社名変更の取り組みに当たって

社名変更に当たっては、「刷新すべき点」「刷新すべきでない点」を明確にする必要があります。この区分が十分ではない場合、社名変更前に持っていた良さを失ってしまう恐れがあります。これは、社名変更によって社員の意識が改革された際、残しておくべき企業の良い点が捨てられてしまう可能性があるためです。

例えば、手厚いアフターケアが売りの訪問販売を手掛けていた企業が、独自のアイデアをアピールしようと「企画」を含む社名に変更した結果、次に挙げるような状況に陥ってしまうことも考えられるのです。

  • 役職員が新規顧客獲得のための企画に集中
  • 既存顧客へのアフターケアに力を注がなくなる
  • 結果としてブランドイメージが落ちる

このような状況を避けるため、社名変更に際しては、「何を刷新し、何を残すのか」について明確にした上で、企業刷新を進めていく必要があります。

具体的なポイントとしては、次のような点が挙げられます。

  • 社名変更に合わせて経営理念や行動指針などを見直し、何を変えるのか明確にする
  • 社名変更の後も残すべき点についても明確にする
  • 社名変更によって刷新する点、残す点を全役職員で共有する

2 社名変更の手続き上の留意点

1)変更後の社名を決める際の基本的な留意点

社名変更の取り組みを開始して変更後の社名を検討する際、次に挙げる点に留意する必要があります。

  • 同一所在地に、変更後の商号(社名)と同じ商号の企業がないか確認する
    (例:会社所在地に「○◆企画」という商号の企業が既にある場合、「○◆企画」では登記できない。ただし、「株式会社○◆企画」と「○◆企画株式会社」、「○◆企画株式会社」と「○◆企画合資会社」は同一の商号には当たらない)
  • 株式会社など会社の種類を社名に含める
  • 法令によって制限されている名称、およびそれに類似する名称は使用しない
    (例:銀行、信用金庫、信用組合など)

2)社名に使用できる字

登記する社名については、通常の日本語である日本文字以外に、次の字が使用できます。

  • ローマ字(大文字および小文字)
  • アラビア数字
  • 字句を区切る際の符号(「&」(アンパサンド)、「’」(アポストロフィー)、「,」(コンマ)「-」(ハイフン)、「.」(ピリオド)、「・」(中点))。ただし、社名の先頭や末尾に用いることはできない
  • 空白(スペース)。ただし、ローマ字を用いて複数の単語を表記する場合に限り、当該単語の間を区切るために使用できる

社名を変更するに当たっては、司法書士などの専門家に相談する、登記所(法務局・地方法務局・その支局および出張所の総称)に直接問い合わせるなどして、細部まで確認しましょう。

3)社名(商号)変更の手続き上の留意点

社名は定款に必ず記載しなければならない事項です。そのため、社名変更に当たっては、株主総会の特別決議を経て、定款の社名に関わる箇所を変更する必要があります。

定款の変更後、必ず管轄の登記所に社名(商号)を変更した旨の登記(変更登記)を申請する必要があります。登記期間は、登記の事由が発生したときから2週間以内です。

管轄の登記所や申請の詳細については、法務局のウェブサイトで確認できます。

■法務局■
http://houmukyoku.moj.go.jp/homu/static/

3 社名変更により発生する主な手続きのチェックリスト

変更登記の申請手続き以外にも、社名変更によって生じる手続きは少なくありません。そのため、実際の変更に際しては、変更手続きチェックリストを作成し、確実に社名変更に関わる手続きを行えるようにします。

また、金融機関などに社名変更を届け出るに当たっては、登記簿・履歴事項全部証明書など、社名変更を証明する書類の提出を求められる場合があります。提出する必要がある手続きを事前に確認し、必要な部数をまとめて取得するようにしましょう。

社名変更により発生する手続きの項目(例)は次の通りです。

1.社外的な手続き

  • 印鑑登録の変更
  • 社会保険、労働保険に関する必要な届け出
  • 税務署、都道府県税事務所への届け出
  • 郵便局、電話(固定電話、携帯電話、インターネットプロバイダーなど)、水、ガス、電気などの変更通知
  • 不動産や社有車などの動産の名義変更(自社保有の場合)、貸し主への連絡・契約書の変更手続き(賃貸している場合)
  • 得意先への挨拶
  • 取引金融機関への挨拶、届け出
  • 仕入先への挨拶
  • 契約保険会社などへの届け出
  • クレジットカード会社、ETCなどの届け出
  • 各種加盟団体への届け出
  • 自社の社名を端的にあらわした、ホームページのドメインの再取得

2.社内的な手続き

  • 看板、広告塔などの変更
  • 名刺、社章などの変更
  • 社用箋や封筒の変更
  • 納品書、請求書、見積書、領収書などの伝票の変更
  • 会社案内の変更
  • 自社ウェブサイトの社名表記変更
  • 商品カタログ、販売促進ツールなどの変更

これらの手続き以外にも、都道府県や市区町村に社名変更を届け出るなど、自社が行っている事業などによっては社名変更に伴う手続きが生じる場合があります。そのため、司法書士や社会保険労務士などの専門家に相談して、漏れがないようにすることが望ましいでしょう。

4 社名変更をした企業の事例

1)認知度の高いブランド名に統一

石油元売りなどエネルギー関連を手掛けるJXTGホールディングス(当時)は2020年6月25日に、社名を「ENEOSホールディングス」に変更しました。同時に傘下の「JXTGエネルギー」の社名も「ENEOS」に変更しています。

同社は石油元売り業界による再編に伴い、最終的にかつての共同石油、日本鉱業、日本石油、三菱石油、九州石油、ゼネラル石油、東燃、三井石油、エッソ石油、モービル石油(いずれも旧社名)などが合流して誕生した経緯があり、再編の過程で社名がJXTGホールディングスとなりました。

ただ、同社が展開するサービスステーションは、2001年から「ENEOS」のブランド名を使用しています。社名とブランド名を統一することにより、「『ENEOS』の高い知名度を活用した成長事業の育成・新規事業の創出を推進するとともに、長期ビジョンで掲げる『アジアを代表するエネルギー・素材企業』の実現に向けたグローバルブランドへの飛躍」(同社プレスリリース)を目指すとしています。

2)発祥時のDNAを社名に込める

機械メーカーの東芝機械(当時)は2020年4月1日に、社名を「芝浦機械」に変更しました。社名変更のきっかけは、2017年3月に東芝グループから離脱したことです。同社の発祥は「芝浦製作所」であり、古くから「SHIBAURA」ブランドを使用していることから、新社名にしました。新社名には、「『ものづくり』を通じて社会に貢献することで進化を続けてきた、このDNAを忘れることなく、今後も、『お客様と共に更なる進化を遂げていく』との思いを込めて」(同社プレスリリース)います。

3)海外展開を見据えた社名に

ねじ商社の小林産業(当時)は2020年4月1日に、社名を「トルク」に変更しました。さらなる事業領域の拡大や、これからの海外展開を見据えて、変更を決めました。新社名は「駆動力」を意味する「Torque」に由来しており、「業界の基軸として力を発揮する存在になりたい」(同社ウェブサイト)、「世界に通用する存在になりたい」(同)との思いを込めています。

以上(2020年9月)

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画像:photo-ac

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