書いてあること

  • 主な読者:自社に適用される自社株の評価方式を知りたい経営者
  • 課題:自社に適用される自社株の評価方式が、どのように決まるのか分からない
  • 解決策:税務上の評価は「会社規模」と「株主区分」で決まる。ただし、M&Aの場合は事業の成長性など別の視点でも評価する

1 自社に有利な自社株評価

自社株は「売買(売った側に、所得税などが課税される)」「相続(受け取る側に、相続税が課税される)」「贈与(受け取る側に、贈与税が課税される)」によって引き渡されます。自社株の評価が高ければ税金は高く、逆の場合もしかりです。

自社にとって有利な評価方式を選びたいところですが、採用される評価方式は、

  1. 会社規模:株式の発行会社(以下「評価会社」)の従業員数など
  2. 株主区分:評価会社の経営支配力を有しているか否かなど

によって決まります。この記事で、相続・贈与における具体的な考え方を説明します。なお、評価方式の詳細な内容(計算式など)や評価方式ごとの評価額の引き下げ方法については、以下の記事でまとめています。

80145 【自社株(1)】自社株の評価方式とそれぞれの計算式

80093 【自社株(3)】自社株の評価額を引き下げる方法

2 会社規模の判定

会社規模は、

  • 第1次判定:従業員数
  • 第2次判定:総資産価額(帳簿価額)
  • 第3次判定:取引金額

の3つで判定します。分かりやすいポイントは、従業員数70人以上だと大会社、従業員数70人未満だと第2次判定と第3次判定で決まるということです。従業員数は、

  1. 週30時間以上の勤務時間で、直前期1年間継続して勤務していた者を「1人」
  2. 直前期末以前1年間の労働時間の合計を1800時間で除した数

を足して求めます。使用人兼務役員は従業員として含めますが、使用人兼務役員以外の役員は含めません。なお、第2次判定の従業員数に端数が生じた場合、例えば5.1人なら「5人超」、4.9人なら「5人以下」となります。

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以下では、従業員数70人未満の判定を紹介します。なお、表中の「L値」とは、

純資産価額方式と類似業種比準方式を併用する場合の類似業種比準方式の割合

です。

1.卸売業の会社規模

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2.小売・サービス業の会社規模

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3.卸売・小売・サービス業以外の業種の会社規模

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3 株主区分の判定

1)株主のグループ化

株主区分の判定では、まず株主を同一株主グループに分けます。同一株主グループとは、

親兄弟などの親族をはじめ、一定の関係にある者を含めたグループ

のことで、具体的には次のようになります。

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さまざまな同一株主グループがある場合、議決権割合(持株状況)の合計が最も高いグループを筆頭株主グループといいます。こうして各グループの議決権割合を把握します。議決権割合は、

常に株主の異動後の状態で判定

します。例えば、売買によって株主が異動した場合は、売買後の状態で判定します。

2)株主区分の判定図

同一株主グループごとの議決権割合が分かったら、次のチャートで株主区分を判定します。なお、図表の中に出てくる用語の説明は次の通りです。

1.同族株主

まず、法人税法施行令第4条に定める「特殊の関係にある個人または法人」を同族関係者といいます。同族株主とは、

議決権割合の50%超を保有する同一株主グループに属する株主とその同族関係者

のことです。

なお、どの株主グループも議決権総数の50%超を持っていない場合は、

議決権割合の30%以上を保有する同一株主グループに属する株主とその同族関係者

が同族株主となります。

2.同族株主等

同族株主等とは、

同族株主のいない会社の株主で、議決権割合の15%以上(取得したことに伴って15%以上となった場合を含む)を保有する同一株主グループに属する株主

のことです。

3.中心的な同族株主

中心的な同族株主とは、

同族株主の1人並びにその株主の配偶者、直系血族、兄弟姉妹および1親等の姻族の有する議決権の合計が、議決権総数の25%以上である当該株主およびその同族株主

のことです。

4.中心的な株主

中心的な株主とは、

株主の1人とその同族関係者の有する議決権の合計が、議決権総数の15%以上である同一株主グループで、なおかつ1人で議決権総数の10%以上を有している株主

のことです。

5.役員

社長や理事長の他、次の者です。

【法人税法施行令第71条第1項(抜粋)】

第1号 代表取締役、代表執行役、代表理事及び清算人

第2号 副社長、専務、常務、その他これらに準ずる職制上の地位を有する者

第4号 取締役(指名委員会等設置会社の取締役及び監査等委員である取締役に限る)、会計参与及び監査役並びに監事

6.原則的評価方式

原則的評価方式とは、類似業種比準方式、純資産価額方式、両者の併用方式のいずれかのことです。

7.特例的評価方式

特例的評価方式とは、配当還元方式のことです。

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4 取引相場のない株式等の評価方式

以上の結果を踏まえ、いよいよ評価方式が決まります。繰り返しますが、取引相場のない株式等の評価方式は会社規模と株主区分の組み合わせで決まり、その結果は次の通りです。

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前述した通り、原則的評価方式には、

  1. 類似業種比準方式
  2. 純資産価額方式
  3. 両者の併用方式

の3種類があります。会社規模に応じた評価方式と同族株主の評価方式は、原則的評価方式となります。一方、同族株主以外の株主は「配当還元方式」となります。

また、株主区分について補足しておきます。同族株主は経営支配の中心にあり、会社の財産はそのまま個人の財産であると言えるほど密接かつ重要な地位にあります。そのため、同族株主の持株は、会社の大きさに応じた原則的評価方式を適用します。一方の同族株主以外の株主には配当還元方式が適用されますが、その評価額が原則的評価方式を適用した場合を超えると、原則的評価方式が適用されます。

この記事はこれで終わりです。評価方式の詳細な内容(計算式など)については、以下の記事でまとめています。

80145 【自社株(1)】自社株の評価方式とそれぞれの計算式

以上(2023年6月更新)
(監修 税理士 谷澤佳彦)

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画像:pixabay

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