書いてあること
- 主な読者:税務調査で指摘されないよう、税金対策を適切に行いたい経営者
- 課題:法人税は税金の中でもボリュームが多く、一つの論点でも色々な角度から対策を検討しないと税務調査で指摘されることがある
- 解決策:法人税の全体像を把握するため、法人税の課税対象や計算の考え方(会計の損益計算と税務の所得計算の違い)などの概要を押さえる
1 経営者にとって最も身近な「法人税」
法人税は中期経営計画と関係性が深く、いわゆる「決算対策」の対象にもります。そこで、このシリーズで、経営者が押さえておきたい法人税のポイントをまとめていきます。
シリーズ第1回では、法人税の課税対象や計算に関する全体像などをご説明します。経営者が特に押さえておきたいのは、
- 会計:収益-費用=利益
- 税務:益金-損金=所得
の違いです。決算対策で自社に有利な取り組みをするのも、税務調査で指摘を受けるのも、基本的にはこの違いから生じますので、しっかりと確認していきましょう。
2 法人税の概要
1)納税義務者は法人
法人税の納税義務者(税金を納める義務がある者)は「法人」です。法人には株式会社や合同会社の他、一般社団法人や医療法人など多くの形態があります。
法人税法上では、これらの法人を、
- 内国法人:国内に本店または主たる事務所等を有する法人
- 外国法人:内国法人以外の法人
の2つに区分しています。一般的な法人の多くは「内国法人」の、「1.普通法人」に該当します。
2)課税対象は所得
法人税の課税対象は、
事業活動を通じて得た「所得の金額」
です。「所得」は会計上の「利益」に近い概念ですが、会社法と法人税法という法律の違いにより、
- 会計上は収益となるが、法人税法上は収益とならないもの
- 会計上は費用となるが、法人税法上は費用とならないもの
などが存在するため、必ずしも「利益=所得」とはなりません。この点の詳細は後述します。
3)税率は原則として23.2%
法人税の税率は、
原則として23.2%
です。ただし、中小法人の場合、
所得が年800万円以下の部分は15.0%(適用除外事業者については19.0%)に軽減
されます。例えば、所得が1000万円の中小法人の場合、800万円までは15.0%(適用除外事業者は19%)が適用され、800万円を超える部分(1000万円-800万円=200万円)には23.2%が適用されます。
なお、適用除外事業者とは、前3事業年度の平均所得金額が15億円超の中小企業者のことです。
4)申告期限
1.確定申告
法人税は、
原則として、事業年度終了の日の翌日から2カ月以内に確定申告をして法人税を納付
します。ただし、災害その他やむを得ない事情がある場合などは上記申告期限を延長することも可能です。
2.中間申告
事業年度が6カ月を超える法人は、事業年度開始の日以後6カ月を経過した日から2カ月以内に中間申告書を提出して中間法人税を納付します。一般的な1年決算法人の場合、前事業年度の法人税の12分の6相当額を中間法人税として納付するのが基本です。
3 「利益」と「所得」の違いと税務調整
1)「利益」と「所得」の違い
会計上の利益は「収益-費用=利益」として計算されますが、法人税法上の所得は「益金-損金=所得」として計算されます。益金は収益、損金は費用に近い概念ですが、会社法と法人税法という法律の違いにより、
会計上は収益(費用)となるが、法人税法上は益金(損金)とならないものがあるなど、両者は必ずしも一致しない
ことになります。
益金の場合、会計上の収益に「会計上は収益とならない(していない)が、法人税法上は益金となるもの」を加算し、「会計上は収益となるが、法人税法上は益金とならないもの」を減算することによって、法人税法上の益金が計算されることになり、損金についても同様です。この加減算調整のことを「税務調整」といいます。これを図解すると次の通りとなります。
2)税務調整の種類
税務調整項目として代表的なものは次の通りです。
1.益金算入項目:会計上は収益ではない、税務上は益金
- 会計上と法人税法上の認識基準(どのタイミングで売上に計上するか)の違いによる売上の計上漏れなど
2.益金不算入項目:会計上は収益、税務上は益金ではない
- 受取配当金(種類によって受取配当金の全額が益金にならないケースと、一部が益金にならないケースがある)
- 法人税や住民税などの還付金
- 資産の評価益(民事再生法の適用など税務上の所定の要件を満たす場合には益金となるケースもある)
3.損金算入項目:会計上は費用ではない、税務上は損金
- 会計上と法人税法上の計上基準の違いによる売上原価の計上漏れ
4.損金不算入項目:会計上は費用、税務上は損金とならない
- 法人税や住民税の本税
- 延滞税や加算税などの附帯税
- 賞与引当金や退職給付引当金の繰入額
- 役員賞与
- 減価償却超過額(税務上認められる限度額を超えて費用計上したもの)
- 資産の評価損(災害や陳腐化など税務上の所定の要件を満たす場合には、損金となるケースもある)
4 法人税の具体的な計算過程と実務
1)所得金額の算定
収益と益金、費用と損金に違いがあるため、利益と所得は必ずしも一致しません。そこで税務調整が必要となりますが、実際の確定申告書を作成する上では、益金と損金について別々に税務調整を行うのではなく、「会計上の利益をスタート」として、この会計上の利益に直接所定の税務調整を行うことによって所得金額を算出します。
図表4において会計上のP/Lと税務上のP/Lの違いをイメージした上で、実際の確定申告書を作成すると図表5のようになります。
2)法人税額(特別控除等考慮前)の計算
法人税額(特別控除等考慮前)は、上で計算した税務上の所得金額(課税所得金額)に法人税率を乗じて求めます。
3)法人税額(特別控除等考慮後)の計算
法人税法においては、従業員の賃上げを行ったり、試験研究費の支出をしている法人に対しては、計算した法人税を減額する制度(税額控除制度)などがあったりします。また、法人税額の他、一定の同族会社に対して所定の追加税額を課する制度(特別税額制度)などがあります。
従って、上記2)で計算した法人税額に、税額控除制度や特別税額制度によって計算した金額を加減算して1事業年度の法人税の総額を求めます。
4)納付すべき法人税額の計算
上記3)で計算した法人税額は1事業年度の法人税の総額ですので、最後にその事業年度中に納付した中間納付額を控除することで「確定申告により納付すべき法人税額」が計算されます。
5)実務上の留意点
法人税の課税対象となる所得の金額は「会計上の利益」をスタートにして所定の税務調整を加減算して計算されます。従って、まずは期中における会計処理を正確に行い、正しい「会計上の利益」を計算することが大前提となります。
また、税務調整を行う上で必要な資料の保存には注意しましょう。「税金計算用ファイル」をあらかじめ用意しておくなど、税金計算作業にスムーズに入れるように普段から準備しておくことが重要です。確定申告時期に慌てて収集しようとしても資料が見つからなかったり、あるいは収集漏れが見つかったりすることがあります。その場合、本来は受けられる税額控除などが受けられない可能性もあります。
なお、この記事で紹介した税務調整項目はほんの一部であり、実務上は多岐にわたります。不明点などがある場合には、税理士と綿密にコミュニケーションを取って作業を進めることなども非常に有用です。
以上(2024年3月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)
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