書いてあること

  • 主な読者:SNSを活用して人材採用に結び付けたい経営者、採用担当者
  • 課題:採用に成功するために、どうすればよいのか分からない
  • 解決策:日ごろから発信力を高める、SNSの各サービスの特徴を知るなどのポイントを押さえる

1 SNSを使った採用のメリットは?

多くの中小企業は、ハローワークや人材紹介サービスなどを利用して求人募集を行っている。しかし、深刻な人手不足が続く中、そもそも求職者と出会えないといった悩みがある。その打開策として、Twitter、Facebook、LINE などのSNSを活用して求人募集を行い、採用に結び付けようとする企業が増えている。

総務省「通信利用動向調査報告書」によると、SNSを活用している企業の割合は2017年の28.9%から2018年には36.7%に増加。そのうち、会社案内や人材募集を目的とする企業の割合が、2017年の35.5%から40.6%に増加している(図表1)。

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SNSを使った採用は、経営者や採用担当者が自身のアカウントを運用して取り組むことが多い。例えば経営者が「事務職を募集中です。関心のある方はオフィスに遊びに来ませんか? DM(ダイレクトメッセージ)を下さい」などの内容をSNSに投稿する。この投稿に反応してコンタクトしてきた求職者とやり取りや面談をして、採用活動を進めるというものだ。

今や、20代の約80%、30代の約75%が個人でSNSを利用しているといわれる中、求職者との接点をつくるためのツールとしてもSNSは注目されている。

他にも、SNSを使った採用には、次のようなメリットがある。

  • 求職者が企業に対する理解を深めやすく、「実際に企業を訪問してみたら思っていたのと違う」というミスマッチを事前に回避しやすい
  • 自ら能動的に情報収集して自社に関心を持った、モチベーションの高い人材を採用できる
  • メッセージのやり取りから、面談時に比べて「飾っていない」状態の求職者の人となりや、様子を知ることができる
  • 本格的な転職活動はしていないものの、「現在の働き方に満足していない」「良い企業があれば話を聞いてみたい」と考える求職者予備軍に対しても、アプローチできる

2 SNSを使った採用で成功するための3つのポイント

SNSを使った採用に取り組んだからといって、すぐに人材を採用できるというわけではない。SNSを使った採用の取り組み方はさまざまで、活用するツールもTwitter、Facebook、LINEなど多岐にわたる。それぞれの特徴は後述するが、どのツールを活用するにしても、共通して成功するためのポイントがある。

1)日ごろから発信力を高める

SNSを使った採用に取り組むためには、フォロワーや友達の数が多いほうがよいと考えるかもしれない。しかし、より重要になるのは「質」だ。

製造業の現場改善のコンサルティングをしている企業では、事業拡大のためにコンサルタントが必要になり、経営者のTwitterで「○○県で一緒に働いてくれる同志を募集します」と投稿したところ、面識のないフォロワーの1人からコンタクトがあり、採用に至った。

この経営者は、日ごろからコンサルティングをしたクライアントの課題、自らの仕事観などをTwitterで発信していたことから、フォロワーには、面識がない人を含めて同業者や類似の業界で働く人が多いそうだ。

この経営者がSNSを使った採用に成功したのは、投稿に共感してくれる人、考えや関心が近い人などがフォロワーになっていたからであり、こうしたフォロワーや友達をつくるためにも、経営者や採用担当者が日々の業務や、仕事観などを発信することは重要だといえる。

他にも、日ごろの発信力を高める取り組みとして、次のような事例がある。

  • 「○月○日は何の日です」などの記念日、その日の新聞の経済ニュース、就職・転職に役立つ豆知識を定期的に投稿する
  • 入社した先輩が日々の仕事や、ちょっとした独り言などを堅苦しくない口調でつぶやき、自社の雰囲気や魅力、取り組みなどを伝える
  • 実際に業務を行っている様子や、会社説明会、新入社員研修、インターンなどの様子を写真や動画と共に発信する

日々の様子や独り言などをつぶやくのは、求職者に親しみを感じさせるのに効果的だ。一方で、不特定多数が見るSNSという特性上、うっかりデリケートな発言をして「炎上」しないように気を付ける必要がある。例えば、特定の政治・宗教の話題は控える、他社をおとしめる発信はしないなど、社内でSNSの運用ルールを共有しておくとよいだろう。

2)経営者が積極的に関与する

SNSを使った採用をしている企業の中には、「まずは食事をしながらお話ししませんか?」「弊社に遊びに来てみませんか?」など、求職者へのアプローチの一部は採用担当者が行うものの、実際に関心を持ってくれた人材とその後のSNS上でのやり取りや面談などは、経営者が自ら取り組むという企業もある。

求職者の中には、表面的な面談は不要で、自らが働く現場の責任者と経営者との2回程度の面談で、しっかり話したいという人もいる。

また、経営者と実際に顔を合わせるのは、面談がかなり進んでからという企業もある中で、最初から経営者が関与することは会社の印象を良くすることにつながる。求職者は自分のことを真剣に考えてくれていると感じて、自社に関心を持つようになる。

3)実際に会えた場合は、しっかりと考えや思いを伝える

SNSを使った採用で、経営者や採用担当者からのアプローチに応えてくれる求職者は、従来型の採用活動に満足していない人たちだ。

こういう人たちは条件面だけではなく、募集要項からはうかがい知れないこと、例えば、実際に経営者と話をして、自社や事業に対する考えや思いを聞き、その企業や事業の将来性はあるのか、自分が成長できる企業なのか、経営者や採用担当者はビジネスパーソンとして尊敬できる人なのか、一緒に働きたいと思える人なのかなどを知りたいと考えている。

SNS上の投稿で、日ごろの業務や仕事観などを発信することは重要だが、それだけでは十分とはいえないので、実際に求職者と会えた機会にしっかりと考えや思いを伝える必要がある。

例えば、実際に顔を合わせた求職者に対して、「全国の中小企業の経営課題の解決につながるサイトを構築したい」「1年後にはサイト上で、業務の効率化につながるサービスを使えるようにしたい」「それを実現するためにも、サイトのシステムを構築するエンジニアを求めている」「力を貸してほしい」など、しっかりと思いを伝えることで、求職者が真剣に自社に関心を持ってくれるようになる。

3 SNSによって異なる特徴を知る

一口にSNSと言っても、サービスごとに特徴が異なる(図表2)。以降では、Twitter、Facebook、LINEなど、採用側(経営者や採用担当者)が基本的に無料で利用することができるSNSについて、特徴を紹介したい。

こうした特徴を押さえて、適切に情報を発信したり、利用したりすることで、自社が求めている人材にアプローチできるだろう。

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1)Twitter

一部では、「Twitter採用(Twitter転職)」という言葉が浸透しているほど、SNSを使った採用では一般的に利用されている。簡単に投稿ができる、実生活で面識がない人ともつながりやすいなどの理由から、Twitterが利用されることが多いようだ。

また、Twitterでは、本名以外でのアカウント登録が可能なことや、文字数制限があるので、短文で気軽な内容の投稿が多くなっている。そのため、人となりや本音が出やすく、経営者や採用担当者としては、求職者のことを知る上で参考になるようだ。

Twitterを使った採用では、求人情報を詳細に掲載するというよりも、「営業職を募集中です。関心のある方はオフィスに遊びに来ませんか? DM下さい」や、採用色を前面に出さずに、「ヘルスケア業界で働く方、○○で食事会を開催します! 業界の将来について語りませんか?」などの情報を投稿する。投稿に反応があった人とコンタクトを取って、実際に会う機会などにつなげている場合が多いようだ。

さらに一部の経営者や採用担当者は、コンタクトを取ってきた人に限らず、リツイートなどの反応をした人を確認して、自社が求める人材であれば求職中かどうかを問わず、個別にアプローチしている。

2)Facebook

FacebookはTwitterとは異なり本名での登録が基本で、出身校や所属企業などの属性を登録している人も多い。また、Facebookを通じて仕事上のやり取りを行っている人もいるので、「友達」を見ることで、どういう人とつながっているのかなど、Twitterよりも社会的な立場や交友関係を知ることができる場合もある。

Facebookを使った採用では、経営者や採用担当者が、Twitterのように自社が現在採用活動していることを簡単に告知したりするだけでなく、自社の社員紹介や社内イベントの様子など、企業案内に近い投稿をしたりしている場合もある。

なお、経営者や採用担当者の個人のアカウントではなく、自社の企業アカウントを取得している場合は、求人機能を利用できる。これはフォームに従って職種などの求人情報を記載し、投稿を作成する機能だ。また、有料になるが、Facebook上で広告を出すことで、ターゲットを絞り込んで求人情報を投稿することもできる。

3)LINE

LINEは多くの若者が日常的に利用しているSNSツールであり、採用活動にLINEを活用する企業が増えている。

LINEのメリットの1つは、求職者がメッセージを見落としてしまう可能性が少なく、スムーズに連絡が取れるという点だ。LINEはメールなどと違い、基本的にスマートフォンの画面上にメッセージが通知されることや、普段からコミュニケーションツールとして頻繁に利用されていることから、求職者が見忘れてしまったり、他のメールなどに埋もれてしまったりする心配はほとんどない。

また、LINEはメールなどと違い、求職者がメッセージを既読しているかどうかを確認できる。「メッセージには気付いているが、返信をしてこない」ということが分かるため、求職者の志望度を察したり、志望度が低い求職者に別のアプローチを検討したりすることもできる。

企業の活用事例としては、企業がLINEの友達登録用のQRコードを用意し、エントリーしてきた求職者や、イベントなどに参加した学生に対して、希望者に登録を促すというものがある。その後、定期的に説明会の情報などをタイムラインや一斉メッセージ送信などで共有する。

また、内定者フォローとして、社内報などを発信して自社の魅力をアピールしたり、内定者のグループLINEを作って内定者同士の親交の場にしたりすることで、内定辞退や早期離職の防止に取り組んでいる場合もある。

4 他の求人媒体と組み合わせる

SNSを使った採用は、企業が特定の求職者にピンポイントでアプローチする「ダイレクト・リクルーティング」の1つだ。

他にも、企業の細かいニーズに特化した人材紹介サービスや、人材会社が開催する求人イベント、リファラル採用(縁故採用)、紹介予定派遣など、求人媒体の選択肢は広がっている。

自社が求める職種、年齢、条件、人物像によって、効果を発揮する求人媒体は異なる。例えば、求める人材が専門職で、その専門職の多くが、SNSにあまりなじみのない高年齢層である場合、SNSの効果は薄いかもしれない。また、全体の母数が少ない専門職を探す場合、SNSよりも、その専門職に特化した人材紹介サービスや、ダイレクト・リクルーティングサービスを利用したほうが早い場合もあるだろう。

ただし、そうした他の求人媒体で出会った求職者の人となりを知ったり、求職者との関係を深めたりするのに、SNSは効果を発揮する。求人媒体の1つとして、また、採用の成功率を上げる補助ツールとして、SNSは企業の採用活動の幅を大きく広げるものといえる。

以上(2020年5月)

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画像:pixabay

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