書いてあること
- 主な読者:役員報酬を損金に算入するための要件が知りたい経営者
- 課題:役員報酬の支給方式による取り扱いの違いが分からない
- 解決策:「定期同額給与」か「事前確定届出給与」を導入する
1 役員報酬の額を決める際の視点
役員報酬の額を考える際、多くの会社は「企業業績」「従業員賃金とのバランス」「世間相場」の3つの要素を重視します。従業員賃金とのバランスが重視されるのは、中小企業の場合、多くの役員が従業員から出世するので、従業員賃金の延長線上に役員報酬があるためです。
一方、別の視点から考えた場合、
役員報酬の損金への算入
も非常に重要です。役員報酬は高額なので、損金に算入できるか否かで法人税等の負担が大きく変わってきます。この記事で、役員報酬を損金に算入するために導入する「定期同額給与」と「事前確定届出給与」の仕組みを紹介します。
2 定期同額給与とは
定期同額給与とは、
支給時期が1カ月以下の一定の期間ごとである給与で、その事業年度の各支給時期における支給額が同額であるもの(以下「定期同額給与」)。その他これに準ずるものとして政令で定める給与
です。定期同額給与は、役員報酬として支給する際の基本形で、後述する事前確定届出給与のような届け出は不要です。
3月決算の場合、当事業年度4月から翌事業年度3月までの12カ月の支給時期における支給額が同額である役員報酬が該当します。例えば、当事業年度4月から翌事業年度3月までの12カ月において毎月100万円支給するイメージです。
また、これに準ずるものとして政令で定める役員報酬とは、3月決算の場合、6月30日までに改定されて支給される役員報酬です。役員の報酬等は株主総会の決議事項であり、株主総会で役員報酬の支給枠が変更される場合に対応したルールです。3月決算の場合、定期同額給与の基本形と定期同額給与に準ずるものは次の通りです。
これ以外にも、定期同額給与の額の改定は臨時改定事由や業績悪化改定事由により認定されます。例えば、業績悪化改定事由に該当するのは次の通りです。
- 株主との関係上、業績や財務状況の悪化についての役員としての経営上の責任から、役員給与の額を減額せざるを得ない場合
- 取引銀行との間で行われる借入金返済のリスケジュールの協議において、役員給与の額を減額せざるを得ない場合
- 業績や財務状況または資金繰りが悪化したため、取引先等の利害関係者からの信用を維持・確保する必要性から、経営状況の改善を図るための計画が策定され、これに役員給与の額の減額が盛り込まれた場合
3 事前確定届出給与とは
事前確定届出給与とは
その役員の職務につき所定の時期に確定した額の金銭等を交付する旨の定めに基づいて支給する給与(定期同額給与および一定の業績連動給与を除く)で、決められた日までに納税地の所轄税務署長にその定めの内容に関する届け出をしているもの
です。
事前確定届出給与には役員賞与のイメージがあります。かつて、会計上の役員賞与の取り扱いが、利益処分から費用処理に変更されたことを受けて、事前確定届出給与が認められた経緯があるためです。
ここで、賞与について「従業員」と「役員」とに分けて確認してみましょう。従業員賞与の場合、前事業年度下期の業績を反映した賞与が翌事業年度6月に支給されるのが一般的です。従来の役員賞与も従業員賞与と同様、前事業年度の業績を反映して、翌事業年度に支給されていました。両者の違いは、従業員賞与が経費処理、役員賞与は利益処分である点でした。
そこで、事前確定届出給与を活用して、役員賞与を従業員賞与のように「課税所得の計算上、損金の額に算入できるようにしよう」という考えが出てきました。しかし、前事業年度の業績を反映した従来の役員賞与の考えの場合は通用しません。なぜなら、事前確定届出給与の位置付けは、従来の役員賞与というよりも従来の役員報酬に近いものだからです。分かりやすく説明すると、事前確定届出給与は役員報酬を12等分して毎月同額支給するのではなく、役員報酬を14等分して6月と12月に14分の2を支給するといったものです。
こうした考えは、事前確定届出給与は要件を満たせば、課税所得の計算上、損金の額に算入できることが前提にあるためです。
事前確定届出給与が従来の役員報酬に近いものだと分かるのが、「四半期支給など定時同額に支給する額」を納税地の所轄税務署長に届け出る場合です。定期同額給与を支給している役員には「定期同額給与に加えて支給する額」を、定期同額給与を支給していない役員に対しては、「四半期支給など定時同額に支給する額」を納税地の所轄税務署長に届け出ます。なお、「四半期支給など定時同額に支給する額」について、非同族会社の場合には届け出は不要です。
次の「定期同額給与+事前確定届出給与」と「事前確定届出給与のみ(四半期支給)」の図表を見れば、「四半期支給など定時同額に支給する額」は従来の役員賞与ではなく、役員報酬であることが分かるでしょう。
事前確定届出給与について次のことを覚えておきましょう。
- 前事業年度の業績を反映し支給するものではないこと
- 当該事業年度の課税所得の計算上、損金算入できること
- 損金に算入するためには支給額や支給時期などを、事前に納税地の所轄税務署長に届け出なければならないこと
- 税務上の運用は厳格で、支給額が異なるなどの際には、その全額が損金不算入になること(ただし、全く支給されない(ゼロの)場合で一定のものを除く)
なお、事前確定届出給与において、企業(法人)の利益調整などは可能な限り排除される傾向にあるため、事前確定届出給与の運用には留意が必要です。事前確定届出給与を導入する際は、税理士などの専門家の意見を聞くか、納税地の所轄税務署に問い合わせましょう。
以上(2024年2月更新)
(監修 税理士 石田和也)
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