書いてあること

  • 主な読者:新しい事業主体で新規事業を検討している経営者
  • 課題:そもそもどういう視点で事業主体を選べばいいのか分からない
  • 解決策:株式会社、事業協同組合、SPCに関するメリット・デメリットをまとめる

1 組織形態ごと(株式会社、事業協同組合、SPC)の概要

1)株式会社

株式会社は、「会社法」に基づいて設立される組織で、株式を発行し、その代金である出資金を元手として事業を行い、利益追求を目指すものです。最低資本金1円以上で設立することができます。また、株式会社の機関設計などによっても異なりますが、取締役1名のみでも設立することができます(注)。

(注)例えば、定款により、全ての株式について譲渡制限が設けられている株式会社(株式譲渡制限会社)の場合、取締役会を設置せず、取締役1名で、監査役の設置も任意とすることができます。

2)事業協同組合

事業協同組合は、「中小企業等協同組合法」に基づき設立される組織で、組合員である中小企業などが相互扶助の精神に基づき協同して事業を行い、経営の合理化・効率化、取引条件の改善などにより経済的地位の向上を目指すものです。4人以上の中小企業者などによって設立され、組合員の事業を補完・支援するための事業を実施します。

従来は、同業種の事業者により設立されるケースがほとんどでしたが、異なる業種の事業者が連携して設立し、それぞれの技術やノウハウなどの経営資源を有効に活用して新技術開発や新分野開拓に取り組むケースもあります。

3)SPC

特定目的会社(Special Purpose Company、以下「SPC」)は、「資産の流動化に関する法律」に基づいて設立される組織です。SPCは、特定の資産の購入資金を投資家(特定出資)あるいは金融機関からの借り入れ(特定借り入れ)で調達し、原資産保有者(以下「オリジネーター」)から資産の譲渡を受けます。そして、その資産から得られるキャッシュフローや資産価値を裏付けとした資産対応証券を発行して、資金調達を行います。

SPCによる証券化のスキームは次の通りです。なお、SPCの目的は資産流動化のための「器」としての機能を果たすことに限定されており、資産の管理・処分に係る業務など、資産流動化に係る業務やその付帯業務を営むことは認められておらず、それらの業務は外部の会社(資産管理受託者)に委託しなければなりません(注)。

(注)資産流動化法上、資産管理受託者は、信託会社など(信託会社または信託業務を営む銀行その他の金融機関)に加え、「不動産(土地もしくは建物またはこれらに関する所有権以外の権利)」など、特定資産のうちの一定の資産については、オリジネーターまたは当該資産の管理および処分を適正に遂行するに足りる財産的基礎および人的構成を有する者が、資産管理を行うことができますが、実際は、信託会社などが資産管理受託者となることが多いようなので、本稿では、資産管理受託者を「外部の会社」としています。

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2 株式会社のメリット・デメリット

1)メリット

1.所有と経営の分離

株式会社は、企業の所有者(株主)と経営を分離することができます。議決権を持つ株主が経営をすると、経営の客観的な評価ができず、経営者の独断・独走を許す危険性があります。そのため、所有と経営を分離して、株主は経営を客観的に評価する立場に置くことで、経営の健全性を構造的に保つことを目指すことができます。

2.有限責任

株式会社の株主が負うべき責任は、その出資額を限度とし、その金額以上の責任(損失)を負うことはありません。

2)デメリット

1.税務上の優遇措置が少ない

事業協同組合やSPCと比較すると、税務上の優遇措置が少なくなります(詳細は後述)。また、株式会社の場合、配当金の支払いは利益処分項目であるため、法人税法上損金に算入することはできません。

3 事業協同組合のメリット・デメリット

1)メリット

1.高い信用度

事業協同組合は行政庁の認可を受けた中間法人であるため、その社会的地位や公益的役割により信用度は高くなります。

2.公平で平等な組織

事業協同組合は、総会(最高意思決定機関)の議決権が出資額に関係なく1人1票与えられます。よって、株式会社のように出資額で議決権を占有できないため、公平で平等な組織といえます。

3.有限責任

事業協同組合の組合員が負うべき責任は、その出資額を限度とし、出資をした金額以上の責任(損失)を負うことはありません。

4.主な税制面のメリット

事業協同組合は株式会社などに比べて税制上の優遇措置が多くなされています。例えば、事業協同組合の法人税率は次の通りです。

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また、事業協同組合が出資者から徴収した加入金(持分調整金)は益金不算入であったり、組合の事業を利用した分量に応じて支払う事業利用分量配当を損金に算入できたりするため、その分利益を抑えることができます。

この他にも、代表理事の変更などにかかる登録免許税、事業所や倉庫にかかる固定資産税の非課税などの優遇措置などもあります。

2)デメリット

1.設立手続きが煩雑

事業協同組合は、行政庁の管理監督下に置かれるため、高い信用度を得られる半面、その手続きが煩雑となっています。例えば、設立手続きは、おおむね株式会社の5倍の書類が必要になるといわれています。

2.組合員になれるのは中小企業者など

事業協同組合は、中小企業者などの事業の近代化・合理化と取引条件の改善などを目的とした組織であるため、組合員になれるのは原則中小企業者などに限られています。なお、中小企業者などとは業種ごとに定義されており、例えば製造業では、資本金3億円以下または従業員数300人以下の法人・個人事業主などに限られます。

3.出資総額に制限がある

事業協同組合は、平等の原則を保持するため1組合員の出資は出資総額の4分の1までという制限が設けられています。

4 SPCのメリット・デメリット

1)メリット

1.SPCの資産の信用力のみに依拠した資金調達ができる

SPCは、オリジネーターの信用力ではなく、SPCの資産の持つ信用力(資産の価値や、資産から生み出されるキャッシュフロー)が借り入れの条件となります。そのため、オリジネーターの財政状態が良くない場合でも、SPCの資産が持つ信用力が高ければ、有利な条件による資金調達を受けることができます。

2.倒産隔離

SPCについては、投資家はあくまで特定資産の収益性に対して投資しているため、SPCをオリジネーターの倒産リスク(オリジネーターが倒産した場合に、オリジネーターの債権者にSPCの特定資産を差し押さえられるなど)から切り離されていなければなりません。そのため、一般的にSPCには法的な対抗要件の具備や、人的遮断(取締役を第三者とするなど)の処置がされます。

3.オリジネーターの財産指標の改善

SPCを組成することで、オリジネーターの貸借対照表から当該資産をオフバランスすることができ、総資本利益率や自己資本比率といった財務指標を向上させることができます。特に、含み益のある資産をSPCに売却することで、オリジネーターの潜在的な企業収益力を損益計算書上に顕在化することができます。

4.主な税制面のメリット

SPCは、一定の要件を満たせば利益の配当額を損金算入できるため、課税される利益が少額になります。そのため、均等割など多少の税金は発生しますが、投資不動産から得られた収益のほとんどを投資家に配当することができます。これは、SPCが資産流動化という特定の目的のためにのみ存在する「器」としての存在にすぎないため、税制上もこれに適合した課税上の取り扱いをする措置(ペイ・スルー課税)を取ったものです。

この他にも、一定の要件を満たせば不動産取得税や登録免許税などについても軽減の措置があります。SPCに対しての軽減措置は次の通りです。

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2)デメリット

1.設立手続きが煩雑

SPCのスキームおよび事業計画について詳細に記載した「資産流動化計画」の策定や、その他業務開始に必要な書類の作成およびそれらの内閣総理大臣への届け出など、設立手続きが煩雑であり、設立段階までに相応の時間を要します。

2.コストが掛かる

SPCの設立は複雑なスキームとなるため、オリジネーター、SPC、資産管理受託者などに対する報酬の他、スキーム全体をアレンジするアレンジャー(金融機関や専門家など)に対する仲介手数料などのコストが必要となる場合があります。

3.大規模な事業以外には不向き

SPCは手続きが煩雑で、コストも掛かるため、「オフィスビルや賃貸マンションといった不動産の取得・開発」「発電設備の取得・運用」といった巨額の資金が必要で、一定のリターンも見込める大規模な事業のほうが、費用対効果が見込みやすく適しているといわれています。

5 組織形態を選ぶ際のポイント

1)経営権の所在

「誰に経営権を持たせるのか」「経営に参画するのは誰か」など、経営権が誰に所在するのかによって、最適な組織形態は異なります。例えば、複数の中小企業が共同で事業を行うような場合、公平で平等な経営ができる事業協同組合が適しているといえるでしょう。

一方、事業に参加する複数の企業の中の有力企業が事業のかじ取りを担ったほうがいい場合や、自治体や金融機関などさまざまな組織の参画を目指す場合は、株式会社やSPCが適しているといえます。

2)どれくらいの資金が必要で、出し手は誰か

事業に必要な資金の額や、資金の出し手によっても、最適な組織形態は異なります。例えば、事業に当たって地域で調達できない金額の資金が必要であったり、資本提携などを理由に資金の出し手を地域の企業に限定できない場合、資金の出し手に制限がなく、多額の資金を集めやすい株式会社やSPCが向いているでしょう。

なお、ここでは、新規事業開始に当たって事業主体となる組織として、株式会社、事業協同組合、SPCを新設することを前提に組織形態を選ぶ際のポイントを紹介しました。しかし、既存組織の中で新規事業を行う場合は、異なる問題が発生することがあります。例えば、既存の株式会社が新規事業として行う場合、「新規事業に関する倒産隔離の問題はどうするのか」「出資者が新規事業に関する経営権の取得を望んだ場合、株式を持つことで既存事業を含む株式会社全体の経営権を持つことになる」といったように、さまざまな課題が発生する可能性があるため、注意をする必要があります。

以上(2019年6月)
(監修 税理士 谷澤佳彦)

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画像:pixabay

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