書いてあること
- 主な読者:公認会計士に顧問を依頼しようと考えている中小企業の経営者
- 課題:公認会計士と税理士のしごとの違いや、中小企業における必要性がわからない
- 解決策:資格上の専門業務は違うものの、「税理士」や「公認会計士」という肩書きではなく、おのおのが持っている知識や経験によって得意な業務などは異なる
1 中小企業による公認会計士の活用
1)公認会計士の業務
公認会計士の業務は、企業が作成・公表する財務諸表に関する監査業務と、監査業務などを通じて培われた知識と経験を活かした経営全般に関するコンサルティング業務などになります。
しかし、中小企業にとって公認会計士は身近とは言い難い存在です。これは、後述するように公認会計士による監査が義務付けられている中小企業が少ないことや、公認会計士の数が少ないことなどが原因となっています。
ここでは、日本公認会計士協会のパンフレット「CPA&JICPA(2020年度版)」などを基に公認会計士の業務について簡単に説明します。
2)「監査」業務
企業から学校法人、公益法人など幅広い対象について、独立した立場から監査意見を表明し、財務情報の信頼性を担保します。
1.法定監査
法定監査とは、法律の規定によって義務付けられているものです。主なものは次の通りです。
- 金融商品取引法に基づく監査
- 会社法に基づく監査
- 保険相互会社の監査
- 特定目的会社の監査
- 投資法人の監査
2.法定監査以外の監査
- 法定監査以外の会社等の財務諸表の監査
- 特別目的の財務諸表の監査
3.国際的な監査
- 海外の取引所等に株式を上場している会社または上場申請する会社の監査
- 海外で資金調達した会社または調達しようとする会社の監査
- 日本企業の海外支店、海外子会社や合弁会社の監査
- 海外企業の日本支店、日本子会社の監査など
3)「税務」業務
公認会計士は税理士登録をすることにより、税務業務を行うことができます。事例としては、次のようなものがあります。
- 税務代理(申告、不服申立て、税務官庁との交渉など)
- 各種税務書類の作成
- 企業再編に伴う税務処理及び財務調査
- グループ法人税制、連結納税制度などの相談・助言
- 移転価格税制、タックスヘイブン税制についての相談・助言
- 海外現地法人、合弁会社設立を含む国際税務支援
- その他税務相談、助言
4)「コンサルティング」業務
経営戦略の立案から組織再編、情報システムの構築など、経営全般にわたる指導・助言を行います。事例としては、次のようなものがあります。
- 相談業務(会社の経営戦略、長期経営計画を通じたトップ・マネジメント・コンサルティング)
- 実行支援業務(情報システム・生産管理システム等の開発と導入)
- 組織再編などに関する相談、助言、財務デューデリジェンス
- IFRSに関するコンサルティングや業務支援
- 企業再生計画の策定、検証
- 統合報告の実施支援
- 環境・CSR情報の相談、助言
- 株価、知的財産等の評価
- Trustサービス(注)(WebTrust、SysTrustの原則及び基準に基づく検証・助言)
- システム監査、システムリスク監査(システム及び内部統制の信頼性・安全性・効率性等の評価・検証)
- システムコンサルティング(情報システムの開発・保守、導入、運用、リスク管理等に関するコンサルティング)
- 不正や誤謬を防止するための管理システム(内部統制組織)の立案、相談、助言
- 資金管理、在庫管理、固定資産管理などの管理会計の立案、相談、助言
- コンプライアンス成熟度評価
- コーポレート・ガバナンスの支援
(注)Trustサービスとは、インターネットを介した電子商取引の安全性やシステムの信頼性などに関する内部統制について保証を与えるサービスです。
2 中小企業における公認会計士の活用シーン
公認会計士はさまざまな業務を行っていますが、これらの中で、特に中小企業にとって身近と思われる活用シーンについて紹介します。
1)法定監査
金融商品取引法では、株式上場を行っている企業などに対して公認会計士による監査を義務付けています。また、会社法では、原則的に資本金が5億円以上または負債総額が200億円以上の会社(会計監査人の設置義務のある会社)を会計監査の対象として規定しています。なお、会社法では、機関設計が柔軟化され、いわゆる中小の非上場企業であっても、会計監査人を設置することが認められています。
2)任意監査
現状としては、公認会計士への業務委託費用の問題や、財務に対する監査を要求される機会が少ないことなどから、中小企業が公認会計士に任意監査を依頼するケースはそれほど多くないようです。
しかし、株式上場を予定している場合は、証券市場の上場基準では過去2事業年度程度(各市場によって条件は異なります)の公認会計士による監査が規定されていることから、任意監査を受ける必要があります。
ただし、株式上場を目指すのであれば資本政策の立案などの株式上場に対する準備が必要となるので、この期間にこだわらず、できるだけ早い時期から公認会計士による指導や監査を受けることが望ましいとされています。
3)税務業務
税務に関しては、中小企業にとって関心の高い事項です。前述のように、税務の専門家である税理士が身近な存在となっているため、多くの中小企業にとっては、税務業務は税理士に依頼することが一般的ですが、当該業務を公認会計士に依頼するケースもみられます。
4)コンサルティング業務
中小企業を主な依頼先とする個人の公認会計士事務所が、前述したような広範な分野に関するコンサルティング業務を行っていることはほとんどありませんが、自らの得意分野に関するコンサルティング業務を行っています。
コンサルティング業務は、他の専門家も行っていることが多く、必ずしも公認会計士を利用する必要はありません。しかし、中小企業が一層の成長を図るために、内部統制制度の整備を行う場合など、公認会計士が適任の分野もあります。
多くの公認会計士は、大手監査法人での勤務経験をもっており、大企業の動向や取り組みに関する知識と経験を有しています。このため、公認会計士に依頼することによって、内部監査制度の整った大企業を参考にしたコンサルティングが期待できるでしょう。
5)会計参与制度
会社法において「会計参与制度」が定められています。会計参与とは、取締役・執行役と共同して計算書類を作成するとともに、当該計算書類を取締役・執行役とは別に保存し、株主・会社債権者に対して開示することなどをその職務とする株式会社の新たな機関のことをいい、公認会計士(もしくは監査法人)または税理士(もしくは税理士法人)がなるものとして規定されています。
会計参与制度は、任意設置機関であり、必ずしも新たに設置する必要はありませんが、設置を検討する際には、公認会計士の利用についても併せて検討してみるとよいでしょう。
6)中小企業が公認会計士を利用する際の注意点
中小企業が公認会計士あるいは税理士を利用する際に、資格に基づいた特徴を基準にどちらの専門家を利用するか検討する人もいるようです。
例えば、「公認会計士は、税法については税理士に劣る部分もあるが、会社法などに関しては深い知識を有しているのではないか」「税理士は法人税、所得税、相続税などの各種税法については高い専門知識を有しているが、会社法などに関しては、それほど深い知識をもっていないのではないか」というようにです。
こうした特徴は、一般的な傾向としてはみられるものの、実際には、「税理士」や「公認会計士」という肩書きではなく、おのおのが持っている知識や経験によって得意な業務などは異なります。例えば、相続に強い公認会計士がいる一方で、事業承継、営業譲渡、M&Aなどの業務も行っている税理士もいます。
すなわち、中小企業が公認会計士に業務を依頼する際に重視すべき点は、一般的な傾向に注意しつつ、「この公認会計士は依頼業務に対する高い知識や経験をもっているか」という視点から、実績などを踏まえた上で検討することが必要です。
以上(2020年5月)
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画像:photo-ac