書いてあること

  • 主な読者:役員報酬の決定・変更について、基本的な留意点が知りたい経営者
  • 課題:役員報酬を決定するための手続きや、損金に算入するための要件が知りたい
  • 解決策:収支シミュレーションを行い、税務と資金繰りの両面で検討する

1 役員報酬は重要な経営判断

「役員報酬」は一般的な呼称で、

  • 会社法では「取締役(会計参与、監査役)の報酬等」
  • 法人税法では「役員給与」

と定義されます。この記事では、役員報酬と記述します。役員報酬は会計上の損益に与える影響が大きく、また所定の期限までに決定しなければなりません。そのため、

役員報酬を決定する際は、なるべく正確に損益予測をした上で、税務と資金繰りの両面から自社に合った方法・金額を決定すること

が大切です。中小企業の場合は、

役員報酬の総枠は株主総会、具体的な支給額は取締役会で決議し、定期同額給与を採用する

ことが多いでしょう。これらの点も踏まえ、この記事では、中小企業の経営者が知っておきたい役員報酬を決定するための手続きと損金に算入するための要件を紹介します。

2 役員報酬を決定するための手続き

一定の権限を持つ役員が自身の役員報酬を自由に決めると、いわゆる「お手盛り」の懸念があります。そこで報酬の支給については、

定款に定めるか、株主総会の決議が必要

です。

ただし、金額などを変更する際の手続きが煩雑なので定款に定める会社は少なく、多くは株主総会の決議を採用しています。この場合、単年度ごとに支給額を決定する方法の他、

役員報酬の総額の上限を決め(取締役報酬と監査役等報酬は別々)、個別の支給額は取締役会等の決定に委ねる

こともできます。さらに、取締役会の決議により、各取締役の報酬の配分を社長に一任することも可能です。

役員報酬の総額の上限を株主総会決議で決定した場合、上限額に変更がない限り翌年度以降の株主総会決議は不要です。上限額を変更する場合は、取締役会での決議を経て、株主総会でも決議します。なお、定時株主総会における議案例は次の通りです。

第●号議案 取締役の報酬等の額改定の件

現在の取締役の報酬額は、20XX年6月20日開催の第▲期定時株主総会において年額8000万円以内とご承認いただき今日に至っておりますが、役員報酬体系を見直し、取締役の報酬額を年額1億2000万円以内、監査役の報酬額を年額1500万円以内に改定させていただきたいと存じます。また、現在の取締役の員数は4名、監査役の員数は1名です。

3 役員報酬を損金算入するための要件

1)基本的な考え方

役員報酬を支払えば会社の利益は減少するので、法人税法で経費として認められる範囲で役員報酬を増やせば、法人税等の負担を抑えられます。一方、役員報酬には所得税等が課税されるため、役員報酬を増やせば役員の所得税等は増加します。また、税金ではありませんが、役員報酬に応じて社会保険料(健康保険料や厚生年金保険料)が発生します。社会保険料は労使折半です。

さて、税法上、損金に算入できる役員報酬は次の3種類だけです。

  • 定期同額給与
  • 事前確定届出給与
  • 業績連動給与

ただし、「3.業績連動給与」は適用規定が複雑で、同族会社には適用が認められていないことから、実質的に上場企業等だけ認められている制度です。また、「1.定期同額給与」「2.事前確定届出給与」であっても、役員の職務などに照らして不相当に高額であると判断された場合、高額とされた部分(適正額を超える部分の金額)は損金に算入できません。

2)定期同額給与

定期同額給与とは、

支給時期が1カ月以下の一定の期間ごとの給与で、その事業年度の支給額が同額のもの

です。一度決定したら、原則として事業年度内に変更できません。そのため、利益が予想より多く出そうなので事業年度内に役員報酬を増額した場合、当初決定した月額報酬のみが損金として認められ、増額部分は損金に算入できません。

なお、新型コロナウイルス感染症の影響で損益が急激に悪化した場合などは、事業年度の途中であっても、役員報酬の支給額を変更することができます。

3)事前確定届出給与

事前確定届出給与とは、

「いつ、誰に、いくら」支給するかを事前に所轄税務署長に届け出て、その通りに支給するもの

です。いわゆる「役員賞与」も、事前に届け出ていれば損金に算入できます。ただし、支給日や支給額が届け出の通りでなければ、全額が損金に算入できません。

なお、届け出の期限は、原則として以下のいずれか早いほうです。

  • 株主総会等で支給の決議をした場合、決議をした日から1カ月を経過する日
  • 事業年度の開始日から4カ月を経過する日

4 (参考)代表的な役員報酬の種類・スキーム

コーポレートガバナンス・コードの適用もあり、上場企業を中心にさまざまな種類の役員報酬が導入されているので、参考として紹介します。

  • 金銭報酬:基本報酬、賞与、退職慰労金、業績連動報酬、株価連動型報酬
  • 株式報酬:ストック・オプション、リストリクテッド・ストック、パフォーマンス・シェア

金銭報酬としては、

  • 業績連動報酬:業績指標に連動して金額が変わる報酬
  • 株価連動型報酬:会社の株価に連動して金額が決定される報酬

の導入が見られます。また、株式報酬を導入する企業も増えています。ストック・オプションに加え、

  • リストリクテッド・ストック:譲渡制限付株式。金銭報酬債権を役員に付与し、本債権による現物出資で譲渡制限付株式を取得させるスキーム
  • パフォーマンス・シェア:業績連動型株式報酬。目標の達成度合いに連動した自社株を付与するスキーム

といった、自社株を報酬とする制度が広まりつつあります。

これらは上場企業ないし上場準備企業でなければ現実的ではありませんが、最近の動向として押さえておくとよいでしょう。

以上(2024年2月更新)
(監修 税理士 石田和也)

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画像:Jacob Lund-Adobe Stock

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