書いてあること

  • 主な読者:事業承継を検討しており、自社株式の評価を引き下げたい経営者
  • 課題:自社株の評価を引き下げる方法が分からない
  • 解決策:役員退職金の支給、不動産の購入などを行う。オーナー経営者と会社との借入金、貸付金がある場合はその処理にも注意

1 自社株式の評価額の問題

事業承継は、後継者に自社株式を引き継ぐことで行われますが、業績が良いと自社株式の評価額は高くなり、贈与時または相続時の納税額も高額になります。親族内承継の場合、後継者の税負担を減らすために自社株式の評価額を引き下げることが基本となります。

気になるのは自社株式がどのように評価されるかですが、その方法は次の4つです。

  • 原則的評価方式:類似業種比準価額方式、純資産価額方式、両者の併用方式
  • 特例的評価方式:配当還元方式

詳細は省略しますが、類似業種比準価額方式と純資産価額方式のどちらの場合も、純資産価額を引き下げれば自社株式の評価額が下がりますので、純資産価額を引き下げる方法を確認しましょう。

2 純資産価額を引き下げる方法

1)役員退職金の支払い

役員退職金を支払えば純資産価額を引き下げることができます。ちなみに、事業承継税制を適用する場合は、贈与時または相続時にオーナー経営者が代表権を持っていないことが要件の1つなので、オーナー経営者を退職させて役員退職金を支給すると、「純資産価額の引き下げ」と「事業承継税制の要件の1つを満たす」ことが同時に実現します。

役員退職金の金額には注意しましょう。役員退職金の適正な金額は、

最終報酬月額×役員在任年数×功績倍率

といった功績倍率法で計算するのが通常です。数式にある「功績倍率」は、経営者であれば3倍前後となることが多いですが、あらかじめ功績倍率を定めた役員退職金規程を整備し、役員退職金を支払うときには議事録を作成しておかなければ、税務上否認される恐れがあります。

2)不動産の購入

賃貸物件となるアパートやマンションなどを会社で購入することにより、購入金額とその評価額との差額分だけ会社の純資産価額を引き下げることができます。購入したアパートやマンションなどは「時価」により評価されますが、この場合の「時価」は相続税評価額を用いることができるため、一般的に購入金額よりも低く評価されます。

ただし、事業承継以前3年以内にアパートやマンションなどを会社で購入した場合は、相続税評価額を用いて低い評価額とすることができず、通常の取引価額に相当する金額によって評価することとされるので、計画的に実施する必要があります。

3 自社株式の取り扱いと事業承継税制の問題

自社株式の問題は、事業承継後の経営権にも影響を及ぼします。経営者が持つ自社株式を、事業承継税制を使って後継者に引き継ぐ場合、

贈与や相続により引き継ぎを受けた後継者がその会社の筆頭株主となるなどの要件を満たさなければ、事業承継税制の特典である納税猶予を受けられない

のです。また、納税猶予を受けた後、引き継ぎを受けた自社株式の譲渡を行うなど、納税猶予が認められない事由が生じた場合、納税猶予を受けた贈与税や相続税の一部または全部を納付する必要があります。

4 オーナー経営者と会社との借入金・貸付金の問題

1)オーナー経営者が会社に貸し付けている場合

オーナー経営者が会社に貸し付けているケース、つまり会社の借入金の問題です。オーナー経営者が「返さなくていいですよ」と債権を放棄した場合、会社は債務免除益を計上しなければなりません。借金が減るのはいいことですが、半面、

負債(借入金)が減少して利益が増加し、純資産価額が引き上げられ、自社株式の評価額も上昇する

という問題が生じるので注意しましょう。

また、オーナー経営者が死亡した場合、会社の借入金はオーナー経営者の相続財産となり、オーナー経営者の相続人に引き継がれます。

2)会社がオーナー経営者に貸し付けている場合

先ほどとは逆に、会社がオーナー経営者に貸し付けているケース、つまり会社の貸付金の問題です。病気などオーナー経営者に特別な事情がある場合を除き、適正な利率による受取利息(認定利息)を計上しなければなりません。もし、「相手がオーナー経営者だから利息はいらない」とこの処理をしていない場合、利息相当額との差額がオーナー経営者への役員報酬となって課税されます。

適正な利率とは、その貸付金が他からの借り入れによるものであればその借入金の利率、それ以外の場合には、貸し付けを行った日の属する年ごとに租税特別措置法に定められた利率です。

また、会社が計上しているオーナー経営者に対する貸付金について債務免除した場合、返済能力がないなどの特別な事情がある場合を除き、その免除した金額の全額が給与として課税されます。

以上(2023年6月)
(監修 南青山税理士法人 税理士 窪田博行)

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画像:Mariko Mitsuda

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