書いてあること
- 主な読者:資金繰りに不安があり、もう一段のコスト削減を図りたい経営者や財務担当者
- 課題:コスト削減の中でも、手始めに経費削減を行う際のポイントを確認したい
- 解決策:経費削減を従業員の「自分ごと」にするために、難易度の低い取り組みから始め、効果を「見える化」して成功体験を積み重ね、取り組みの成果を従業員に還元する
1 より一層の経費削減は、トップダウン方式からの脱却で実現
コロナ禍、急激な円安、物価高と、不確実性が高まっている経営環境で重要なのが、無駄な支出を抑え、少しでも資金繰りに余裕を持たせることです。コスト削減で真っ先に思い浮かぶのは経費削減でしょうが、
経費削減は、もうやり尽くした
と考えている企業が多いのではないでしょうか。ですが、これまでトップダウン方式での経費削減を進めてきた企業は、トップダウン方式から脱却し、従業員の自発的な協力を得ることで、より一層の経費削減を実現できる可能性があります。なぜなら、
- リモートワークなど働き方の多様化で、経費削減の細かい取り組み方法まで全従業員に声を届けることが難しくなっている
- DXや新たな調達ルートの開拓など、従業員に新たな技術や方式に対応してもらうことで実現する経費削減の手法が増えている
- 経営者や幹部クラスには発想できないような経費削減のアイデアが必要になっている
からです。この記事では、従業員に経費削減に自発的に協力してもらうために、経費削減を「自分ごと」にするための5つのステップについて紹介します。5つのステップとは、
- 経費削減のルールをフラット化する(幹部クラスなどの特別待遇を排除する)
- 環境保全など、経費削減だけでない取り組みのメリットを示す
- 難易度の低い取り組みから始めて成功体験を積み重ねる
- 経費削減の取り組みの効果を「見える化」する
- 経費削減の取り組みの成果を従業員に還元する仕組みをつくる
です。
2 経費削減を従業員の「自分ごと」にする5つのステップ
1)経費削減のルールをフラット化する
従業員の自発的な協力を得るには、まずは幹部クラスなどに与えられていた「例外的な特別待遇」がないことが大前提となります。今の若い世代には、「お前も出世すれば、こんなにいいことが待っているぞ」という論理は通用しません。まずは社内の「不公平感」を是正し、経費削減の取り組みに対する「不満分子」を一掃しておきましょう。
例えば、出張費(タクシーや新幹線のグリーン車の利用、飛行機の座席クラスの指定、宿泊料金の上限など)について、原則として全社員を一律のルールにフラット化することは、より一層の経費削減の「一丁目一番地」といえます。
ただし、交際費のような、対外的な付き合い上、役職に応じた支出額が求められる場合など、企業活動に必要なものであれば、一定の格差を残しておいてよいでしょう。
2)環境保全など、経費削減だけでない取り組みのメリットを示す
社会貢献に対する意識の高まりにより、社会課題の解決を働くモチベーションにしている従業員もいるでしょう。こうした従業員に自発的に経費削減に協力してもらうには、経費削減の取り組みが、社会貢献につながることも伝えると効果的です。
例えば、水道光熱費を削減することは、地球環境の保全も目的であることを伝えましょう。 社会貢献につながる経費削減の取り組みであれば、対外的にも堂々とPRでき、企業のイメージアップにもつながります。
3)難易度の低い取り組みから始めて成功体験を積み重ねる
従業員を巻き込んでいくには、小さな成功体験を積み重ねていくことが大切です。経費削減に関しても、難易度別に分類し、難易度の低いことから取り組むようにしましょう。
図表の「難易度C」は、いわばトップダウン方式でも取り組めるものです。やり残していることがあれば、まず着手すべきでしょう。「難易度B」は、経営者を含めた幹部クラスや一部の従業員による「特別チーム」でも方向付けができる取り組みといえます。
重要なのは、「難易度A」に該当する取り組みです。事業全体に影響するような、経営判断が必要な取り組みの他、外部との交渉が必要な取り組み、さらに従業員の自発的な協力なしには実現しない取り組みが該当します。いずれも容易に実現できるものではないので、まずは難易度C、難易度Bの取り組みによって成功体験を積み重ね、従業員に自信をつけさせてから着手するとよいでしょう。
4)経費削減の取り組みの効果を「見える化」する
経費削減の取り組みの成功体験を積み重ねるためには、取り組みが成功したことが分かるように、「見える化」する必要があります。最も分かりやすいのが、数値化することです。例えば、通信費であれば、あらかじめ受取人の住所・居所を指定する郵便区番号ごとに区分して出す「区分郵便物」を利用したことで、どれくらい経費を削減できたか、明確に算出できます。
取り組みの効果を数値化することで、経費削減の年間目標を設定したり、部署ごとに取り組みを競わせたりすることもできます。また、経費削減のアイデアを出した人が、どれくらい企業に貢献したかも明らかになります。「見える化」は、経費削減への取り組みやアイデアを提案するモチベーションにつながるでしょう。
ただし、「数値だけを改善すればよい」という意識が強くなりすぎると、本来の業務にまで支障が出ることも懸念されます。取り組みが行き過ぎないための一定の配慮も欠かせません。
5)経費削減の取り組みの成果を従業員に還元する仕組みをつくる
経費削減の取り組みの効果が数値で見えれば、やはり成果を還元してもらいたいと考えるのが人の常といえるでしょう。
削減できた経費のうち、一定の割合を従業員に還元することも考えられます。ただ、金銭的なもので報いるだけでなく、最も成果を上げた従業員や部署、経費削減のアイデアを提案した従業員を表彰するなど、承認欲求を満たす形で成果を還元するという方法も考えられます。
以上(2023年2月)
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画像:pexels