書いてあること
- 主な読者:コスト削減を進めたい経営者
- 課題:どのような手順で、何を対象に削減していけばよいのか迷う
- 解決策:利益に貢献しないコストを科目ごとにあぶり出し、アプローチする
1 コストダウンの成否を決めるもの
中小企業のコストダウンが成果を上げにくいのは、経営者のリーダーシップに問題があるからかもしれません。社員はコストダウンをすることで、自分たちの仕事がやりにくくなることを経営者が言い始めると、急に経営者をチェックし、観察するようになります。
今回のコストダウンは「本気でやるのか、口先だけなのか」と経営者の本心を探り始めます。たとえ経営者が本気でも、「今期だけのことだから我慢して言うことを聞こう」「半年もしたら言わなくなるだろう」と自分勝手に解釈する社員も出てきます。
また、社員に厳しいコストダウンを要求する一方で、経営者の接待交際費は従来のままであったり、ある部門にだけは使い放題の予算を与えていたりすると、社員は敏感に不公平感を抱きます。
企業がコストダウンを実践し、成果を上げるためには、「経営者の本気の姿勢」「不公平感の払拭」の2つが欠かせません。そのために重要になるのが、経営者のリーダーシップです。
2 典型的な失敗例
1)前例踏襲不変型
予算計画は前例を踏襲しがちで、コストダウンの指示があっても、予算を一から見直すことがありません。この場合、コスト内容は吟味されず、安易な一律カットで対応してしまうケースがあります。
2)意思統一不完全型
部門によってコストダウン意識にバラツキがある場合です。特に製造部門と間接部門の意識に格差が生じやすくなります。こうした問題を改善しない場合、効果が目に見える製造部門にだけコストダウンを強要するケースがあります。
3)部分最適、全体不最適型
A事業部門ではコストダウンの効果が表れたが、一方でB事業部門ではコストアップとなってしまうというケースです。A事業部門の取り組みによって生じた何らかのしわ寄せをB事業部門は受けています。
4)成果短期部分型
無理なコストダウンを行って短期的には成果を上げたが、次年度以降にそのしわ寄せが表面化してコストアップとなるケースです。コストダウンは、短期的な視点と中期的な視点のバランスをとらなければなりません。
5)不測事態発生コストアップ型
実施したコストダウンにより不測の事態が生じ、企業全体としてはコストアップとなってしまうケースがあります。例えば、原材料費を見直したことによる品質の劣化と、それに伴うクレーム対応などが考えられます。
3 大切なのは経営者のリーダーシップ
1)一から見直しをする
前例を踏襲しているようでは、コストダウンの効果は期待できません。全部門において一から見直す覚悟が必要です。ただし、部門の特質を無視した一律カットは、必要なコストまで削減してしまい、生産性を低下させることもあります。
2)部門間の意識格差を認識する
部門間のコストダウン意識のバラツキは、経営者が思っているよりも大きいものです。例えば、製造原価の低減が利益に直結することをはっきりと認識している製造部門では、コストダウン意識が浸透しています。
一方、営業部門はこまごまとコストを削減するより、売り上げを獲得したほうが利益に結びつくと考える傾向があります。事実その通りなのですが、売上増加とコストダウンは別の取り組みであり、いずれも利益に結びつくことを認識させる必要があります。
3)コストダウンの対象は部門によって異なる
コストダウンの対象は、部門の特徴を見極めてから決定します。例えば、製造部門は「製造工程の見直し、歩留まりの向上、原材料や仕入れ先の見直し」、営業部門は「交際接待費や旅費の見直し」、経理部門は「残業代削減」というように異なります。
4)コストダウン負荷は部門間で均一化
コストダウンの対象が決定したら、次に「いつまでに」「何%削減するか」を決めます。大切なことは、各部門におけるコストダウンで生じる負荷の均一化を図ることです。目標設定の段階で負荷の均一化が図られていれば、部門間の競争意識も芽生えてきます。
5)最終的には経営者のリーダーシップ
できる限り負荷を均一化したとしても、他部門よりも自部門のほうが負荷が大きいといった不満は必ず生じるものです。また、経営者が「目標設定は完了した。あとは達成することが至上命令だ」と叫んだところで不満は解消しません。
経営者は部門長やその部門の社員に対し、設定した目標は公平であり、他部門と負荷は変わらないことを伝えると同時に、その目標設定には根拠があることを、数値を使うなどして社員が納得するまで説明することが求められます。
4 成功するコストダウンの考え方
正しいコストダウンを実現するために、経営者は「コストダウン計画をゼロベースから策定し、各部門の実情に合わせてコストダウンの対象を決定します。さらには、各部門におけるコストダウンの負荷の均一化を図る」という視点を持ちましょう。
しかし、これだけでは十分ではありません。全社的なマネジメント体制を整備する一方で、部門間にまたがるコストダウン計画の策定、管理も行います。そして、コストダウンの実施により偶発的に生じるトラブルにも、適切に対応しなければなりません。
中期的なマネジメントも欠かすことはできません。コストダウンの成果を1年間で求めると、無謀なコストダウンをしがちです。短期間のコストダウンであっても(短期間のコストダウンだからこそ)成果が上がれば、その期の損益計算書には反映されます。しかし、次年度にコストアップを招いてしまっては意味がありません。
成果の反動が生じるような無謀なコストダウンを防止する意味でも中期的なマネジメントが必要です。
以上(2018年10月)
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