1 交際費を削減せよ!
このシリーズでは、架空のサクゲン株式会社を舞台としたコスト削減の取り組みを、シミュレーション付きで紹介しています。今回のテーマは「交際費」で、コスト全般の削減シミュレーションは以下からエクセルをダウンロードしてください(ウェブで閲覧の場合に限ります)。ダウンロードしたエクセルに、御社の数字を入力すれば使うことができます。
交際費の削減は、接待の頻度や、接待1回当たりの支出金額を減らすことが中心となります。これを計画的に行うためには、予算と事前承認制による支出の管理が重要です。また、「取引金額」「取引年数」「将来見込み」などで取引先区分を作り、取引先の重要性に応じて支出を調整するのもよいでしょう。
こうした基準を設定するのには、社長や営業部長など、営業活動に深く関わっている人物が適しています。ただし、自分が関わる支出を自分で決められるようにすると、基準が甘くなることもあるので、他部門からのチェックを受けることが望ましいでしょう。
2 交際費の削減方針
製造部長と営業部長が、交際費の削減方針について話し合います。
製造部長:交際費の削減方針をまとめよう。まずは思いつく削減方法を挙げていくが、売上への影響はしっかりと考えよう。
営業部長:そうだね。中小企業庁のデータだと、同じ業種・規模の平均の交際費は対売上比0.2%だが、当社の昨年度の交際費は対売上比0.35%とちょっと高い。なので、まずはこの0.2%を基準に予算計画を立てたいと思います。
製造部長:具体的にどうする?
営業部長:まずは取引先区分を作って支出額を調整し、接待を事前承認制とする。取引先区分や承認基準の作成は、私に任せてください。作成後、確認をお願いします。
製造部長:分かったよ。よろしく頼む!
この会話を受けて、削減方針を次のようにまとめました。
交際費
- 定 義:取引先などを接待・供応・慰安・贈答、その他これらに類する行為への支出
- 支出内容:取引先などとの飲食費、送迎費、贈答費など
- 削減方針:頻度を減らす、支出金額を減らす
- 削減目標:450万円
さらに、提案があった削減方法のアイデアの取り組み難易度を決め、1年間の削減効果と削減に必要となる追加支出をシミュレーションして、取り組みの優先順位を決めました。具体的には次の通りです。
なお、図表中の削減効果はサクゲン株式会社のシミュレーション条件によるものです。実際の効果は会社ごとに異なります。
3 交際費の削減シミュレーション
1)お中元・お歳暮の贈答費を取引先区分で調整する(難易度:中)
交際費の支出は、得意先・仕入先などとの関係性に応じ、めりはりをつけることで、コスト削減につながります。
サクゲン株式会社では、取引先の会社・事業所100件に対し、毎年、お中元・お歳暮(各5000円の品)を贈っています。
費用対効果の視点から、「取引金額」「取引年数」「将来見込み」などで取引先区分を作り、お中元・お歳暮の予算について、上位20件は5000円のまま、中間60件は3000円、下位20件は贈り物をしないことにした場合、1年間の削減効果は次のようになります。
44万円=[(5000円×100件)-(5000円×20件+3000円×60件)]×2回
2)交際費の飲食費・送迎費を適正予算まで抑える(難易度:中)
交際費は、売上高や粗利益に対する比率を適正化し、予算管理を徹底することで、コスト削減につながります。
サクゲン株式会社では、これまで交際費の支出については、現場の判断に任せており、予算管理が徹底されていませんでした。交際費について、昨年度分を集計すると、対売上比0.35%(売上高10億円、交際費350万円、うち飲食費・送迎費250万円)でした。
中小企業庁「中小企業実態調査」などを参考に、交際費の予算を同業種・同規模平均の対売上比0.2%(200万円)に設定し、かつ役員の事前承認制にして予算管理を徹底します。今年度予算のうち、1)の通りに贈答費予算として56万円を計画した場合、飲食費・送迎費予算は144万円となり、1年間の削減効果は次のようになります。
106万円=250万円-144万円
適正な交際費の水準を探る上では、同業種・同規模の会社と自社の交際費の支出額を比較してみることも大切です。例えば、中小企業庁「中小企業実態調査」を見ると、交際費の金額が産業別・規模別などで分かります。ただし、営業上必要不可欠な交際費もあるので、統計データの金額はあくまで1つの目安として考えましょう。
4 交際費を削減するときのポイント
1)公私混同がないよう社員教育を徹底する
交際費は費用対効果が分かりにくい項目です。また、「誰に、どれだけ、どのような形で支出するのか」の判断が、社員の裁量に委ねられがちです。そのため、不要な支出の温床になりかねません。また、公私混同した使い方ができる余地も生まれやすくなります。
社員には、交際費は「会社の代表として、会社の利益のために使う、会社の貴重なお金」という意識を持たせるように、教育を徹底する必要があるでしょう。加えて、予算の見直しや事前承認制を導入するなどして、無駄な支出を防ぐ仕組みを作ることが大切です。
2)税法上の取り扱いを確認するなど、社員のお金に対する意識を高める
交際費は、税法上、原則として損金(税金計算上の費用)に算入できませんが、一定の支出については損金算入できるなどの特例措置があります。例えば、1人当たりの飲食費が1万円以下の場合には、交際費に含めず会議費などとして損金算入できます。
また、資本金が1億円以下の会社など(以下「中小企業」)については、年間800万円までは損金算入できます。中小企業の交際費が年間800万円を超えることは少ないため、実質、交際費は損金算入が前提です。
このような税法上の取り扱いを社員に学習させると、会社のお金の流れに対する理解が深まり、予算管理の徹底などにもつながります。
なお、交際費以外のコストの削減アイデアは、それぞれのリンクから見ることができます。
以上(2025年2月更新)
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画像:Mariko Mitsuda