1 通信費を削減せよ!
このシリーズでは、架空のサクゲン株式会社を舞台としたコスト削減の取り組みをシミュレーション付きで紹介しています。今回のテーマは「通信費」で、コスト全般の削減シミュレーションは以下からエクセルをダウンロードしてください(ウェブで閲覧の場合に限ります)。ダウンロードしたエクセルに、御社の数字を入力すれば使うことができます。
通信費は、「インターネット回線・電話関係」と「郵送関係」の2つに大別できます。
インターネット回線・電話関係の通信費の削減は、契約の見直しが中心となります。もし携帯電話の主な使用用途が社内通話の場合、通話手段をメッセージアプリやSNSの通話機能に切り替え、かけ放題プランを契約から外すという削減方法も考えられます。
郵送関係の通信費の削減は、2024年10月から郵便料金が値上がりしたことが見逃せません。また、2024年1月にヤマト運輸のクロネコDM便が終了となり、同年2月からはクロネコゆうメールが提供されるなど、これまで利用されてきたサービスが変わっています。これを機に、割引の適用を受けられないか、代替サービスがないかを調べてみましょう。
2 通信費の削減方針
管理部長と営業部長が、通信費の削減方針について話し合います。
管理部長:通信費の削減方針をまとめましょう。まずは、インターネット回線・電話関係からですね。
営業部長:これは契約の見直しが中心になりそうだ。今さらスマートフォンの支給をやめて、個人のものに切り替えるようなことはできないし。
管理部長:そうですね、情報の漏洩にもつながりますし。ということで、インターネット回線を光コラボレーション回線に乗り替えるなどがよいでしょう。あと、スマートフォンは法人割引を申請しましょう。一層のこと、格安SIMに乗り換えてみるというのも。
営業部長:格安SIMは通話品質が心配だな。取引先との通話に支障が出るのは困るよ。
管理部長:では、試験的に数台を導入してみるのはどうでしょう。あと、個人的に利用している社員にヒアリングもしましょう。
営業部長:分かった。
管理部長:次は、郵送関係ですね。郵便物の大半は、ECサイトの販促用はがきですね。
営業部長:調べてみたが、大量に送る場合は郵便局で割引が受けられるらしい。
管理部長:なるほど。あと、販促活動を郵便からメッセージアプリに変えられないでしょうか? 2024年10月から郵便料金が値上がりしていますし。
営業部長:お客様あってのことだから、すぐに切り替えるのは難しそうだが、少しずつ変えていくことはできるな。
管理部長:今利用しているECサイトの利用料は削減できないですか?
営業部長:それは難しいな。当社で利用しているECサイトは大手でサービスも良く、売れ行きも好調だ。料金プランも登録商品数によって決まっていて、今は最安のプランを利用しているし……。
この会話を受けて、削減方針を次のようにまとめました。
インターネット回線・電話関係の通信費
- 定 義:社内外への連絡に必要となる支出のうち、インターネット回線・電話関係のもの
- 支出内容:インターネット通信費、クラウドサービス利用料、固定電話・携帯電話の料金など
- 削減方針:契約内容・契約先を変える、通信手段を変える
- 削減目標:100万円
郵送関係の通信費
- 定 義:社内外への連絡に必要となる支出のうち、郵送関係のもの
- 支出内容:郵便切手・はがき代、書留料金、小包郵便料金、ゆうパック料金、宅配便料金など
- 削減方針:割引を受ける、郵送手段を変える
- 削減目標:300万円
さらに、提案があった削減方法のアイデアの取り組み難易度を決め、1年間の削減効果と削減に必要となる追加支出をシミュレーションして、取り組みの優先順位を決めました。具体的には次の通りです。
なお、図表中の削減効果は、サクゲン株式会社のシミュレーション条件によるものです。実際の効果は会社ごとに異なります。
3 インターネット回線・電話関係の通信費の削減シミュレーション
1)社用携帯のかけ放題を解約し、格安SIMに乗り換える(難易度:中)
社用携帯は、オプションなどの契約を見直し、大手通信キャリアのものから格安SIMに乗り換えることで、コスト削減につながります。
サクゲン株式会社では、営業部門の5人にスマートフォンを1台ずつ貸与し、大手通信キャリアと契約しています。月額料金の内訳は次の通りです。
- データ通信量3ギガバイトの基本料金:2000円
- かけ放題オプション:2000円
- 付帯機能:500円
これを、次の条件の格安SIMに乗り換えます。なお、かけ放題オプションは付与しません。電話時間の大部分を占める社内通話については、無料のメッセージアプリを利用します。
- データ通信量5ギガバイトの基本料金:900円
1年間の削減効果は次のようになります。
21万円≒[(2000円+2000円+500円)-900円]×5台×12カ月
なお、格安SIMを導入するときは、通話品質を確認しましょう。また、大手通信キャリアの法人向けプランは、セキュリティー対策や紛失時のリカバリーなど充実した付帯機能を、無料または安価で提供していますが、格安SIMはこれらが付帯されていない可能性があります。
さらに、メッセージアプリの利用は、インターネット回線を用いるため、十分なセキュリティー対策を講じましょう。
2)光コラボレーション回線に乗り換える(難易度:中)
インターネット通信費は、契約を見直し、より安く利用できる他社への乗り換えや、不要なオプションを解約することで、コスト削減につながります。
サクゲン株式会社では、本社工場と日本橋オフィスのインターネット回線の利用に、プロパイダー料金を含めたインターネット通信費として、合わせて月額1万7000円を支払っています。
光コラボレーション回線(合わせて月額1万円)に乗り換えた場合、1年間の削減効果は次のようになります。
8万円≒(1万7000円-1万円)×12カ月
3)固定電話をIP電話に切り替える(難易度:中)
固定電話は、インターネット回線を利用するIP電話に切り替えることで、コスト削減につながります。
サクゲン株式会社では、本社工場と日本橋オフィスにおいて固定電話を1回線ずつ契約しています。月額料金の内訳は次の通りです。
- 回線使用料:5400円
- 屋内配線使用料:100円
- 付加機能使用料:900円
- 通話料:400円
これを、IP電話(月額2300円)に切り替えた場合、1年間の削減効果は次のようになります。
3万円≒[(5400円+100円+900円+400円)-(2300円×2回線)]×12カ月
なお、IP電話の導入に当たって、IP電話対応の固定電話機の購入費として2万円(≒1万2000円×2台)を見込んでいます。
また、IP電話は、同じIP電話会社を利用する契約者同士であれば、基本的に通話料が無料です。さらに、契約者以外の通常の固定電話や携帯電話への通話も、固定電話に比べて通話料が安価であることが多いです。
しかし、一部のIP電話は、050から始まる電話番号に変える必要があったり、音質が通常の固定電話に比べて聞き取りにくかったりすることがあります。また、セキュリティーが脆弱なIP電話が外部から乗っ取られ、国際通話が不正に発信されるなどの被害も発生しています。導入するときは、こうしたリスクを考慮し、段階的に進めていくのがよいでしょう。
4 郵送関係の通信費の削減シミュレーション
1)「広告郵便物」「バーコード付郵便物」の割引を受ける(難易度:低)
商品やサービス、営業活動に関する広告を目的とする大量の手紙やはがきは、「広告郵便物」と「バーコード付郵便物」の割引を受けることで、コスト削減につながります。
サクゲン株式会社では、月1回、自社ECの販促としてダイレクトメール3400枚(はがき:1通85円)を送っています。
広告郵便物を利用して11%、バーコード付郵便物を利用して3%の割引を受けた場合、1年間の削減効果は次のようになります。
48万円≒[85円×3400枚×(11%+3%)]×12カ月
広告郵便物は、同じ内容で大量に作成された郵便物について、差し出し通数や事前区分、内容(商品などの広告を主目的とする)などの条件を満たし、郵便局からの承認を受けることで、8~43%の割引を受けられるサービスです。詳しくは次のウェブサイトをご確認ください。
■日本郵便「広告郵便物」■
https://www.post.japanpost.jp/service/discount/ads.html
バーコード付郵便物は、一定の条件を満たし、宛先の情報をバーコード化して記載した郵便物について、3%(往復はがきは1.5%)の割引を受けられるサービスです。広告郵便物・区分郵便物と併用することができ、それぞれの割引率に加算して割引を受けられます。
なお、バーコードの印刷は自社で手配しなければならず、担当者の業務負担が増え、バーコードの印刷費用などのコストが発生することには注意が必要です。詳しくは次のウェブサイトをご確認ください。
■日本郵便「バーコード付郵便物」■
https://www.post.japanpost.jp/service/discount/barcode.html
また、定期的に商品の広告を主な目的にしていない各種広報誌・通知書を大量に送るときは、区分郵便物を利用するのがよいでしょう。
区分郵便物は、受取人の住所・居所を指定する(または差出郵便局が指定する)郵便区番号ごとに区分して郵便物を出すと、差し出し通数などの条件によって、1~6%の割引を受けられるサービスです。詳しくは次のウェブサイトをご確認ください。
■日本郵便「区分郵便物」■
https://www.post.japanpost.jp/service/discount/kubun.html
2)手紙やはがきなどをメッセージアプリに切り替える(難易度:高)
会社から顧客やサービス利用者に送る情報発信は、手紙やはがきからメッセージアプリに切り替えることで、コスト削減につながります。
サクゲン株式会社では、月1回、自社ECの販促としてダイレクトメール3400枚(はがき:1通85円)を送っています。大手メッセージアプリのビジネスアカウントに切り替え、ライトプラン(月額5000円、メッセージ数の上限は5000通)を契約した場合、1年間の削減効果は次のようになります。
340万円≒[(85円×3400枚)-5000円]×12カ月
ただし、メッセージアプリへの切り替えには、利用者にメッセージが届くように申請してもらう手間がかかること、全ての利用者がそのメッセージアプリを利用しているとは限らないこと、はがきや手紙を郵送したときと同等の広告効果を得られない場合があることなどに注意が必要です。
5 通信費を削減するときのポイント
1)自社の状況に適したサービス・プランがないか相談する
通信費に該当するものの中には、インターネット回線・電話関係か郵送関係かを問わず、利用条件によって多種多様なサービス・プランを用意しているものがあります。事業者間の競争が激しく、自社の利用条件によっては、有利な条件を引き出せる可能性もあるので、各社に相談してみるとよいでしょう。
2)従量課金制から定額制のサービスに切り替える
電話料金やFAX通信費のように、使えば使うほど料金がかかる従量課金制のサービスがある一方で、インターネット通信費のように定額制のサービスもあります。通信費を削減するためには、利用をなくす・減らすという基本的な方法はもちろん、従量課金制のサービスを、定額制に切り替えることもポイントです。
なお、通信費以外のコストの削減アイデアは、それぞれのリンクから見ることができます。
以上(2025年2月更新)
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画像:Mariko Mitsuda