書いてあること
- 主な読者:焼肉店を開業したい経営者
- 課題:業界の課題、参入する上で注意すべき点が分からない
- 解決策:業界の規模や課題を認識し、市場の動向を把握する
1 焼肉業界の市場動向
1)焼肉店の事業所数
焼肉店の事業所数の推移は次の通りです。
2)焼肉チェーンの売上高など
焼肉チェーンの売上高・店舗数・客数・客単価の前年比は次の通りです。
焼肉チェーンの売上高などは、2013年ごろからインバウンド消費、肉ブームなどによって、拡大傾向になったといわれています。その後は、継続的に売上高・店舗数・客数・客単価は前年比を上回っています。
■日本フードサービス協会■
http://www.jfnet.or.jp/
3)焼肉店の売上高ランキング
焼肉店の売上高ランキングは次の通りです。
2 焼肉業界の近年の動き
1)2011年に発生した食中毒事件の影響
1.牛肉や牛レバーの生食への規制
2011年4月に、富山県内の焼肉チェーンで牛肉の生食による集団食中毒事件が発生し、これを機に牛肉の生食に関する規制が行われました。
2011年10月からは、食品衛生法に基づいて、生食用食肉(生食用として販売される牛の食肉(内臓を除く))の加工・調理などの基準である「規格基準」と食中毒などへの注意を喚起する「表示基準」が定められ、規格基準と表示基準を満たさないものは販売・提供ができなくなりました。
また、2012年7月からは、食品衛生法に基づいて、牛のレバーを生食用として販売・提供することが禁止されました。
2.個食ユッケの開発
「規格基準」が厳格化されたことで、ユッケなどを提供する焼肉店は減少しました。しかし、その後店内で調理せず、パックに入ったまま顧客に提供する「個食ユッケ」が開発され、一部の焼肉店で導入が進んでいます。
3.豚肉や豚レバーへの生食の禁止
牛肉や牛レバーの生食への規制がされたことで、規制されていない豚肉や豚レバーの生食を提供する焼肉店が増加しました。豚肉や豚レバーの生食は、食中毒のリスクの高さが牛肉や牛レバーと同等かそれ以上とされており、厚生労働省は「食品、添加物等の規格基準」を改正し、2015年6月より豚肉や豚レバーを生食用として販売・提出することを禁止しました。
2)国産牛肉価格の高止まり
農林水産省「食品価格動向調査」によると、2019年5月(5月13日~15日)の国産牛肉の平均価格は100グラムあたり822円、輸入牛肉の価格は296円です。高齢化に伴う生産者の減少などよって国内生産が伸び悩み、国産牛肉と輸入牛肉で3倍弱の価格差が生じています。そのため、国産牛をリーズナブルに提供する「あみやき亭」では、営業減益に陥るなどの影響が出てきています。
3)牛肉ブームとインバウンド需要
焼肉やステーキなど牛肉の人気が高まっているといわれます。焼肉は原料・調理法がシンプルなため差異化が難しいとされますが、脂身の少ない「赤身肉」の人気が高まったことを受け、赤身肉をしばらく寝かせてうまみを増した「熟成肉」や、取れる量の少ない「希少部位」、消費者の嗜好の変化に合わせたメニューの開発が行われています。
また、訪日外国人が焼肉店に訪れるケースも増えているといわれます。訪日外国人が来店する焼肉店は、海外でも知名度が高い神戸牛などの和牛を提供する焼肉店や、安価な焼肉食べ放題店など幅広いようです。
3 焼肉業界の課題
1)食の安全
消費者にとって「食の安全」は重大な関心事です。そのため、焼肉チェーンでは、仕入、保管、調理といった全過程において安全対策を行い、従業員の服装や手洗い、加熱調理・解凍の時間なども適切に管理する必要があります。
2)「肉の品質」と「価格」のバランスが重要
焼肉は、素材の品質が料理の味に与える影響が大きいため、価格を下げて安い肉を提供するだけでは顧客の支持は得られません。顧客が他店と比べて相対的に安く思えるような「肉の品質」と「価格」のバランスが重要となります。例えば、あみやき亭では、安くておいしい肉を提供するために、その日仕入れた商品をその日のうちに顧客に提供するなどの工夫を行っています。
また、メニューにおける価格設定の構成も重要で、粗利益率の高いメニューと低いメニューを区別して設定することも考えられます。例えば、焼肉店の主力商品は「タン」と「ロース」と「カルビ」の3品が挙げられますが、この3品が自店の評価を決めてしまう場合が少なくありません。そのため、この3品については薄利となっても品質を優先し、他のアルコールやサイドメニューなどで利益を確保するなどの工夫も必要になってきます。
3)低投資型店舗の開発
焼肉店の客席は4人席が一般的ですが、無煙ロースターまたは排煙設備が必要となるケースもあるため、他の外食店に比べて設備投資額が高くなります。また、肉の載った皿を並べられる広いテーブルが必要なため、他の外食店に比べ客席数が少なくなりがちです。
七輪を採用したり、店舗構造や看板を見直したりするなど、低投資型店舗の開発も必要と考えられます。
以上(2019年7月)
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画像:unsplash