書いてあること

  • 主な読者:カーシェアリングサービスの提供を検討する経営者
  • 課題:現在の市場規模、車両台数、注意すべき点などが分からない
  • 解決策:市場の推移や具体的な注意点を把握する

1 カーシェアリングとは

1)カーシェアリングの定義

交通のバリアフリー化や環境対策などに取り組む交通エコロジー・モビリティ財団によると、カーシェアリングとは「1台の自動車を複数の会員が共同で利用する自動車の新しい利用形態」としています。相乗りとは違い、複数の会員が時間を変えて1台の自動車を利用します。15分単位の短時間から利用できる点や、車両の貸し出し、返却に24時間365日対応している点も大きな特徴です。

2)カーリース、レンタカーとの違い

自動車を借りるサービスとして、カーリースやレンタカーが挙げられますが、これらのサービスは利用時間や料金、車両の保管などで相違点があります。

カーシェアリング、カーリース、レンタカーの違いは次の通りです。

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2 カーシェアリングの市場動向

1)カーシェアリング車両台数と会員数の推移

交通エコロジー・モビリティ財団「わが国のカーシェアリング車両台数と会員数の推移」によると、車両台数と会員数の推移は次の通りです。

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2018年3月の調査では、車両台数は2万9208台(前年比19%増)、会員数は132万794人(同22%増)となっています。また、図表にはありませんが、カーシェアリングのステーション数は1万4941カ所(同16%増)となっており、年々拡大しています。

会員数ベースで見ると、132万794人のうち約97%を大手5社(タイムズ24、オリックス自動車、三井不動産リアルティ、アース・カー、名鉄協商)が占めています。

同団体の「全国のカーシェアリング事例一覧」によると、大手カーシェアリング企業の状況(会員数ベース)は次の通りです。

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2)車両台数とステーション数の推移

ジェイティップスが運営するカーシェアリングのサービス比較、統計を行っているウェブサイト「カーシェアリング比較360°」によると、全国のカーシェアリング車両台数とステーション数の推移は次の通りです。

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3 開業の留意点

1)資金の負担について

現在所有している駐車場をカーシェアリング会社に貸し出し、ステーションを設置する場合はカーシェアリング会社が車両や必要な設備を設置するため、資金の負担は少ない場合が多くなります。

一方、カーシェアリング会社のフランチャイズに加盟する場合や、自社で車両と予約システムを確保してカーシェアリングを手掛ける場合は資金の負担が大きくなります。

例えば、ルフト・トラベルレンタカーが提供するカーシェアリングサービス「カリチャオ!」では、フランチャイズ資金の目安を公表しています。同社ウェブサイトによると、開業時に必要な資金として加盟金が50万円、車載器が1台につき5万円、開業前の研修が4万円となっています。これに合わせて、車載器の取り付けやレンタカーの事業許可に掛かる費用、駐車場に設置する備品の購入費用が別途掛かります。

また、カーシェアリングシステムの開発や自動車電子システムの開発、サービス提供などを手掛けるサージュへのヒアリングによると、「カーシェアの予約、運用システムを構築する場合で、少なくとも200万円の費用が掛かる」とのことです。

2)会員の確保が課題

カーシェアリングは、複数人の会員からの売り上げで固定費を賄うため、ある程度の会員数を確保する必要があります。現代文化研究所が自動車保有者を対象に行った「2018年全国自動車保有ユーザー調査」によると、自家用車からカーシェアリングの利用への移行については、今後利便性が高まればカーシェアリングに移行するかとの問いに「移行する可能性はかなり高い」と答えた割合は全体で7%、「移行を検討するかもしれない」と答えた割合が全体で29%となっている一方で「あまり検討する意向はない」「全く検討する意向はない」と答えた割合がいずれも32%と高くなっています。

また、カーシェアリングの普及については、3大都市圏中心部では「普及する」との見方が57%となっている一方、10万人未満の都市や町村では23~26%と2倍以上の差があります。人口密度が低く、利用者が少なければカーシェアリングはビジネスとして成り立たないため、地方での普及は難しい面があります。

経済産業省「IoTやAIが可能とする新しいモビリティサービスに関する研究会」事務局の「中間整理を踏まえた調査結果報告」によると、ラウンドトリップ型カーシェア(車両を借りる場所と返却場所が同じサービスをいいます)を収益化するには、駐車場コストが掛からない場合でも、展開エリアの人口密度が約7000人/平方キロメートル以上であることが必要とされています。

3)カーシェアリングの差異化策

カーシェアリングの差異化策の1つとして、個人での所有・普及が難しい電気自動車や燃料電池車などの最新技術を搭載した車両を導入すること、レジャー施設や観光施設などと提携する方法が挙げられます。

例えば、日産自動車が提供するカーシェアリングサービス「NISSAN e-シェアモビ」では、車両の前後左右にカメラを配置し、車両を真上から見下ろしているように見える映像を撮影することで、車庫入れや発進時の安全確認をサポートするシステムや、走行時の車間距離を自動的に調整するシステムなど、より安全に運転するための技術を搭載した車両を利用することができます。

その他、タイムズカーシェアでは、車両の予約時にタイムズカーシェアが指定するレジャー施設や観光施設をドライブチェックインとして目的地に設定し、設定した施設の駐車場に一定時間駐車することで、電子優待券を受け取ることができます。

また、会員カードを施設で提示することで、入場料の優待などの特典を受けることができます。

4 大手カーシェアリング企業の取り組み

ここでは、大手カーシェアリング企業の取り組みと、カーシェアリングのステーションを設置するに当たっての条件や留意点についてヒアリングした結果を紹介します。

1)タイムズ24

時間貸し駐車場やカーシェアリングサービス、温浴施設の運営などを手掛けるタイムズ24では、カーシェアリングサービスの「タイムズカーシェア」を提供しています。

同サービスの取り組みとして、官民連携によるカーシェアリングサービス普及の活動が挙げられます。市庁舎に電気自動車のカーシェアリングを設置し、平日は職員の公用車、休日は市民や観光客用の車両として利用してもらうことで、カーシェアリングの認知拡大や交通利便性の向上などに取り組んでいます。

同社ウェブサイトによると、カーステーションの設置は、平面もしくは自走式の駐車場であること、路面にステッカーやスタンド看板などを設置できることが条件になります。車両の配備やメンテナンス、必要な機材の設置をタイムズ24側で行うため、無料でカーステーションを設置することができます。契約から1カ月で車両が配備されます。

同社へのヒアリングによると、「カーシェアリングのステーション設置に当たっては、現地の商圏調査や駐車場周辺の情報を調査した上で、駐車場の賃料や設置する車両などのプランを相談している。カーシェアリングの場合は、途中解約の場合の違約金も発生しない」とのことです。

2)オリックス自動車

レンタカーやカーシェアリングサービスなどを手掛けるオリックス自動車では、カーシェアリングサービスの「オリックスカーシェア」を提供しています。同サービスは、顧客満足度の調査・コンサルティングを手掛けるJ.Dパワーのカーシェアリング顧客満足度調査において、総合満足度で3年連続No.1を獲得しています。2018年から安全性の高いブレーキアシスト付きの車両への入れ替えを進めている他、スマートフォンアプリにオリックスレンタカーの店舗検索や予約機能を追加し、より便利にサービスを利用できるように取り組んでいます。

同社ウェブサイトによると、カーステーションの設置は平置きもしくは自走式の駐車場であること、NTTドコモのFOMAの電波が恒常的に受信できることが条件になっています。問い合わせからステーション開設までの期間は3カ月としています。

同社へのヒアリングによると、「現地の商圏調査などを1週間程度行った上でステーションの設置が可能かどうかを判断している。原則として1~2年の期間で賃貸借契約を結び、月決めで賃料を支払う形になる。また、ステーションの運用・管理は全てオリックス側で行うため、駐車場への特別な工事や費用は発生しない」とのことです。

3)三井不動産リアルティ

不動産仲介や駐車場の管理運営などを手掛ける三井不動産リアルティでは、カーシェアリングサービスの「カレコ・カーシェアリングクラブ(careco)」を提供しています。同サービスは、首都圏と関西の三井のリパークを中心にステーションを展開しています。普段の利用に便利な車両だけでなく、オープンカーやキャンピングカーなど、カーシェアでは珍しい車両や高級車を積極的に導入していることが特徴です。

4)アース・カー

カーシェアリングサービスや駐車場シェアリングサービスを手掛けるアース・カーでは、カーシェアリングサービスの「アースカー」を提供しています。

同サービスでは、カーシェアリング事業への参入をトータルで支援する事業者向けプラットフォームを提供しています。これは、カーシェアリングの運営に当たって必要となる仕組みをパッケージ化して提供するもので、車両とステーションとなる駐車スペースを用意すればカーシェアリングの運営を始めることができます。企業規模を問わず、参加企業の社名やサービス名などでカーシェアリングサービスを展開できるのが特徴です。

同社ウェブサイトによると、イニシャル費用は、車載器が3万9800円台/(税抜)、キーボックスが2万2800円/台(税抜)、ランニング費用は、データ通信・システム利用月額料が1万円/台(税抜)となっています。

同社へのヒアリングによると、カーシェアリングの運営については、「1台から始めることができるが、車両1台当たりの収益が高くないことや、車両の故障や事故などが発生した場合に事業が止まってしまうことから、複数台での導入を推奨している。なお、駐車場のシェアリングサービス、カーシェアリングのプラットフォーム登録いずれの場合も、駐車場への設備の設置や特別な工事などは必要ない」とのことです。

5)名鉄協商

オフィス用品などの法人営業、駐車場事業などを手掛ける名鉄協商では、カーシェアリングサービスの「カリテコ(cariteco)」を提供しています。名古屋市を中心に341カ所のステーションを展開しています。ステーションは名鉄協商パーキングを主な拠点にしており、カリテコの車両を利用中は、車両を貸し出した場所以外の名鉄協商パーキングも無料で利用できる、交通ICカードを会員カードとして利用できる、同乗者が会員の場合は、運転の交代ができるといった特徴があります。

同社へのヒアリングによると、「車両や看板などの必要な設備は名鉄協商側で全て手配するため、ステーション設置に当たって特別な費用は掛からない。賃料は相談の上で決めている」とのことです。

以上(2019年8月)

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画像:pexels

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