書いてあること

  • 主な読者:採用活動のデジタル化を検討したい経営者
  • 課題:デジタルは苦手。それに人を採用するのだから、リアルのほうがいい?
  • 解決策:WEB面接の価値は、「非対面」という表面的なものだけではない。その本質は面接の構造化による選考力の向上。ミスマッチを減らし最適人材を見極めていくことにある

前回(第3回)までは、ダイレクト・リクルーティングの進化形として「タレントプール」「リクルーティングオートメーション」について解説してきました。こうした新しい採用手法がもたらしてくれる果実は、単なるデジタル化ではなく、これまで会えなかったいい人材に出会えること。つまり採用の効率化ではなく採用の質のアップグレードです。

これがまさにDX(デジタルトランスフォーメーション)の概念に相当するのです。

連載4回目の本稿では、リクルーティングDXの採用プロセス編。具体的には、昨今一気に普及した「WEB面接」について、DXの観点からその真価を解説していきましょう。

1 場所を問わずに面接できる

新型コロナウイルス感染症の拡大は、就活に大打撃を与えました。就活イベントや会社説明会が続々と中止。その後の選考過程も大幅な見直しを余儀なくされる中で、急速に広まったのがWEB面接でした。当初は、企業からも就活生からも非対面での選考を不安視する声が多く聞かれましたが、最終面接に至るまで全ての選考をWEB面接で完結したという企業も現れるほど、一気に馴染んだ感さえあります。

WEB面接の活用は、実はコロナ以前から徐々に増えてきていました。新卒採用であれば、全国で採用を行う企業の人事担当者は移動がなくなるため、生産性が上がります。地方の学生にとっても移動する必要がないので、交通費の負担が軽減され、エントリーや応募へのハードルが下がります。中途採用にしても、転職希望者は日中仕事が忙しく、面接を受けるための時間捻出に苦労していました。WEB面接だとスマホで行えるので、休憩時間を使ってカフェで面接を受けることができます。

場所を問わずに面接できる。スマホやタブレットなどの端末でも面接できる。リアルタイムでの面接はもちろん、録画した動画を企業に送る録画選考という方法もある。WEB面接は、その簡潔性や利便性に加えて、企業と応募者を時間と空間の制約から解放するツールとして注目されはじめていたのです。

2 面接できる人が増える

前述のように、遠方の求職者との接点が持てることで機会損失が少なくなることは、WEB面接という手法の最も分かりやすい価値です。面接を受けるために、わざわざ都会まで行かないといけない……。このように感じる地方の求職者が、応募に二の足を踏むというケースは少なくありませんでしたから、移動せずに面接を受けることができるという一点だけでも、母集団形成に大きく貢献してくれるのです。

また、移動時間と交通費という負担の軽減も大きな価値です。全国に赴いて面接を行っていたある企業は、1回の出張で約10万円かかっており、1カ月で4回の出張があったとのこと。WEB面接システムを導入したことによって年間で約500万円のコストカットを実現しました。

また面接辞退を抑止する効果も期待できます。ある調査によると、選考中に辞退した経験のある求職者は約7割で、そのうち約6割が面接前に辞退しているとのこと。面接前に辞退する理由はさまざまですが、共通しているのはその企業に対する熱が冷めたことでしょう。つまり面接までの時間が鍵を握っているのです。

WEB面接であれば、場所を問わずに面接することができるので、日程調整が極めてシンプル。面接官と応募者の時間調整だけでなく、面接場所の確保(ほとんどの場合が会議室の予約)といった煩雑な手間からも解放されるので、早期に接触することができます。鉄は熱いうちに打て。これは採用プロセスの鉄則なのです。

応募が増える×面接辞退が減る=面接できる数が増える。その上でコストまで減る。採用プロセスを効率化できる物理的な価値側面から見ても、WEB面接という手法を導入するメリットは小さくありません。

3 面接官トレーニング

ただ、単なる採用プロセスの効率化だけで終わってしまえば、DX(デジタルトランスフォーメーション)のレベルには達しません。面接という採用プロセスにおいて、選考のクオリティをアップグレードすることこそ、WEB面接が目指すゴールなのです。

名門大学の体育会キャプテン。明るく、快活。イコール即採用。新卒採用なんかだと、こうした風景が往々にしてまかり通っていました。ところが、そんな期待の新人が入社後は活躍するどころか、1年も経たずに退職する。そんなケースをよく耳にします。

入社後の育成に問題があったのかもしれませんが、考えておきたいのがミスマッチ採用の可能性です。会社と個人の認識や価値観にずれがあるのに採用してしまうことが、お互いにとって「不幸な出会い」になってしまうのは自明の理。極力避けたいものです。

こうしたミスマッチを解消するためにも、昨今、「構造化面接」という面接手法が注目されています。「構造化面接」とは、応募者に対しあらかじめ定められた同一の評価基準や質問を用いて進める面接のことを指します。簡単にいうと面接のマニュアル化です。担当する面接官の主観や心理的作用によって、その評価にバラツキが出てしまうことを防ぎ、本当にその職種に適した人物かどうかを客観的に見極めることが可能となると、あのグーグルも導入しています。

この「構造化面接」を進めていく際も、WEB面接は効力を発揮してくれます。WEB面接システムには録画機能が付いているサービスがあります。面接を録画することで面接官のスキルが可視化されますから、各面接官との振り返りを実施し、マニュアルの習得を促すことができるのです。

※録画する旨は、応募者に事前告知し許可を得ておきましょう。

4 AIが次世代面接の主役?

構造化面接を各面接官に習得させるよりもっと手っ取り早いのは、AIによる面接でしょう。実はAI面接システムはすでに登場しています。面接官をAIが担当することで、構造化された質問をブレなく発することができます。回答が浅いとAIは掘り下げた質問を繰り出していき、面接が終了するとAIがその回答を一定の指標で評価します。

もちろんAIとの面接がゴールとなるわけではありません。応募者を客観的に数値化したデータをもとに、文字起こしされた回答内容を見ながら、総合的に判断していくという活用が主流です。適性検査の代わりに導入する企業もあります。面接の全てがAIで完結するような恐ろしい近未来社会のイメージではありません。

しかしながら客観的に数値を選考の基準に取り入れるのは、ミスマッチの解消につながる科学的採用の第一歩ではないでしょうか。

5 データを活用する意志

AI面接は、導入によって多くのメリットが得られそうですが、どこまでをAIに頼るか、あるいはどこまで人間が担うかなどの課題があるのは否めません。

2人の採用候補者がいたとしましょう。入社後の退職率が高いというデータが示されている人のほうが、経験と勘では採用したいと感じたら……。つまりデジタルジャッジとアナログジャッジが相反した時、どのように判断すべきか。このあたりはまだまだ悩ましい問題です。

ただ1つだけ言えるのは、人事担当の中に、データ活用に精通した人材を配置する、あるいは育成していくという意思決定は必須になってくるということです。採用のDXに取り組む上では、テックツールの活用と合わせて、データ活用のスキルを備えることは、今後の前提条件になってくるでしょう。

自社で活躍している人材はどのようなタイプなのか? 逆に会社を辞めてしまった人はどのような価値観を持っていたのか? こうした情報を、応募者の属性データと照らし合わせて、退職者や活躍している社員との相関を把握できたら、可否判断の精度が格段に向上するでしょう。

こうした次世代型の選考を可能にするためにも、データに対峙する意識が極めて重要になってきます。最近はデータ活用について学べる講座も世の中に増えてきましたし、人事部門の方も“自分事”として取り組んでみてはいかがでしょうか。

6 まとめ

本稿では、リクルーティングDXの観点から「WEB面接」について解説させていただきました。改めて、そのメリットを分かりやすくまとめると、次の3つに集約することができます。

  • 遠隔地の求職者にとって移動する必要がなくなることで、応募の障壁が下がる
    →母集団拡大につながる
  • 人事担当者が支社間を移動する必要がないので、移動時間や交通費などが減る
    →コスト削減&生産性向上
  • 面接を録画して、面接官の振り返りや面接官育成の教材に役立てることができる
    →全社観点での面接スキルが均質化→選考力が向上

1.の母集団形成、2.のコスト削減(移動時間もコストの一部)は、物理的なメリットを実感しやすく、導入のきっかけになりやすい価値と言えます。しかし最も重要なのは、3.の面接スキルの向上だと考えます。

これまで属人的で見えづらかった面接が、可視化され、なおかつ全体的に標準化されていくのは画期的なことです。そして採用面接に客観性が持ち込まれることは、データを活用した選考の素地となっていき、ミスマッチの解消、ひいては入社後の最適配置といったピープルアナリティクスに接続していくことが可能になります。ここが「面接のDX」たる最大のポイント。そういった視座で「WEB面接」の可能性に期待していきましょう。

以上(2020年9月)
(執筆 平賀充記)

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画像:Вадим Пастух-Adobe Stock

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