書いてあること
- 主な読者:イベント業界への参入を検討する経営者
- 課題:現在の市場規模、注意すべき点などが分からない
- 解決策:市場規模や今後の展望などから、参入の可能性を探る
1 イベント業界の概要
1)イベント業界の成り立ち
イベントには、オリンピックやFIFAワールドカップなどの巨大なスポーツ大会をはじめ、国際会議(コンベンション)、展示会・見本市、コンサートや演劇などの興行や地域のフェスティバルなど多種多様なものがあります。広義で見ると、会社内の周年事業や学校の運動会などもイベントに含まれます。
イベントの開催目的は社会貢献から企業の営利活動、地域住民の集まりまで多岐にわたっており、主催者も官公庁、企業、業界団体、地域住民などさまざまです。
こうしたイベントは、規模が大きくなるほど主催者が独力で開催することは困難となり、いわゆるイベント業界の会社やボランティアの協力が欠かせません。また、経験の浅い主催者は、外部からイベント開催のノウハウの指導を受けることが必要な場合もあります。イベントの開催に当たり、裏方作業を中心に主催者などから業務を請け負うことで、イベント業界は成り立っています。
2)イベント業界の構成
イベントを開催するには、企画、制作、運営、会場設営、会場の警備、物販、清掃、広報など、多様な役割の担い手が必要です。イベント業界には、主催者だけでは手が回らない、さまざまな業務を遂行する数多くのイベント関連会社があり、こうした業務を請け負っています。
イベントの規模や目的などによってイベント関連会社の関わり方はさまざまです。主催者が企画段階からイベント関連会社に協力を仰ぐ場合、業務委託を受けたイベント関連会社が、運営や会場設営などその他の業務全般の発注についても取り仕切るケースが多いようです。
3)イベント関連会社の業務内容
ここでは、イベント関連会社の業務内容について触れます。
1.イベント企画会社
主催者から請け負ったり、広告代理店などから業務を受託したりします。主催者がコンペ方式やプロポーザル方式で企画会社を選定することが多いようです。
イベントの内容や企画会社によっては、企画会社が制作や運営まで一貫して取り仕切るケースもあるようです。例えば、イベント企画会社のフロンティアインターナショナル(東京都渋谷区)は、労働者派遣業、屋外広告業、特定建設業、一級建築士事務所、警備業などの許可・登録・認定を受けています。
一方、シミズオクト(東京都新宿区)のように、イベントの運営から会場設営、会場管理など「裏方」業務に強みを持った会社もあります。こうした「裏方」業務は、主に人材派遣会社などからの派遣人材が実際の担い手となっています。
2.イベント会場設営会社
イベントの制作・運営を行う企画会社などからの発注に応じて業務を行います。会場設営といっても、建築、建築用機材などのレンタル、電気系統の配線、映像・音響系の機材設置および演出など、さまざまな分野があります。イベント会場の内装や展示のデザインなどを中心に手掛ける大手ディスプレイ会社の中には、展示会のブースの設営などを、自社グループ会社で行うケースもあるようです。
4)イベント業界に関する法規制など
イベントを開催するには、主に安全面から、さまざまな法規制に従う必要があります。
1.建築基準法
建築基準法では、仮設興行場や仮設店舗などを含む仮設建築物に関し、安全上、防火上および衛生上の観点から許可基準を設けています。例えば、火気を使用する設備もしくは器具を設けた場合、壁や天井の表面の仕上げを準不燃材料にすることが定められています。
2.警備業法
来場者の誘導や会場の警備、交通整理などイベントでの警備は、雑踏警備業務となります。国家公安委員会規則により、雑踏警備業務を行うには、予想される雑踏の状況に応じて、開催区域ごとに1級または2級検定合格警備員を配置する必要があります。
3.食品衛生法
飲食物を提供する出店者がある場合は、出店場所の所轄の保健所から営業許可証を得る必要があります。
4.道路交通法
道路露店や屋台を出店したり祭礼行事を行ったりする場合や、道路案内などの広告板を設置する場合は、管轄する警察署長から道路使用許可を受けなければなりません。
5.消防法(火災予防条例)
イベントの際に、コンロなど規制の対象となる火気器具などを使用する露店などには、消火器の準備が義務付けられています。また、消防長が定める屋外イベントを行う場合には、防火担当者の選任や火災予防上必要な業務計画の提出などが必要となります。
この他、法規制ではありませんが、イベントの円滑な実施のために、事前に保健所、警察、消防などに相談することを求めている地方自治体が多いようです。
2 イベント業界の市場分析と展望
1)イベント業界の市場規模と環境分析
日本イベント産業振興協会が2019年6月に公表した2018年の国内イベント消費規模推計によると、交通費や宿泊費なども含めた国内イベント消費規模は前年比4.2%増の17兆3510億円に上り、7年連続で前年を上回りました。
また、日本展示会協会が2019年2月に公表した展示会実績によると、同協会会員である主催者・団体が2017年度に開催した展示会数は、前年度を10.1%上回る369件となりました。来場者数も前年度より9.5%多い412万4965人となっています。
電通テックのイベントプロデューサーの経歴を持つ岡星竜美・目白大学メディア学部特任教授(イベント学)へのヒアリングによると、「全てのイベントの市場規模が拡大しているわけではないが、特にスポーツ分野や、大規模な音楽フェスティバルなど大型イベントの市場が拡大しており、業界全体としては成長している」(*)とのことです。
2020年には東京オリンピック・パラリンピック、2025年に国際博覧会(大阪・関西万博)という巨大イベントを控えている他、観光庁などが訪日客の増加などを目指しMICE(Meeting=企業などの会議、Incentive Travel=企業などの報奨・研修旅行、Convention=国際会議、Exhibition/Event=展示会・見本市やイベント)誘致に取り組んでいること、消費者が参加・体験型のレジャーを楽しむ“コト消費”を好む傾向が強まっていることなど、今後もイベント業界の市場規模が拡大するとみられる要因はさまざまあります。
2)イベント業界のM&Aの動向
業務内容の特性を考慮すると、イベント企画会社はクリエーティブ性に加え、ノウハウの蓄積や、クライアントなど関係各社へのコネクションといったノウハウ・情報集約性の高い業種であり、大手では組織力やネームバリュー、小規模の会社は個人の経験や力量に依存する部分が大きいと考えられます。このため、海外展開などを除き、単純な規模拡大を目指した水平的な統合効果は、それほど大きくないといえるでしょう。
一方、垂直的な統合には自社グループによる提供サービスの拡充という点から一定の効果があると考えられます。特に、主催者やイベント参加者からの信頼度を高めるため、知名度の高いメディアや広告代理店の傘下に入るケースは、被買収企業にもメリットのあるM&Aになるといえます。
また、肉を中心としたスーパーマーケットや外食事業を展開するジャパンミートが、「肉フェス」などを制作・運営しているAATJを買収したように、本業に関わる分野の啓発・発展を目指し、イベントの譲り受けを目的としたM&Aを行うことも合理的な戦略といえるでしょう。
イベント設営会社に関しては、現場部門は労働集約的であり、2020年の東京オリンピック・パラリンピックなど巨大イベントが増えた場合、人手不足になる可能性も考えられます。こうした要因もあり、特に小規模の事業者にとっては、水平的な統合を目的としたM&Aによるスケールメリットは大きいとみられます。また、業務量を平準化しにくいイベント業界の弱点を補完するために、既存事業を活かした他業種への進出もしくは他業種との統合のために、M&Aを活用することも有効でしょう。
3)イベント業界の展望
前述の岡星特任教授へのヒアリングによると、「最近のイベント業界の傾向として、大型化、長期化、複合化が見られる。消費者の満足度を高め、興行者の利益も拡大させるために、規模を拡大したり、開催期日を長くしたり、例えば花火大会の開催地周辺で音楽ライブやグルメイベントを開催するなどイベントを複合化させたりしている。これらはイベントの規模が大きくなるので、一定程度の大きな会社でないと企画・運営はできない」(*)とのことです。
その一方で、「映像系に強いとか、演出の評価が高いといった、『クリエーティブ・ブティック』もある。今後も有名ユーチューバーとの連携やドローン、VR(バーチャルリアリティー)を使った映像表現など、突出したコンテンツを活用したイベントを開催できる企画会社が急成長する余地がある。地方の地域イベントは、地方自治体の予算が続く限りは継続的に行われるので、安定性はあるだろう」(*)とのことです。
4)イベント産業のISO
イベント業界の展望として、イベントマネジメントの国際標準規格ISO20121の取得が挙げられます。2007年に策定された規格で、環境問題などの持続可能性を考慮したものとなっています。認証の対象はイベント、主催者や制作会社などの企業、競技会場などの施設といったもので、ロンドンやリオデジャネイロのオリンピック・パラリンピックの組織委員会も取得しました。
国内のイベント関連会社では、コンベンションの企画・運営を行う日本コンベンションサービス(東京都千代田区)や、スポーツイベントなどを制作するセレスポ(東京都豊島区)が取得しています。今後、規格の知名度が高まるに従って、取得の有無が1つの評価につながる可能性もあります。
3 経営指標
イベント関連会社に関する公的機関が公表している経営指標は確認できませんでしたが、イベント関連会社である広告代理業およびディスプレイ業の経営指標を紹介します。
以上(2019年12月)
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画像:unsplash