書いてあること
- 主な読者:ポイント制退職金制度に対応した会社規程のひな型が欲しい経営者
- 課題:通常の退職一時金規程とどう違うのか、具体的に何を定めればよいのかが分からない
- 解決策:「支給額の計算方法」「ポイントの種類と単価」を明らかにし、さらに勤続年数や等級に応じてポイント数がどう変わるのかを別表などで示す
1 ポイント制退職金制度とは
ポイント制退職金制度とは、勤続年数や等級など、一定のルールに基づいて社員にポイントを付与し、そのポイント累計にポイント単価(1ポイント当たり1万円など)と退職金支給率(勤続5年で自己都合退職した場合は0.5など)を掛け、退職金の支給額を計算する制度です。
退職金の支給額 = 退職時のポイント累計 × ポイント単価 × 退職金支給率
ポイントには次のような種類があり、一般的に複数のポイントを組み合わせて運用します。
- 勤続ポイント:勤続年数に応じて付与
- 等級ポイント:職能資格等級などの格付けに応じて付与
- 業績ポイント:会社の業績の良し悪しに応じて付与
- 職務ポイント:個人の業務の難易度や責任に応じて付与
- 個人ポイント:個人の人事考課結果などに応じて付与
ポイントの組み合わせ次第で、例えば「等級ポイントや個人ポイントの比率を上げて、能力重視の退職金制度にする」「職務ポイントの比率を上げて、職務重視(ジョブ型)の退職金制度にする」といった運用が可能です。ただ、ポイントの種類が多くなると管理が煩雑になりやすく、一般的には「勤続ポイント」と「等級ポイント」の2階建て方式がよく用いられます。
ポイント制退職金制度を社内規程に落とし込む場合、制度の内容が社員に正しく伝わるよう、
「支給額の計算方法」「ポイントの種類と単価」を明らかにし、さらに勤続年数や等級に応じてポイント数がどう変わるのかを別表などで示す
ことが大切です。次章で、専門家の監修付きひな型を紹介するので、確認してみましょう。
2 ポイント制退職金規程のひな型
以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の会社によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした規程を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。
【ポイント制退職金規程のひな型】
第1条(目的)
本規程は、就業規則第○条の退職金について定めたものである。会社は、本規程に基づき、永年勤続および中途にて退職した従業員の退職後の生活の安定および遺族の支援を図るために退職一時金制度を設ける。本規程に定めのない事項は、本制度の実施について定める関係法令によるものとする。
第2条(差別的取り扱いの禁止)
会社は退職一時金制度を実施するに当たり、特定の者について不当に差別的な取り扱いをしない。
第3条(支給範囲)
本規程に定める退職金は、従業員が退職(死去による退職を含む)または役員に就任した場合に支給する。ただし、兼務役員の場合を除く。
第4条(適用)
本規程は、次の各号に定める者を除く全ての従業員に適用する。ただし、個別の契約書などにより、会社と従業員との間に別段の合意がある場合については、この限りでない。
- 役員。
- 嘱託。
- 短時間勤務従業員。
- 臨時に期間を定めて雇い入れられる者(臨時雇い)。
- 日々雇い入れられる者。
- 入社後、定年までの予定勤続年数が3年未満の者。
第5条(支給額の計算方法)
1)退職金の支給額は、次の算式により計算する。
(勤続ポイントの累計+等級ポイントの累計)×ポイント単価
2)退職金の支給額において、1000円未満の端数が生じたときはこれを切り上げる。
第6条(ポイントの種類と単価)
1)勤続ポイントは、勤続1年ごとに付与されるポイントである。入社からの勤続年数に応じたポイント数は別表第1「ポイント表」に定める通りとする。
2)等級ポイントは、各職能資格等級への在級1年ごとに付与されるポイントである。職能資格等級に応じたポイント数は別表1「ポイント表」の通りである。
3)勤続ポイントおよび等級ポイントの1ポイント当たりの単価は1万円とする。
第7条(勤続年数などの計算方法)
退職時における勤続年数および職能資格等級への在級期間は、次の各号に定める通りとする。
- 勤続年数は、入社日から退職日までとする。
- 勤続年数および在級期間に1年未満の端数が生じた場合は月割で計算し、1カ月未満の端数は15日以上を1カ月とする。
- 休職期間(業務上の事由による傷病での休職期間を除く)は、勤続年数および在級期間に算入しない。
第8条(加算金)
在職中に特に功労のあった者または勤務成績が優秀であった者には、加算金を支給する。加算金の支給の有無およびその額は取締役会で決定するものとする。
第9条(自己都合退職時の減額)
自己都合退職に該当する者の退職金は、別表2「自己都合の退職金支給率」を乗じた支給率により算定する。
第10条(支給制限)
就業規則第○条に定める懲戒解雇をされた従業員には、原則として退職金を支給しない。ただし、情状により一部を支給することがある。
第11条(死亡時の取り扱い)
1)死亡した従業員の退職金は、次の各号に定める順位に従い、その遺族に支給する。第2号から第5号については、従業員の死亡当時、死亡した従業員の収入によって生計を維持していた、あるいは生計を一にしていた者に限る。
- 死亡した従業員の配偶者(婚姻の届け出をしなくとも事実上婚姻と同様の関係にある者を含む)。
- 死亡した従業員の子。
- 死亡した従業員の父母(実父母より養父母を優先する)。
- 死亡した従業員の孫。
- 死亡した従業員の祖父母。
2)同順位の者が2名以上となる場合には、そのうち最年長者を代表者としてその者に給付する。
第12条(支給時期)
退職金は、原則として退職日より3カ月後に支給する。ただし、不正行為等に対する調査中の場合については、当該支給を一旦保留とすることがある。
第13条(支給方法)
退職金は原則として一括払いとし、退職金の支給を受ける者があらかじめ指定した金融機関に振り込む。
第14条(譲渡などの禁止)
退職金を受ける権利は、これを譲渡し、または質権、担保に供したりしてはならない。
第15条(債務等への相殺)
従業員が会社に対して債務等を有する場合については、本人の同意を得ることにより、退職金をもって当該債務等の返済に充てることができるものとする。
第16条(書類の提出等)
退職一時金の給付を受けようとする者は、会社が指定する書類を指定の期日までに提出しなければならない。
第17条(罰則)
従業員等が故意または重大な過失により、本規程に違反した場合、就業規則に照らして処分を決定する。
第18条(取消および返還)
退職後、在職中の勤務に関し、懲戒解雇に相当する事由が明らかになった場合には、会社は退職金の支給を取消し、支給済の退職金を返還させることができる。
第19条(改廃)
本規程の改廃は、取締役会において行うものとする。
附則
本規程は、○年○月○日より実施する。
■別表1「ポイント表」■
■別表2「自己都合の退職金支給率」■
以上(2022年11月)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)
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