書いてあること
- 主な読者:「退職一時金規程」の見直しを検討している経営者
- 課題:退職金制度の内容が会社ごとに異なり、具体的に何を定めればよいのかが分からない
- 解決策:「1.退職金を支給する社員の範囲」「2.退職金の決定、計算、支給の方法」「3.退職金の支給時期」は、労働基準法で義務付けられているので必ず定める
1 退職一時金規程に定めるべき3つの項目
退職金とは、社員が退職するときに会社が支給する金銭の総称で、支給形態によって
- 退職一時金:退職金を一括で支給
- 退職年金:退職金を年金として支給(企業年金とも呼ばれます)
に大別できます。退職金制度がある中小企業のうち、95.1%は退職一時金で対応しています(東京都労働相談情報センター「中小企業の賃金・退職金事情(令和2年版)」)。
退職金は、就業規則の「相対的必要記載事項(制度がある場合、必ず記載しなければならない事項)」で、退職金制度がある会社は、労働基準法により、次の3つについて定めることが義務付けられています。
- 退職金を支給する社員の範囲
- 退職金の決定、計算、支給の方法
- 退職金の支給時期
以降で、1.から3.を「退職一時金規程」に落とし込む際のポイントを紹介していきます。
2 退職金を支給する社員の範囲
会社は正社員やパート等(パート社員や契約社員)など、さまざまな条件で社員を雇用しており、適用される労働条件が異なります。
多くの場合、退職金制度の対象となるのは正社員なので、その旨を明確に定める
ようにします。
ただし、同一労働同一賃金の観点から、職務内容などによっては、パート等に退職金を支給しないことが不合理とされることがあるので、
会社と社員の間に個別の合意がある場合、退職金を支給することがある
などの文言を加えておくのが無難です。個別の合意は、労働条件通知書や雇用契約書などで交わすことになります。なお、退職金制度の対象とならないパート等の場合、労働条件通知書などに「退職金の支給はない」旨を明記しておくと、トラブルを予防できます。
3 退職金の決定、計算、支給の方法
退職金の決定、計算、支給の方法では、文字通り、退職金制度の基本的なルールを定めます。主な内容は次の通りです。
1)退職事由
退職金を支給する場合、退職事由によって支給率などに差を設けることがあります。一般的な退職事由は次の通りです。
- 役員に就任した場合
- 会社の都合により退職した場合
- 自己の都合により退職した場合
- 定年に達したため退職した場合
- 在職中に死亡した場合
- 業務上負傷しまたは疾病にかかり、その職に堪えないため退職した場合
2)退職金の計算方法
退職金の計算方法とは、どのように支給額を計算するのかのルールです。退職一時金の場合、一般的に次の2種類の計算方法があります。
- 基本給連動型:退職時の基本給などを基準に支給額を計算する
- 基本給非連動型:基本給とは別の指標を用いる(ポイント制など)
中小企業の場合、基本給連動型が一般的です。支給額の計算はさまざまですが、例えば、
支給額=算定基礎額(退職時の基本給など)×支給率(退職事由や勤続年数に応じた係数)+加算額(役職加算など)
といった具合に計算します。
1.算定基礎額
算定基礎額とは、退職金支給額を計算する際の基礎となる金額で、多くの会社では退職時の基本給を算定基礎額としています。しかし、属人給(年齢給や勤続給など)を中心とした賃金体系の場合、社員の基本給は年功序列で大きくなり、会社の退職金負担も重くなります。このような理由から、基本給とは別に、退職金を算出するための算定基礎額のテーブルを設ける会社もあります。これを「別テーブル方式」と呼びます。
2.支給率
支給率とは退職事由や勤続年数に応じた係数であり、通常は「自己都合退職よりも会社都合退職のほうが支給率が高い」「勤続年数が長いほど支給率が高い」といったように設計します。特に、入社3年未満の社員が自己都合で退職した場合は、支給率を「0」とし、退職金を支給しない会社も少なくありません。
この他、業務災害や私傷病による休業期間、育児・介護のための休業期間などを退職金算定の期間に加えるか否かなどについても明確に定めます。
3.加算額
加算額とは特定の事由に該当する社員の退職金に加算されるものであり、「役職加算:一定の役職の社員が退職する場合」「功労加算:一定の功績があると会社が認めた社員が退職する場合」などがあります。
3)退職金の支給方法
退職金の支給方法では、どのように退職金を支給するのかについて定めます。退職一時金の場合は、社員があらかじめ指定した金融機関に一括で振り込むのが通常です。
4 退職金の支給時期
就業規則(退職一時金規程など)に基づいて支給する退職金は、労働基準法の賃金とほぼ同様の取り扱いになります。ただ、毎月1回以上定期に支給する賃金と違い、
退職金については、あらかじめ退職一時金規程などで定めた時期に支給すればよい
とされています。
会社によって異なるものの、多くの場合は社員の退職後1~3カ月以内に設定されています。
5 その他の記載内容
1)懲戒解雇された社員の取り扱い
懲戒解雇とは会社が社員に与える最も重い制裁であり、懲戒解雇された社員には退職金を支給しないか、一部支給とすることが通常です。この点を退職一時金規程に明確に定める必要があります。ただし、裁判所の判断などによっては、退職一時金規程に不支給の定めがあっても退職金の支給が必要となるケースがあります。また、退職後に懲戒解雇事由が判明した場合に退職金の返還を求める旨の規定を置くことも考えられます。
2)社員が死亡した場合の退職金の支給
社員が死亡した場合、退職金は遺族等に支給することになります。就業規則に「誰に支給するか」の定めがなければ、民法の相続順位に従って支給します。就業規則でこれと異なる規定をすることも可能で、多くの会社は、労働基準法施行規則の遺族補償を受ける遺族の範囲と順位に従って退職金を支給しています。具体的には次の通りです。
- 配偶者
- 社員の収入によって生計を維持または生計を一にしていた1)子、2)父母(実父母より養父母を優先)、3)孫、4)祖父母
- 前項に該当しない1)子、2)父母、3)孫、4)祖父母
- 兄弟姉妹(社員の収入によって生計を維持していた者または生計を一にしていた者を優先)
以上(2022年11月)
(監修 社会保険労務士 志賀碧)
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画像:ESB Professional-shutterstock