書いてあること

  • 主な読者:「解雇」の基本的なルールを知りたい経営者
  • 課題:解雇にはさまざまな種類があり、また基準も曖昧なので分かりにくい
  • 解決策:就業規則に定める。会社や社員の状況から解雇が本当に妥当かを検討する

1 解雇のハードルは高い、ルールを押さえて慎重に

「解雇」とは、使用者(会社)が労働契約を一方的に解約することです。多くの会社にとって解雇は身近なものではないですが、雇用の考え方やルールが変化する中で、今後は解雇の在り方も変わっていくのではないかという声があります。例えば、「ジョブ型雇用が浸透していくと、能力が仕事に追いつかない社員を解雇する会社が増えるのではないか」といった具合です。

ただ、注意しておかなければならないのは、

少なくとも今の日本の法制度では、解雇が認められるハードルは高く、慎重に手続きを進めないと、社員と訴訟などのトラブルになるリスクがあること

です。トラブルを防ぐには、次のような解雇に関する基本ルールを押さえる必要があります。

  1. 解雇の種類(普通解雇、整理解雇、懲戒解雇の3種類)
  2. 解雇全般に共通する基本的なルール(解雇権濫用法理など)

2 普通解雇、整理解雇、懲戒解雇の違い

1)普通解雇

普通解雇とは、

病気やけが、能力不足などを理由に、社員を解雇すること

をいいます。「社員が会社に対し、労務を提供できなくなった場合に行われる」というのがポイントです。普通解雇が行われる主なケースは次の通りです。

  • 社員が病気やけがで就業不能になった
  • 社員の勤務成績が会社の求める水準に達しない状態が続いた

2)整理解雇

整理解雇とは、

経営危機の状態にある会社が、余剰人員の削減を目的として社員を解雇すること

です。「社員の能力不足などに関係なく、経営上の理由で実施される」というのがポイントです。整理解雇が行われる主なケースは次の通りです。

  • 会社の収益が不況による販売不振で著しく悪化した
  • 会社の設備などが災害で大きく損傷し、事業の縮小を余儀なくされた

3)懲戒解雇

懲戒解雇とは、

極めて悪質な規律違反や非行があったときに、就業規則にのっとり、懲戒処分として社員を解雇すること

です。「重大な問題行為をした社員を罰する目的で行われる」というのがポイントです。懲戒解雇が行われる主なケースは次の通りです。

  • 社員が会社の名誉を害する犯罪行為や重大なハラスメント行為をした
  • 社員が重要な経歴を詐称して入社した
  • 社員が正当な理由なく、無断で遅刻、早退、欠勤を繰り返した

3 解雇の基本的なルール

1)解雇権濫用法理

解雇権濫用法理とは、

「客観的に合理的な理由」を欠き、「社会通念上相当」であると認められない場合、解雇は不当解雇として無効になるというルール

です。この解雇権濫用法理は労働契約法第16条に明文化されています。

1.客観的に合理的な理由

客観的に合理的な理由とは、

客観的に見て解雇はやむを得ないといえるだけの具体的理由のこと

です。例えば、社員の著しい能力不足、契約義務違反、経営上の必要性などがそうです。なお、多くの裁判例では、「就業規則の解雇事由に該当するかどうか」が、解雇の客観性・合理性を肯定する重要な基準になっています。つまり、就業規則に解雇事由に関する規定がないと、不当解雇と判断されるリスクが高いということです。

2.社会通念上相当

社会通念上相当とは、

社員の行為や状況に照らして、解雇が妥当であるかということ

です。例えば、「たった1回の少額な納品ミスで能力不足と判断し、解雇する」というのは厳し過ぎて、社会通念上相当とはいえません。

2)解雇ができない期間

会社は次の期間中、社員を解雇することができません。

  1. 業務上の病気やけがで療養するために休業する期間と、休業終了後30日間
  2. 産前産後休業の期間と、休業終了後30日間(女性社員のみ)

ただし、1.の場合、療養開始後3年を経過しても治癒しなければ、平均賃金の1200日分の「打切補償」を支払うことで、解雇制限が解除されます。また、天災事変などによって事業の継続が不可能となった場合も同様です。なお、平均賃金とは、算定事由発生日(けがをした日や病気が判明した日など)以前の直近3カ月間の賃金総額(賞与等を除く)を、算定事由発生日以前の直近3カ月間の総日数で除した金額です。

3)解雇予告と解雇予告手当

原則として、解雇は事前に予告して行わなければなりません。これを「解雇予告」といいます。解雇予告は少なくとも30日前にしなければなりませんが、「解雇予告手当(平均賃金)」を支払えば、その日数分、解雇予告期間を短縮できます。

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また、例外として、懲戒解雇など社員に帰責性があって解雇する場合や、天災事変により事業の継続が不可能となった場合、解雇予告なしに解雇することが可能ですが、その際は会社を管轄する労働基準監督署の事後認定を受けなければなりません。

4)即時解雇が認められている社員(例外あり)

次の社員は、解雇予告や解雇予告手当の支払いを経ずに解雇することができます。ただし、一定の条件を満たすようになると、解雇予告などが必要となります。

  1. 日雇いの社員(1カ月を超えて使用された場合を除く)
  2. 2カ月以内の期間を定めて使用される社員(定めた期間を超えて使用された場合を除く)
  3. 4カ月以内の期間を定めて季節的業務に従事する社員(定めた期間を超えて使用された場合を除く)
  4. 試用期間中の社員(14日を超えて使用された場合を除く)

5)原則として契約期間中の解雇は認められない

パート等の有期契約社員を契約期間の中途で解雇することは、やむを得ない事由(天変地異や会社の倒産、パート等の重大な非違行為など)がある場合を除いて認められません。解雇する場合も、会社に過失があれば、損害賠償責任を負う恐れがあります。

6)その他

この他、労働基準法や育児・介護休業法、男女雇用機会均等法により、

  • 国籍、信条、社会的身分を理由とした解雇
  • 妊娠や出産などを理由とする解雇
  • 育児休業・介護休業などを取得したことを理由とする解雇

が禁止されています。

以上(2023年12月更新)
(監修 弁護士 田島直明)

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画像:Maxx-Studio-shutterstock

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