書いてあること

  • 主な読者:ソリューション営業で今より成果を上げたい経営者や営業担当者
  • 課題:顧客の欲しいもの、やりたいことを聞いて答える「御用聞き営業」がうまくいかない
  • 解決策:ソリューション営業にはリソースがかかる。対象顧客の絞り込みや情報収集のポイントなどを解説する

1 対象顧客の決定

インターネットなどを通じて、製品比較や口コミなどの情報が容易に収集できる現在、営業担当者と顧客の間に「情報の非対称性」はほぼありません。そのため営業担当者には、もう一歩顧客に近づき、顧客の課題を解決するソリューション営業が求められます。

本稿では、レトルト食品を製造するA社の営業部を例に、ソリューション営業の進め方を確認していきます。最初に実施するのはソリューション営業の対象顧客の決定です。早速、A社の状況を見てみましょう。

【ソリューション営業の検討】

A社は、カレーやパスタソースなどレトルト食品の製造販売をしています。食材にこだわった同社の商品は、百貨店やレストランでも使われています。しかし、最近は競合他社の攻勢もあり、A社の売り上げは伸び悩んでいます。

A社は、訪問回数を増やしましたが効果がありません。売り上げ減少に歯止めをかけたいA社は、顧客のニーズを再確認するために、ソリューション営業の検討を開始しました。

とはいえA社の顧客は数百社あり、全てにソリューション営業を行うのは現実的ではありません。ソリューション営業は、顧客とのミーティング、情報収集・分析、提案書の作成など時間と労力が必要だからです。

これまでの営業でコミュニケーションが取れている顧客に、あえてソリューション営業を行う必要はありません。顧客に利用されるだけで終わるのも避けたいところです。A社はソリューション営業の対象顧客をどのように決めたのかを見てみましょう。

【ソリューション営業の対象決定】

A社は、経営者、営業責任者、製造責任者で話し合い、「どの顧客にソリューション営業を行うか」を検討しました。その際、取引実績を縦軸、成長性を横軸とするポジションマップに顧客を業種別に配置しました。

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最も重要なのはスーパーですが、現状維持でも問題ありません。また、百貨店は成長性が見込めません。一方、レストランは成長性がある期待の分野ですが、取引実績は低調です。そこで、A社はレストラン部門をテコ入れすることにしました。

ポジションマップを活用すれば、ソリューション営業の対象を絞り込みやすくなります。なお、A社が取引するレストランの数が多いため、今度はレストランだけのポジションマップを作成し、さらに絞り込む必要があります。

また、図表1のポジションマップでは紹介していませんが、「取引実績のない見込み客」についても検討すると理想的です。見込み客の中に、今後の大きな成長が期待できる先が見つかるかもしれないからです。

2 対象顧客の情報収集

顧客の選定と並行して、顧客の外部環境と内部環境の情報を収集します。外部環境は顧客を取り囲む環境のことで、法改正、規制緩和などが該当します。顧客の競合他社の出現、店舗前の道路工事なども外部環境の変化です。

一方、内部環境は顧客が有する経営資源のことで、経営者、経営理念、組織体制などから始まり、経営計画、収益動向、採用動向などが該当します。A社は、レストランXについて、次の情報を収集しました。

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A社は、自社の営業担当者、雑誌・新聞、インターネット、社外の調査機関を活用して情報を収集しました。競合店の売り上げ状況は信用調査会社の情報を利用し、接客態度やメニューはA社の営業担当者が客として訪れることで把握しました。

インターネットを利用することで、素早くさまざまな情報を収集することができますが、本当に必要な情報はインターネットにはあまり公開されていないものです。そうした情報を収集するためには、社外の調査機関を利用することも一考に値します。

3 情報分析と課題把握

収集した情報を分析し、顧客で発生している課題を把握します。

【課題の把握】

レストランXからA社への発注が減っているのは、レストランXの売り上げが減少しているからでした。レストランXが苦戦している理由は、「レストランXがこれまで開催してきたフェアの中止」です。

レストランXは、「カレーフェア」「パスタフェア」などを行い、集客は上々でした。にもかかわらず、レストランXがフェアを中止したのは、フェアに合わせた新メニューの考案や、スタッフの対応が大変だからです。

レストランXの店長もフェアの中止によって売り上げが減少したことを認識しています。しかし、利益率の低さとスタッフの負荷の大きさから、フェアの復活は難しいと考えていました。

そこでA社は、これらの課題を解決しつつ、フェアが復活できるプランを提案することを決めました。難しい提案になりますが、それを成し遂げてこそレストランXにメリットがあり、A社も評価されると考えたのです。

ここでは紹介していませんが、通常、上記のような状態でレストランXにフェアの復活を提案しても、「そんなことは十分に考えた。でも無理だよ」と相手にしてもらえないでしょう。そこを突破するには、日ごろの関係構築が不可欠です。

4 提案の立案

顧客の課題を解決に導くと同時に、自社の商品を採用してもらえる提案をします。

【提案の立案】

A社が立案したのは、フェアに関するパッケージサービスの提供でした。A社の立案した提案内容の骨子は次の通りです。この取り組みで効率化を図り、フェアの収益を改善することが狙いです。

  • フェアのメニューは、A社がレトルト食品として提供する
  • レトルト食品のレシピは、A社とレストランXのシェフが相談して決定する
  • フェアの店内POPの案はA社が作成する
  • A社は同業のB社、C社と提携し、多様なレトルト食品を提供する。窓口はA社に一本化する

仮に、自社だけでは顧客の課題を解決できない場合は、他社との提携を検討します。「自社と顧客」だけではなく、「自社、自社の競合先、自社の顧客、自社の顧客の顧客、自社の顧客の競合先」といった広い視点を持ちましょう。

5 プレゼンテーション

提案内容が決まったら、いよいよプレゼンテーションです。

【プレゼンテーションの実施】

プレゼンテーションでは、「A社を窓口としてレストランXがB社、C社から商品を購入した場合の料金」と「レストランXが、直接B社、C社から商品を購入した場合の料金」の比較も示されました。

A社を通したほうが若干高くなるものの、レストランXは、発注窓口をA社に一本化するほうがメリットが大きいと考えました。また、総合的な支援が盛り込まれているA社の提案内容は、レストランXから高く評価されました。

プレゼンテーションは、数字を交えたほうが説得力が増します。通常、顧客は安いプランを選択しますが、A社の提案は多少高くても選択したくなるだけの魅力がありました。ここがソリューション営業の大切なポイントです。

6 フォローアップ

ソリューション営業の提案がうまくいくようにフォローアップします。

【フォローアップ】

A社のプレゼンテーションから3カ月後に1回目のフェアが開催されました。集客は上々で、レストランXとA社は収益を上げました。A社では、今後もレストランXのフェア開催を強力にサポートしていくことを決定しています。

フォローアップは、全社的にソリューション営業を根付かせるきっかけになります。顧客と継続的に深く関わることで、営業担当者はソリューション営業を強く意識するようになっていくからです。

こうして、営業担当者のソリューション営業を全社的にサポートすることができれば、ソリューション営業の効果は高まります。また、ソリューション営業で実現したビジネスモデルを、企業の強みとして定着させることも重要です。

以上(2019年4月)

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画像:pixabay

画像:unsplash

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