書いてあること

  • 主な読者:小売店の店舗開発担当者
  • 課題:立地の良し悪しを客観的に判断したい
  • 解決策:好立地の条件を解説し、商圏設定や売上高予測の方法を整理する

1 店舗展開の基本

店舗が長期にわたり一定以上の収益を確保するには、どれだけリピーターを確保できるかが重要な課題となります。地域の生活者が顧客として定着するには次の段階を経ることになります。

  • 認知:店舗の存在を知る
  • 関心:店舗に興味を持つ
  • 評価:店舗に好感を持つ
  • 利用:店舗を実際に利用する
  • 再評価:予想以上の内容に満足する
  • 再利用:顧客として定着する

小売業は立地がとても重要です。街は変化しており、店舗開発においては、出店予定地の現状だけでなく将来の展望も考慮に入れなければなりません。特に、大規模店が同地域に出店すると、人の動きに大きな変化を与えます。基本的には、次のような点を考慮すべきです。

  • 交通の便が良く、分かりやすい場所であること
  • 競合店が集中していない地域であること
  • 店舗開設に支障がなく、比較的安価に出店できること

また、立地は大きく3つのタイプに分けられます。

  • 繁華街
  • 都市部の住宅密集地域
  • 郊外の新興住宅地域

店舗の集客力を大きく左右する要素としては、立地、施設形状、品ぞろえ、価格、品質、味、サービスなどが挙げられます。

「認知」~「利用」の段階にかけては立地の影響が大きく作用します。特に、品質・価格・サービスの差異化が難しい業種の場合には、立地や施設形状が影響します。

2 好立地の条件

好立地とは地域の顧客が来店しやすい立地のことで、自店の基準値以上の商圏人口が見込め、目標売上高の達成を見込める立地のことをいいます。

商圏は大きく近隣商圏、地域商圏、広域商圏とに分けられます。各商圏で成立する店舗業態は次のようになります。

  • 近隣商圏立地:コンビニエンスストア、各種食料品店など
  • 地域商圏立地:量販店、家電販売店、衣料品店など
  • 広域商圏立地:百貨店、高級専門店など

商圏規模は、次の通りになります。

  • 近隣商圏 < 地域商圏 < 広域商圏

例えば、広域商圏・地域商圏立地でもコンビニエンスストアは成立しますが、近隣商圏立地では百貨店や量販店は成立しません。

大規模店舗は単独店による集客が期待できますが、小規模店舗は単独店による集客が難しい場合があります。こうした場合は、商店街などの商業集積地やショッピングセンターなどの商業施設に出店すれば、地域商圏の確保や集客も容易になります。

商業施設内に出店する場合には、自店の営業に必要なだけの商圏人口が見込め、人通りが十分であり、商業集積地や商業施設の集客力が十分であることが必要です。

また、郊外ロードサイド立地の場合には、次のような点が重要です。

  • 自店の営業に必要なだけの商圏人口が見込める
  • 必要な店舗面積を確保できる
  • 駐車場が確保できる
  • 間口の広さが十分ある
  • 車道から認知しやすい
  • 車の出入りがしやすい

店舗は、顧客が入りやすくなければなりません。明るい店内・広い間口・広い窓・見やすい商品ディスプレーなど、顧客を店内に誘導するための工夫を常に心掛ける必要があります。立地選定はその第一歩であり、後からでは修正できない重要な要素です。

3 入り口は広く

例えば、図表1のようなA店とB店があったとします。A店もB店も店舗面積は同じですが、A店の間口(道路に面した部分)は狭く、B店の間口は広いものとします。図中の矢印は、車が店舗に入るときの動きを表しています。

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まず、A店の場合、間口が狭い分、道路から鋭角に進入する必要があります。次に、B店の場合、間口が広い分、道路から鈍角に進入することができます。

当然のことながら、曲がる角度が急であるほど、その分スピードを落とす必要があります。A店とB店を比較すると、B店よりもA店に入るときのほうがよりスピードを減速する必要があります。追突事故の危険を考慮すると、A店よりもB店のほうが入店しやすいといえます。

減速のしやすさ、曲がりやすさは、実際に現地でドライブテストをする必要があります。急ブレーキではなく、安全に減速できる手前から店舗の位置を認知できるかどうかも重要です。

図表2のように、地域によっては、街路樹が植えられていて、ロードサイドの状況が分かりにくい場合があります。店舗入り口の街路樹は伐採するとしても、安全に減速できる手前から店舗の位置が確認できなければ、安心して左折できません。

例えば、同じ業態のライバル店のA店とB店が図表1のように並んでいたとします。街路樹があると走行中の斜め前方にある店舗の認知は難しくなります。他に目印になるものがない場合、入店しにくいA店を目印にしてB店に入るということになります。

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4 遠くから分かる

1)カーブの影響

入店するには、安全に減速できる手前で店舗の位置を確認できることが必要です。周辺に建物が無い場合、容易に店舗の位置を確認することができますが、周りに建物や看板が多く、自店が風景に埋没してしまう場合、店舗の位置を確認することが難しくなります。この場合、看板や店舗の外装が目立つような工夫が必要です。

図表3で、各道路の左側に位置しているのが店舗です。ロードサイドに当該店舗以外に何も無い場合は別として、手前に建物などがあると店舗が手前の建物の背後に隠れます。認知しやすさの点では、「1位:カーブの外側、2位:直線、3位:カーブの内側」という順になります。

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2)坂道の影響

例えば、図表4のようなA店~D店があったとします。

D店は下り坂の途中にあり、下り始めるまでドライバーの視界に入りません。また、下り坂は自然と速度が上がる傾向にあり、入店するために減速しにくくなります。

A店~D店を比較するとC店が最も認知しやすく、入りやすい立地といえます。C店のある場所は、道路の下り坂から上り坂に切り替わる間のサグ部となっており、無意識のうちに減速をするからです。B店は上り坂の途中にあり減速しやすいのですが、逆に店舗を出るときには加速に苦労する立地です。

A店は坂を上り切るまで視界に入りません。また、坂を上り切ると速度が戻るため、通り過ぎてしまう可能性があります。

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5 右折より左折

車の運転では、右折よりも左折が優先されます。右折の得手・不得手とは別に、右折せずに入出店できる立地が望ましいといえます。

通行量の多い通りで、反対車線から右折して店舗に入ろうとする車は後続車の交通渋滞を引き起こします。このため、大型商業施設では反対車線からの右折入店を禁止するところが多く見られます。

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郊外ロードサイド店が、集客の中心となる人口集積地から左折の連続で来店~帰宅できるようにするためには、図表6のように人口集積地に背を向けた位置に出店することが望まれます。

新規出店に際し留意すべきことは、現在のみならず将来の競合関係です。例えば、競合店が見当たらない地域に出店する場合は、競合関係を考慮せずに済みます。一方で、自店の成功を見て、将来競合店が出店した場合でも、優位性を保てる立地を押さえておく必要があります。そのためには、「人口集積地により近い」「信号機の付いた交差点の角など、右折でも出入りができる」など、考えられる限り良好な立地を選定することが必要です。

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6 商圏設定

立地調査は、好立地であるかどうかを判断するための調査です。先述の通り、好立地とは地域の顧客が来店しやすい立地のことで、自店の基準値以上の商圏人口が見込め、目標額以上の売上高が見込める立地のことをいいます。

最寄り品の販売店の商圏は、都市部では半径500メートル~1キロメートルが目安になります。もし、途中に、鉄道線路、高速道路などの広い道路がある場所や、川が流れている場所があれば、そこが商圏の境界線になります。また、「上り下り」の人の流れも考慮する必要があります。地域商圏を念頭に置いた郊外ロードサイド店の場合、走行時間10分程度の距離が目安になります。街と街の商圏境界線を算出するには、次の式を参照してください。

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7 売上高予測

1)外部データの活用

新規事業として第1号店を出店する場合、過去の実績が無いため、外部データを参考に推測せざるを得ません。例えば、総務省「家計調査年報」、経済産業省「経済センサス」、日本生産性本部「レジャー白書」などのデータを基に個人消費支出額を算出し、次の式で推計します。

  • 売上高=個人消費支出額×商圏人口×市場占有率

自店の市場占有率については外部データだけでは分からないため、過去の実績がない場合は、「他店に学ぶ」という方法があります。自店の立地・イメージ・客層が似ている他店の調査を行います。しかし、その店に「御社の売り上げはどの程度ですか」と聞いても答えてはくれません。そのようなときには、店舗を観察し売り上げを推測します。

売上高は、次の式で推計することができます。

  • 売上高=平均客単価×入店客数

平均客単価はレジの近くで観察すれば把握することができます。入店客数は入り口が見える目立たない場所でカウントします。

2)社内データの活用

商圏内市場規模と自店の売上高推計は、既存店があり社内データが蓄積されている場合には、次式で推計することができます。

  • 年間売上高=個人MS(マーケットサイズ)×商圏人口(1式)
  • 年間売上高=立地前通行量×入店率×平均客単価×営業日数(2式)

社内データは社外データに比べて、質・量ともに参考になります。まず、売上高推計をするのに必要になるのは、自店独自の個人MSを把握するためのデータです。既存店の商圏並びに商圏内人口を把握することによって、個人MSは次式で推計することができます。

  • 個人MS=売上高÷商圏人口

実際の商圏を把握するには、顧客の住所を調べます。顧客カードの作成や意識調査などを通してデータが蓄積されます。蓄積されたデータを地域ごとに集計すると自店の商圏の広がりが見えてきます。

図表8は、店舗立地と顧客を地図上にイメージして商圏の広がりを描いたものです。

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1.個人MSからの売上高予測

図表8のように自店の商圏設定ができたら、商圏内各地区の人口を地区別人口表などで調べ、自店の売上高を推計します。

例えば、既存店の売上高が1億円で商圏人口が10万人の場合、個人MSは次の式で推計することができます。

  • 個人MS=1億円÷10万人=1000円

そして、出店予定地の商圏人口8万人の場合、自店の売上高は次の式で推計することができます。

  • 年間売上高=1000円×8万人=8000万円

2.入店率からの売上高予測

商店街などに出店する場合、当商店街の商圏と集客数(集客力)は既に決まっています。この場合、集客数の中からどれだけの人を自店に吸引できるかと考えたほうが、商圏全体から推計するよりも容易に推計することができます。自社既存店の通行量と入店率を調べ、新規出店の際に活用します。

例えば、出店予定立地前の人の通行量が5000人、店舗前通行者の入店率が5%、平均客単価が1000円であった場合、次の式で推計することができます。

  • 年間売上高=5000人×5%×1000円×365日=9125万円

なお、顧客のデータをより詳細なものにするためには、性別・年齢別でデータを蓄積していきます。例えば、出店予定の商業施設の来店客の客層と自店の客層に違いがある場合、単純に上記の式で推計するわけにはいきません。性別・年齢別データは、顧客別に売上管理ができれば、顧客ごとの購入金額や購入頻度などのデータも簡単に把握できます。または、レジに入力する際に、性別と年齢(見た目)を入力するという方法もあります。その他、簡単な方法としては店内外の観察(性別・年齢別にカウント)により性別・年齢別客数を把握することができます。

以上(2019年10月)

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画像:unsplash

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