書いてあること
- 主な読者:さらに成長するためのヒントが欲しい経営者
- 課題:自分の考え方をバージョンアップするためにもがいている
- 解決策:他の経営者の思考習慣も聞いてみる
1 思考習慣のバージョンアップ
経営者は独自の視点と価値観を持って、ビジネスと向き合っています。そうした視点や価値観は、著名な経営者の言葉や、会合などで知り合った経営者仲間から学ぶこともあれば、自身の経験の中で培われたものもあります。
経営者は企業経営において大きな権力を持ち、多くのことを自ら決めることができます。一方、経営者はビジネスから逃げることができません。こうした環境が、経営者ならではの「思考習慣」に結びついていくのでしょう。
経営者は自分の考え方を大切にしなければなりません。それこそが自身の経営哲学でもあるからです。同時に、経営者が成長していくためには、これまでの考え方をバージョンアップする必要があります。
今回は、「報連相は型よりもスピードを求める」「こだわりを守るために方針転換する」「人を好きになるより嫌いにならない」という3つの思考習慣を取り上げます。経営者の考え方をバージョンアップするための何らかのヒントになれば幸いです。
2 報連相は型よりもスピードを求める
「報連相」(報告・連絡・相談)はビジネスの基本であり、社員教育の重要テーマに位置付けられています。そのため、上司は報連相のやり方として、報告をする内容や順番、タイミングを細かく部下に指導します。
やがて部下は、上司から指示された内容を、指示された順番で話すという“型にはまった報連相”が上達していきます。しかし、上司が心から納得できる報連相ができる部下はほとんどいません。
そもそも、上司と部下とでは立場や経験が違うため、報連相の内容などにおいて上司と部下のギャップが完全に解消されることはありません。また、“型にはまった報連相”ができたとしても、その部下が物事を深く考えているとは限らず、上司から「で、どうしたいの?」と聞かれると、何も答えられなくなってしまうことがあります。
経営者も社員に報連相を求めますが、自分と社員とのギャップを誰よりもよく理解しています。そのため、社員には報連相の型よりもスピードを求めます。社員に少しでも早く情報を伝達してもらったほうが、経営者が物事を考え、判断する時間を長く確保することができるからです。
また、経営者は社員が報連相をしやすい雰囲気づくりにも配慮しています。それは、社員から「悪い情報」をいち早く知るためです。悪い情報でも隠蔽されずに伝達される組織は健全といえ、課題の早期解決にもつながるからです。
報連相に限りませんが、情報は求めるだけでは入手できず、相手に「情報を出したい」と思ってもらわなければなりません。経営者は、社員の報連相に感謝する姿勢を示し、社員が情報を出したいと思える雰囲気づくりをすることが欠かせません。
3 こだわりを守るために方針転換する
「一度決めたことに、どれだけこだわるか」。ビジネスでしばしば議論になることです。ビジネスにおいて、経営者は周囲の反対を押し切ってでも自分の考えを押し通すことがある一方で、他人の意見を聞いてすんなりと自分の考えを変えることもあります。
経営者が最もこだわるのは、企業経営の根幹となる理念であったり、社運をかけて取り組む新規事業であったりします(「撤退プラン」はあります)。もちろん、そこから派生する重要事項についてもこだわります。
一方、経営者は競争に勝ち抜くために柔軟性のある考え方を維持することにも努めています。そのため、「これは素晴らしい!」と感じたものは積極的に取り入れます。企業経営に関して多くのことを決められる、経営者だからこその決断です。
また、当初は1000万円の予算を承認する雰囲気だった経営者が、1週間後には500万円まで削減するように指示を出したりします。1週間で考えが変わることもあれば、「具体的な根拠はないものの、500万円が惜しくなった」ということもあります。
いずれも、経営者としては「こだわりを捨てず、直感を信じ、より良い決断をした」ということです。しかし、周囲にはそれが分からないことがあり、自分勝手な経営者であるとか、考えがころころ変わる経営者と映ってしまうことがあります。
企業でありがちな問題ではありますが、経営者の方針が社員にとっては受け入れ難いものでは困ります。経営者の方針を実行するのは社員だからです。そのため、経営者は自分の方針転換によって影響を受ける社員の心境もおもんぱかり、ある程度の配慮をする必要があります。
このことは、提携先など社外の人との関係においても同様です。経営者がより良いサービスを実現するために提携先と決めた内容を見直した場合、その理由が明確に伝わっていないと、提携先は経営者のことを「やりにくい相手」と認識してしまうのです。
経営者のこだわりは周囲からは見えにくく、柔軟性は「付和雷同」と映ることもあります。そうならないように、経営者は方針を出した背景や目的を周囲に伝え、理解を得るようにしましょう。これは、経営者のこだわりを実現するために欠かせない配慮です。
4 人を好きになるより嫌いにならない
ビジネスでは、人と人とのつながりが大切です。相手と良い関係を築くことができれば、ビジネスの可能性は大いに広がります。良いパートナーを見つけ、関係を維持する力は、今どきのビジネスパーソンにとって必須だといえるでしょう。
相手と良い関係を築くために多くの人がすることは、相手を好きになる努力です。ビジネスでは双方の利害がなかなか一致しませんが、相手を好きになることができれば、相手のことを受け入れる余地が広がり、良い関係が築きやすいと考えるためです。
相手を好きになろうとする過程で、相手のことをより深く知れるのはよいことです。ただし、人を好きになるのは簡単ではありません。家族や友達、恋人でさえ分かり合えないことがあるので、ビジネス上の相手ではなおさらのことです。
一方、ビジネスで知り合ったばかりの人のことを好きだという人がいますが、これは考え方や波長が合う程度のことが多く、一緒にビジネスをしてみると、意見が合わない部分や、好ましくないと感じる部分が出てくるものです。
人を好きになるのは難しいということを経営者は理解しています。加えて、企業経営を任されている経営者は、「だまされてはいけない」という思いも強く、会ったばかりの相手とは一歩引いて付き合わざるを得ない面もあります。
以上から、経営者は相手を好きになることよりも嫌いにならない努力をします。好きではないことと、嫌いであることは全く違います。好きではないというのは普通の関係ですが、嫌いになると相手を避けるようになり、ビジネスがしにくくなるのです。
相手を嫌いになる理由は、見た目や話し方、考え方などさまざまです。このうち、見た目や話し方などについては、ビジネスと直接関係ないので、経営者は気にしないようにしています。
また、相手の考え方が気に入らない場合は、自分の考え方を相手の考え方に合わせようとせず、「考え方は多様である」ことを分かる努力をします。あえて苦手な人と2人で会食をして、“異質”に触れる訓練をする経営者もいます。
以上のように、相手を嫌いにならないことは大切です。ただし、ドライに徹し過ぎると“仲間”をつくることができません。経営者には社内外の仲間が必要です。「この人だ!」と感じる人がいれば、心を開いて相手の懐に飛び込んでみることも大切です。
以上(2019年4月)
pj10030
画像:unsplash