書いてあること

  • 主な読者:さらに成長するためのヒントが欲しい経営者
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  • 解決策:他の経営者の思考習慣も聞いてみる

1 「当たり前」の呪縛から解放する

世の中には、「当たり前」という一言で片付けられてしまうことが多くあります。例えば、「9時に出社して18時に退社する」という働き方に疑問を持つ人は、これまでほとんどいませんでした。しかし今、「当たり前」がさまざまな分野で覆されつつあります。

世の中にある多くのサービスは、仕方がないと諦められてきた「不満・不便・不信」を解消するものであり、「ディスラプター」(新技術で既存のサービスを破壊するスタートアップ企業など)と呼ばれる企業が提供しているものが少なくありません。

肌で感じられるほど時代の流れが急速な現在、長年続く企業の経営者であっても、ディスラプターの精神を持ち、当たり前のことを疑い、新たな視点でビジネスにチャレンジしていかなければ勝ち残ることが難しいでしょう。

今回は、「鶏と卵の順番にこだわる」「『言霊(ことだま)』を信じる」「『本の世界』から飛び出す」という3つを取り上げます。経営者が新しいチャレンジを推し進める上で何らかのヒントになれば幸いです。

2 鶏と卵の順番にこだわる

ミーティングの場では、「それは鶏と卵の問題ですよね」というフレーズがよく使われます。これの意味するところは、「今、検討されている取り組みの順番は、どちらが先でもよい」といったものです。

特に新たなチャレンジをする際の検討事項は多いものですが、本当に優先順位が高い事項はわずかで、ほとんどは「目の前のものから片付ければよい」類いです。しかし、それでも経営者は“鶏と卵の順番”、つまり手順にこだわります。

まずは鶏が先の場合。例えば、新規事業の具体的な内容は決まっていないが、先に別会社や事業部を立ち上げて体制を整え、新しい環境で事業を検討するアプローチです。魅力的な卵を産み出す環境の整備を重視しています。

次は卵が先の場合。例えば、新規事業の内容を明確にした後に、その卵を素早くふ化させるために、既存組織とは別の組織運用ができる別会社や事業部を立ち上げるアプローチです。卵を確実にふ化させる手順を重視しています。

鶏が先か、卵が先か。好ましい順番は状況によって異なるもので、どちらかが絶対的な正解というわけではありません。前述した例の場合は、組織の雰囲気や規制の厳しさなどによって選択することになるでしょう。

大切なのは、一見すると後先は特に問題にならないような場合でも、手順を常に考え続けることです。「それは鶏と卵の問題ですよね」というフレーズは、ともすれば組織が優先順位の判断を放棄して、思考停止の状態に陥るきっかけにもなり得るからです。

経営者は細部にまでこだわります。社員からすれば鶏と卵の問題に見える簡単そうな判断でも、経営者は事柄を細かく分類し、詰め将棋のような思考実験をして手順を決めているものなのです。

3 「言霊(ことだま)」を信じる

「言霊」という言葉を使う経営者が少なくありません。これは“霊的”な意味で用いているわけではなく、「一つのことを願い、言い続けていれば、いつか実現できると信じている」と考えているのです。

この一つのことを願うというのは意外と難しいものです。本で読んだり、人から聞いたりした話を表面的になぞって話す人がいますが、しばらくすると、全く違ったことを言い始めたりします。これでは、言霊が宿ることはないでしょう。

経営者が同じことを言い続けることで宿る言霊には、科学的な根拠があります。一つのことを願い続けるということはゴールが変わらない、つまり取り組みにぶれがないということです。そのゴールに向かって一歩一歩進めば、ビジネスは成功に近づきます。

また、一つのことを言い続けると、周囲に刷り込まれていきます。そして、「○○を目指す人」という“通り名”ができると、経営者仲間などが関連する情報をくれたり、人を紹介してくれたりします。

社内にも良い効果を与えます。経営者が常に同じことを言っていれば、社員は自分たちがどこに向かっているのかが分かります。それが具体的な行動につながれば、全体で共有しているゴールを目指して、効率的に仕事をすることができます。

このように、経営者が考える言霊の効果は、ある意味で科学的な根拠があります。特に経営者は、同じ悩みを抱える経営者仲間を応援したいと考えているものであり、その力を貸してもらえることは頼もしい限りです。

以上が、経営者が言霊に見いだしている意義ですが、その前提となる大切なポイントは、経営者がずっと言い続けることができる「何か」を見つけていることです。それは、経営者本人が本気でほれ込み、全力で打ち込めるものであるのが理想です。

4 「本の世界」から飛び出す

経営者は知識の吸収に貪欲で、本や雑誌、テレビなどから得ます。それも本業の関連分野から芸能分野まで幅広いジャンルです。なぜなら、「どのようなものでも、ビジネスに結び付く可能性がある」と考えているからです。

また、経営者が本を読むときなどは、フラットに構え、いわゆる「バイアス」を取り除く努力をします。特にビジネスの変化が急速な今どきは、過去から続く“当たり前”を排除しなければ時代にキャッチアップできません。

このような知識の吸収の仕方は経営者が実践しているものです。大切なのは、吸収した知識を使って行動することです。逆に言えば、知ることで満足し、吸収した知識を使わないでいるようでは意味がないのです。

また、経営者は知識の蓄積と活用について独自の感覚を持っています。例えば、集中して本を読めば、ある程度の知識が吸収されて「知らない」状態から、「知っている」状態に進むことができます。

しかし、たくさんの本を読むと1冊に対する印象が薄くなり、本に書いてあった内容がほとんど記憶に残らない状態になります。これを回避するために、多くの人は3回読むとか、線を引くなどのテクニックを使います。

一方、経営者は本の知識が蓄積されにくいことをあまり気にしません。大切なのは行動であり、本の知識を正確に蓄えることではないからです。行動のヒントが得られれば、本の途中でも読むのをやめることが珍しくありません。

経営者は、行動することで得られる「気付き」を大切にします。知識を得て行動し、リアルな課題に遭遇し、それを乗り越えることで、ようやく本質にたどり着くことができます。

そして、気付きを得た後に、もう一度、本を読み返してみると、最初は読み飛ばしていた文章の意味を見いだすことができ、それをまた行動に生かします。これこそが本の世界から飛び出さないと得られない価値です。

以上(2019年10月)

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画像:unsplash

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