書いてあること
- 主な読者:社員が逮捕されたときの初動対応を知りたい経営者
- 課題:うかつに懲戒処分にするとトラブルになる。社員が身柄を拘束されている間の業務のフォローなども心配
- 解決策:誰から、どのような情報を入手すればいいのかを押さえる。逮捕後の刑事手続の流れ・スケジュールを知る
1 社員が逮捕されるケースを想定したことはありますか?
もし、社員が痴漢や飲酒運転で逮捕されたら……。「ウチの社員に限ってそんなことはない」と思いたいものですが、万が一、社員の家族などからそうした連絡があったら、皆さんは落ち着いて対処できるでしょうか。
感情的になって、「犯罪に手を染めるような社員は許せない」と懲戒処分にするのはNGです。逮捕された時点では、社員が本当に有罪なのかは分かりませんし、有罪だとしても相手にどの程度の被害を与えたのかなどを確認しておかないと、後々トラブルになります。
また、社員が逮捕された後は、取り調べなどで身柄を拘束される関係で、働けない期間が発生します。働けない期間について、社員の賃金をどうするのか(賃金の出ない欠勤とするか、有給休暇を消化させるか)、業務のフォローをどうするのかなどを検討する必要がありますが、そのためには、どのぐらいの期間働けないのかなどを知っておかなければなりません。
この記事では、社員が逮捕されたときの初動対応のポイントとして、
- 誰から、どのような情報を入手すればいいのかを押さえる
- 逮捕後の刑事手続の流れ・スケジュールを知る
の2点を紹介します。
2 誰から、どのような情報を入手すればいいのかを押さえる
社員が逮捕された場合、通常は社員の家族や弁護人から、会社に連絡が入ります。業務中に逮捕された場合や被害者が同じ会社の社員である場合、警察官から連絡が入ることもあります。
また、社員本人については、勾留決定後であれば会社の担当者が接見できることがあります。ただし、接見禁止処分が付されている、取り調べ予定が入っている、捜査で警察署外に出ているといった場合は認められません。
「1.『社員が逮捕された』と連絡があったとき」「2.勾留決定後に社員本人に接見するとき」に確認しておくべき内容としては、次のようなものがあります。
なお、1.については、「家族が、気が動転していて情報を正しく収集できない」「弁護士や警察官が守秘義務の関係で、知りたいことを教えてくれない」といったケースがあるので、直接連絡をくれた相手だけでなく、複数の相手から情報を入手したほうがよいでしょう。
3 逮捕後の刑事手続の流れ・スケジュールを知る
社員が逮捕された場合、一般的な逮捕後の流れ・スケジュールは次のようになっています。なお、「逮捕・送検」「勾留」「起訴・不起訴」などの詳細について知りたい場合、第4章をご確認ください。
社員が逮捕された場合、検察官が起訴・不起訴といった終局処分を決定するまでに、
最大23日間(72時間+20日間)身柄を拘束される恐れ
があります。ただし、必ず23日間身柄拘束されるわけではありません。
例えば、自動車運転過失致死傷罪(交通事故)の場合、早期に釈放されて在宅で処理されることが比較的多いです。また、痴漢や盗撮などの条例違反の場合、本人が自白しており、身分がはっきりしていて逃走の恐れがない場合などは、逮捕後、検察官送致前の48時間以内に釈放されたり、検察官が勾留請求しても裁判所が勾留請求を却下したりする事例もあります。
4 逮捕後の刑事手続に関する用語
1)逮捕・送検(最大72時間)
逮捕されると、警察の取り調べ後、48時間以内に検察官に事件が送られます。これを「送検」といいます。送検後、検察官は、それから24時間以内に取り調べをした上で、「勾留の理由」と「勾留の必要性」が認められる場合には、裁判所に「勾留請求」を行います。
- 勾留の理由:被疑者について、罪を犯したと疑うだけの理由があり、かつ「1.住所不定」「2.証拠隠滅の恐れあり」「3.逃亡の恐れあり」のいずれかに該当すること
- 勾留の必要性:事案の軽重、被疑者の年齢、被疑者の体調などを勘案して、勾留が必要だといえること
検察官が、上のような事情が認められないと判断した場合、勾留請求を行わずに被疑者は釈放されることもあります。
2)勾留(最大20日間)
検察官から勾留請求がされると、裁判官が被疑者に被疑事実を弁解させる機会を与えるために「勾留質問」をし、勾留するか否かを決めます。勾留が認められると、
- 原則として、勾留請求された日から10日間身体の自由が奪われる
- 10日間で捜査が終わらない場合、さらに10日間以内で勾留延長される
ことになっています。つまり、勾留期間は最大20日間です。この勾留期間内に、警察や検察などの捜査機関が被疑者に対して「取り調べ」を行います。
3)起訴・不起訴
1.起訴・不起訴の決定
勾留期間内に捜査が終わると、検察官は被疑者を「起訴」するか、「不起訴」とするかを決めます。勾留期間内に捜査が終わらなければ、被疑者は一旦釈放された後に、起訴されることもあります。起訴された場合、被疑者は裁判所で裁判を受けます。また、呼び名がこれまでの「被疑者」から「被告人」に変わります。不起訴の場合、被疑者は釈放されます。
2.起訴(「正式裁判」「略式手続」「即決裁判手続」)
正式裁判とは、
公開された法廷で審理が行われる刑事裁判の原則的なもの
です。被疑者が容疑を認めている事件(自白事件)であれば、通常、起訴日の約1カ月半後に公開の法廷で第1回期日が開かれ、その約1~2週間後に判決の言い渡しとなります。容疑を認めていない場合、判決までに証拠調べや証人尋問などが必要になるため、さらに時間がかかります。
略式手続とは、
事案が明白で簡易な事件について、公開裁判によらず、検察官の提出した書面を基に、簡易裁判所が罰金・過料の金額を、法定刑の範囲内で決めるもの
です。被疑者は裁判所が決めた金額を、いつ・どこに納めるかを指定され(略式命令)、罰金・科料を納めることで刑の執行が完了します。なお、略式手続を行うには被告人の同意が必要で、また、懲役・禁錮刑や100万円を超える罰金を科すことはできません。
即決裁判手続とは、
事案が明白であり、軽微で争いがなく、執行猶予が見込まれる事件を対象としたもの
です。起訴からできる限り早い時期(東京地方裁判所では14日以内)に第1回公判期日が指定され、原則として1回の審理で即日執行猶予判決を言い渡されます。即決裁判を行うには、被告人と弁護人の同意が必要で、また、死刑または無期もしくは短期1年以上の懲役もしくは禁錮を科すことができる事件については、即決裁判で審判することができません。
3.不起訴
検察官が不起訴処分を下す主な理由として、「嫌疑不十分」と「起訴猶予」とがあります。
嫌疑不十分による不起訴とは、
被疑事実につき、犯罪の成立を認定すべき証拠が不十分なときに行う処分
のことです。
起訴猶予による不起訴とは、
被疑事実が立証できる場合であっても、被疑者の性格、年齢および境遇、犯罪の軽重および情状並びに犯罪後の状況(示談や被害弁償、被疑者の反省の態度など)により、検察官の裁量であえて起訴しない場合に行う処分
のことです。
4)保釈
起訴された時点で勾留されている被疑者は、そのまま身柄拘束(勾留)が続きますが、「保釈」が認められると、判決までの間、自由になることができます。保釈は、被告人が逃げたり、証拠を隠したりする恐れなどがないと裁判官が認めたときに、相当の保釈保証金を納付して初めて許されます。
5)正式裁判(公判)
裁判所は、起訴された事実について審理を行った後、有罪か無罪かの判決を下します。有罪の場合は、懲役、禁錮、罰金などの刑が宣告されますが、前科がなく、3年以下の懲役もしくは禁錮刑などの言い渡しを受けたときに、被告人に有利な特別な事情がある場合には、刑の執行が猶予(執行猶予)されることがあります。
執行猶予付きの判決の場合には、
被告人は釈放され、執行猶予期間中に被告人が他に犯罪行為をしなければ、刑の執行を受けなくても済む
ことになります。ただし、前科がつきます。
以上(2022年11月)
(監修 弁護士 坂東利国)
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