書いてあること

  • 主な読者:適切な会計処理を社内に徹底したい中小企業の経営者・経理担当者
  • 課題:不適切会計は普段は目につきにくく、発覚する頃には手がつけられない金額になっていることも有り
  • 解決策:不適切会計の典型例を紹介し、会計上の兆候や防止策を解説

1 不正会計は「嘘つき会計」

決算書は、

  • 社内や社外の関係者に業績を示す資料
  • 経営者が経営判断をする材料

になる重要な情報です。決算書は正直に作成されなければなりませんが、中には「嘘つき」な決算書もあります。これを「不正会計」(不適切な会計処理)といいます。意図的な不正会計は論外ですが、意図せず結果として不正会計になってしまっていることもあります。

しかし、関係者はそうした背景に関係なく、不適切な会計処理をした会社を信用しなくなります。そうならないためにも、経営者は典型的な方法とその兆候を知り、具体的な防止手段を取っておかなければなりません。この記事では、そのためのポイントを紹介します。

2 起こりやすい不適切な会計処理

1)売上高を大きく見せる方法

1.売上高の前倒し計上

売上高計上のタイミングは、

対象となる物品やサービスが受け渡された日

です。そのため、このタイミングより早く売上高を計上することで売上高を大きく見せることができます。これは、実際の販売取引に対して、売上高計上のタイミングのみを操作することが特色です。例えば、売買契約締結日や手付金受取日に売上高を計上することが考えられます。

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2.売上高の架空計上

売上高の架空計上は、実際の販売取引がないにもかかわらず決算書でのみ売上高があったかのように会計処理するものです。売上高の前倒し計上と異なり、実際の販売取引自体を仮装していることが特色です。

なお、全くの架空販売取引として売上高を計上することの他に、実際の販売取引の金額に上乗せして架空の売上高を計上するケースも見られます。

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2)費用を小さく見せる方法

1.棚卸資産の過大計上

対象となる物品の購入対価は販売されるまでの間、棚卸資産として資産に計上され、販売されたときに売上原価(費用)に振り替えられます。

棚卸資産の過大計上とは、販売されたものの、棚卸資産から売上原価への振り替えを過小とすることで、売上原価を減少させて差引としての利益を大きく見せるものです。売上原価への振り替えが過小であるため、振り替え後の棚卸資産は過大計上される結果となります。

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2.架空資産の計上

会社運営に必要な諸費用は、その費用が発生した期の損益計算書に計上する必要があります。架空資産の計上とは、費用として計上すべきものを資産勘定として貸借対照表に計上することで、費用を減少させて差引としての利益を大きく見せるものです。資産勘定には計上されているものの実際の資産は存在しないため、架空資産となります。

例えば、本来は損益計算書の費用に計上される交際費を仮払金(資産)で、修繕費(費用)を固定資産(資産)で計上することが考えられます。

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3 不適切な会計処理の兆候

1)売上高を大きく見せる場合

1.売上高の前倒し計上の兆候

売上高計上のタイミングが本来のタイミングより早いため、

売上高の相手勘定である売掛金が回収されるまでの期間が徐々に長期化

します。例えば、決済条件が月末締め翌月末払いのケースの場合、本来は翌月末には入金があり売掛金残高はなくなりますが、前倒しで売掛金が計上されると、取引先は本来の決済条件で支払うため入金は翌月末より後になり、回収までの期間が本来の決済条件よりも長期化します。回収までの期間が長期化している売掛金がある場合は、その原因を慎重に究明する必要があります。

2.売上高の架空計上の兆候

実際の販売取引がなく決算書のみで計上された売上高のため、取引先からの代金の支払いはありません。

架空売上高に対応する売掛金は回収できないことから、滞留債権となり長期間にわたって残高が減少しない

こととなります。残高が長期間にわたって減少しない売掛金がある場合は、その原因を慎重に究明する必要があります。

なお、架空売上の事実を隠蔽するため、正当な取引による回収代金を架空売上高の売掛金回収に充当することで、滞留債権化を回避することも考えられますが、この場合、正当な取引により発生した売掛金の回収までの期間が長期化するという影響が表れます。

2)費用を小さく見せる場合

1.棚卸資産の過大計上の兆候

売上原価に振り替えることなく棚卸資産として計上され続けるため、

滞留棚卸資産となり長期間にわたって残高が減少しない

こととなります。滞留している期間と、通常の販売までの期間とを比較して、不合理に長期化している棚卸資産がある場合は、その原因を慎重に究明する必要があります。

なお、棚卸資産の過大計上を隠蔽するため、過大な棚卸資産残高を棚卸減耗損や棚卸評価損によってなくすことが考えられます。不合理な棚卸減耗損や棚卸評価損が計上されている場合には、その原因を慎重に究明する必要があります。

2.架空資産の計上の兆候

現物が確認できない仮払金勘定が利用されることが多く、相手先や支出内容が不明な残高が徐々に増加します。

仮払金勘定は、一時的な支出を仮に処理する勘定科目のため、長期間にわたって多額な残高がある場合

には、その原因を慎重に究明する必要があります。

また、架空資産として固定資産勘定を利用する場合、不自然な金額が不自然なタイミングで計上されることが多くなります。

固定資産としては少額な金額が定期的に計上されている場合や決済されていない固定資産支出が計上されている場合

には、その原因を慎重に究明する必要があります。

4 不適切な会計処理の防止手段

不適切な会計処理の防止のためには、適切な内部統制を構築することが有効です。特に

職務分掌(仕事の役割分担や権限を明確にすること)の徹底

は、シンプルではありますが効果的と考えられます。例えば、伝票起票者と伝票承認者が区分されていれば、相互けん制によって不適切な会計処理は実行しにくくなります。また、資金担当者と記帳担当者が区分されていれば、入金内容を意図的に変更させて経理処理することは難しくなります。さらに、担当者の変更により後任者が前任者の不適切な会計処理に気付くことがありますので、人事異動を定期的に実施することも、不適切な会計処理の防止に効果的です。

特定の1人に任せきりにしないことが最も重要なポイントとなりますが、中小企業のように限られた人員で管理業務を実施している場合、複数名での対応が難しいことも考えられます。その場合、十分とはいえないまでも、例えば、

監査役などが既述の事項を重点的にヒアリングする

ことによって一定のけん制効果が期待できます。

以上(2023年10月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 米山泰弘)

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画像:pexels

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