書いてあること
- 主な読者:暴力団等の排除を進めたい経営者
- 課題:暴排条例において企業はどんな取り組みをすべきかが分からない
- 解決策:日ごろから新聞記事などで取引先について調べ、不安があったら、所轄の警察署に相談する。後述する暴力団等の排除に関する特約条項を契約書に盛り込むことも重要
1 暴力団等排除の当事者に位置付けられた事業者
「暴力団排除条例」(以下「暴排条例」)の目的は、社会全体で暴力団を含む反社会的勢力(以下「暴力団等」)を排除することによって、住民の安全で平穏な生活を確保し、事業活動の健全な発展に寄与するために、47都道府県でそれぞれ施行されています(各都道府県によって暴排条例の名称および内容が異なる場合があります)。
事業者が注意しなければならない大切なポイントは、暴排条例において、事業者自身も暴力団等排除の当事者に位置付けられていることです。具体的には、「利益供与の禁止」「契約時における措置」「不動産の譲渡等における措置」などの取り組みによって暴力団等を排除しなければなりません。さらに、暴排条例に違反した場合、事業者も勧告や公表などのペナルティーを受けます。
本稿では、東京都の暴排条例を中心に、事業者に求められる暴排条例上の措置、暴排条例に違反した場合のペナルティー、基本的な暴排条例対策について紹介します。なお、東京都の暴排条例は2019年中に、暴力団員による「みかじめ料」の要求に加え、飲食店などがみかじめ料を支払った場合も罰則の対象とする改正を予定しています。
2 暴力団等の定義
暴排条例では、幾つかのレベルに分けて暴力団等を定義しており、それに応じて規制の内容が変わります。東京都の暴排条例における暴力団等の定義は次の通りです。
近年、暴力団等の活動は巧妙さを増しており、事業者が特に暴力団関係者や規制対象者に関する情報を入手することが難しくなっています。相手が暴力団等であることを知らずに利益供与などをした場合、事業者が暴排条例違反に問われることはないものの、顧客、取引先、従業員から「暴力団等の実質的支配下にある『フロント企業』と関係していたらしい」などといった評判を立てられ、会社の信用が低下するリスクがあります。
3 事業者に求められる暴排条例上の措置
1)利益供与の禁止
利益供与の禁止の対象となる主な行為は、次のように大別されます(「威力の利用」と「助長取引」は、便宜上、定義したものです)。なお、相手方が供与された利益に見合った適正な料金を支払ったとしても、利益供与には該当します。
- 威力の利用:
事業者が暴力団等の威力を利用するために(利用したことに関し)、金品その他財産上の利益を与える行為 - 助長取引:
事業者がその行う事業を通じて暴力団等の活動を助長するなどの行為
一見分かりにくい助長取引の具体的な内容を、東京都の暴排条例で確認してみましょう。
【東京都 暴力団排除条例第24条第3項】
事業者は、第1項に定めるもののほか、その行う事業に関し、暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなることの情を知って(注1)、規制対象者又は規制対象者が指定した者(注2)に対して、利益供与をしてはならない。ただし、法令上の義務(注3)又は情を知らないでした契約に係る債務の履行(注4)としてする場合その他正当な理由がある場合には、この限りでない。
1.暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなることの情を知って(注1)
「暴力団の活動を助長し、または暴力団の運営に資することになるという『事情』を知って」ということです。そのため、そもそも相手が暴力団員などの規制対象者または規制対象者が指定した者だと知っていたか否かだけではなく、その活動の助長等につながることを認識していたか否かも重要なポイントとなります。また、これは決裁権者の、利益供与時の認識を基準とします。
暴排条例に違反するケースと、そうではないケースの例は次の通りです。
- 違反している:
ホテルが、暴力団組長の襲名披露パーティーに使われることを知って、宴会場を貸し出す
- 違反ではない:
ホテルが、暴力団等の会合とは知らず、また、知る余地もないまま宴会場を貸し出したところ、会合後に暴力団員の利用であった
2.規制対象者又は規制対象者が指定した者(注2)
第1には、事業者は「規制対象者=暴力団員」として対策を講じることになるでしょう。なぜなら、暴力団員以外の規制対象者(フロント企業など)に関する情報を事前に入手するのは難しいからです。
ただし、業界や地域警察のデータベースに登録のある規制対象者については,実際にデータベース等を見ていなかったというだけで単純に「知らなかった」と扱ってもらえるとは限りません。言動等から疑わしく感じられる取引先については、都度調査するなどの対策を講じる必要があります。
3.法令上の義務(注3)
医療やライフライン(電気・水道・ガス)の提供や、建築物等の維持保全などがこれに当たります。そのため、情を知った上で規制対象者または規制対象者が指定した者に医療やライフラインを提供しても、暴排条例違反とはなりません。
4.情を知らないでした契約に係る債務の履行(注4)
情を知らずに交わした契約の債務を履行することは暴排条例違反とはなりません。例えば、次のケースは暴排条例違反とはなりません。
- リース会社が、相手が規制対象者または規制対象者が指定した者であることを知らずにOA機器のリース契約を交わしたが、後日規制対象者であることが判明したので、契約書上の暴排条項に基づいて直ちに解約し、解約前の利用分についてリース料を請求した
更新契約を締結することはもちろんのこと、規制対象者だと判明して以降もなお、契約書に暴排条項がありながら解約をせずに契約関係を続ければ、条例違反となる可能性が高いでしょう。
2)契約時における措置
契約時における措置とは、事業者が、事業に関する契約が暴力団の活動の助長等につながる疑いがあると認められる場合には、相手方(代理人もしくは媒介する者を含む。以下、本章にて同様)が暴力団関係者でないかを確認するように努めなければならないというものです(東京都暴排条例18条1項)。
また、契約書面に次のような特約条項等を盛り込むように努めなければなりません(同条2項1号)。
相手方が暴力団関係者であることが判明した場合、事業者は催告を要せずに契約を解除できる
3)不動産の譲渡等における措置
不動産の譲渡等における措置は、不動産の譲渡または貸し付け(地上権の設定を含む)を行う者が、相手方に、その不動産を暴力団事務所に使うものではないことを確認するように努めなければならないというものです(不動産の譲渡等の契約主体は事業者に限られません。以下、本章にて同様)(東京都暴排条例19条1項)。
加えて、契約書面に次のような条項を盛り込むことも、努力義務として求められています(同条2項1号2号)。
- 当該不動産を暴力団事務所として使ってはならない、または第三者に暴力団事務所として使用させてはならない
- 当該不動産を暴力団事務所として使っていることが判明したときは、催告を要せずに契約を解除し、または当該不動産を買い戻すことができる
また、不動産仲介業者は、暴力団事務所に利用されることを知って不動産の仲介をしないように努めるとともに、不動産の仲介を依頼する者に対して、適切な情報提供などの助言その他必要な措置を講じることが求められています(同条例20条)。
4)その他の措置
上記の他、祭礼、花火大会、興行等の主催者等は、当該行事の運営に暴力団等を関与させないための措置を講ずること、青少年の教育または育成に携わる者は、暴力団等に加入せず、暴力団員による犯罪の被害を受けないよう、指導、助言等の措置を講ずること等が規定されています(東京都暴排条例16条,17条)。また、暴力団排除活動に資する情報を知った場合、都道府県または暴追センター等に情報提供することが定められている場合があります(同条例15条1号参照)。
4 暴排条例に違反した場合のペナルティー
東京都の暴排条例に違反した場合に事業者が受けるペナルティー等としては,公安委員会から報告や資料提出を求められること、立入検査、勧告、公表、命令があり(東京都暴排条例26条から30条)、特にこの命令に違反した場合には、その行為態様次第で1年以下の懲役または50万円以下の罰金を受ける可能性があります(同条例33条)。しかも、法人、担当者、代表者全員に対して罰が下される可能性があります(同条例34条)。
暴排条例に違反することがないよう、しっかりと手を打っておくべきであることは間違いありません。
5 事業者が行う基本的な暴排条例対策
1)情報収集が基本
事業者が取り組む暴排条例対策の基本は情報収集です。近年、暴力団等の活動は巧妙さを増しています。暴力団等の実質的支配下にある「フロント企業」を隠れみのにして、その実態を巧みに隠しながら事業者に近づいてきます。
役員や株主に手を回していることがあり、その正体をつかむことは以前にも増して難しくなっています。悪意のない「助長取引」を避けるためにも、日ごろから取引先などに関する情報収集を徹底することが重要です。基本的な情報収集の方法は次の通りです。
- 新聞記事:
新聞のデータベースで過去の記事を検索し、相手が暴力団等との関係を持っていないか、トラブルを起こしていないかなどを調べます。 - 信用調査:
帝国データバンクなどの信用調査会社を利用して、相手の情報を入手します。明るみに出ていない、業界内での情報などが分かる可能性もあります。 - 雑誌記事:
週刊誌に暴力団等の記事、人物の名前などが掲載されていることがあるので、国立国会図書館などでバックナンバーを調べます。
以上のような情報収集の結果、少しでも不安を感じたらすぐに所轄の警察署に相談するようにしましょう。所轄の警察署は、暴排条例を順守するために事業者が行う照会に対して、事案に応じて情報を提供してくれる可能性があります。
例えば、相手方が次のような場合は注意が必要です。
- 明確な理由がないのに、頻繁に社名を変更している
- 会談の場などで態度が横柄かつ言葉遣いが威圧的である
- 袖口などから暴力団員と推測されるような入れ墨が見える
- 事務所が住宅地にあり、その入り口周辺に不自然に複数の防犯カメラが設置されている、怪しい人物が周辺を見回るなどして警備している
2)契約書面に盛り込む暴力団等の排除の特約条項
契約に暴力団等の排除に関する特約条項(暴力団排除条項)を盛り込むことも重要です。以下は特約条項の一例(甲はご自身、乙は相手方を指します)であり、事業者の実態に応じて必要な修正を行うとよいでしょう。
第○条(反社会的勢力の排除)
1)乙は、甲に対し、次の各号のいずれにも該当しないことを確約し、甲は、乙が次の各号に該当する場合に、何らの催告を要せず、本契約を解除することができる。甲がこれによって解除した場合、乙は、甲に対して負うすべての債務について期限の利益を喪失し、直ちに弁済する。
- 乙(または乙の保証人)が、暴力団、暴力団員、暴力団員でなくなったときから5年を経過しない者、暴力団準構成員、総会屋等、社会運動等標ぼうゴロ、政治活動等標ぼうゴロ、宗教活動標ぼうゴロ、または暴力団関係企業もしくは特殊知能暴力団その他これらに準ずるものに属する者(以下「反社会的勢力」という)に該当すること。
- 乙(または乙の保証人)が、現在または将来にわたって、反社会的勢力または反社会的勢力と密接な交友関係にある者(以下併せて「反社会的勢力等」という)と次のいずれかに該当する関係を有すること。
- 反社会的勢力等が、その経営を支配している関係
- 反社会的勢力等が、その経営に実質的に関与している関係
- 乙(または乙の保証人)や第三者の不正の利益を図り、または第三者に損害を加えるなど、反社会的勢力等を利用している関係
- 反社会的勢力等に対して資金等を提供し、または便宜を供与するなどの関係
- その他反社会的勢力等との社会的に非難されるべき関係
- 乙(または乙の保証人)が、甲に対して、自らまたは第三者を利用して次のいずれかの行為を行ったこと。
- 暴力的な要求行為
- 法的な責任を超えた不当な要求行為
- 取引に関して、脅迫的な言動をし、または暴力を用いる行為
- 風説を流布し、偽計または威力を用いて甲の信用を毀損し、または甲の業務を妨害する行為
- その他イからニに準ずる行為
2)甲が前項の規定により本契約を解除した場合には、乙に損害が生じても甲は何らこれを賠償ないし補償することは要せず、また、かかる解除により甲に損害が生じたときは、乙はその損害を賠償するものとする。
(出所:暴力団追放運動推進都民センター「暴力団対応ガイド」を基に作成)
以上はあくまで一例に過ぎません。事業や契約の内容次第でカスタマイズする必要がございます。そして、契約書は、将来のトラブルを予測して事前にリスクを潰すものでなければ意味がありません。安易に上記例文を契約書へコピーアンドペーストし完了とするのではなく、ぜひ、法律相談または顧問契約をご利用の上、きちんと将来のトラブルを抑止できる契約書をご作成ください。
3)経営者のリーダーシップ
正しい方向で事業を運営していくことは経営者の使命であり、暴排条例への対応もその一環です。経営者は、自らが強いリーダーシップを発揮して、組織に暴力団等の排除の意識を定着させていかなければなりません。
同時に、「助長取引」などを防止するためには、最前線でさまざまな情報に触れている従業員の“感覚”が重視されます。少しでも不安を感じたら、その情報がすぐに上層部に報告されるような、風通しの良い組織をつくることが重要です。
4)相談窓口
警察関係で事業者が初めに相談することになるのは、所轄の警察署です。「暴力団排除条例の関係で相談したい」と伝えれば、担当課につながります。この他、東京都の場合は以下も相談先となります。
・警視庁 組織犯罪対策第三課 特別排除係
TEL:03-3581-4321(警視庁代表)
・警視庁 暴力ホットライン
TEL:03-3580-2222(24時間受け付け)
・暴力団追放運動推進都民センター
TEL:0120-893-240
・公益財団法人警視庁管内特殊暴力防止対策連合会
TEL:03-3581-7561
以上(2019年5月)
(監修 ベリーベスト法律事務所 福田匡剛)
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画像:unsplash