書いてあること

  • 主な読者:資本提携を検討したい経営者
  • 課題:資本提携の主な形態、手法、留意点が分からない
  • 解決策:資本提携の基本を理解し、提携戦略上や法律上の留意点を押さえる

1 M&Aと資本提携

提携とは、経営戦略の一手段として他企業と協力関係を結ぶことをいいます。その提携の一形態である資本提携とは、「企業間の提携において(ある程度規模の大きい)資本拠出をともなったもの」をいいます。この資本提携がM&Aにおいてどのような位置付けがなされるか、まず、M&Aの概念から紹介します。

M&Aとは、Mergers(合併)and Acquisitions(買収)の略語で、最も狭い意味のM&Aは「企業合併・買収」を意味します。しかし一般に、M&Aは資本拠出を伴う提携などを含めた広い意味での企業提携を指す言葉として用いられています。

つまり、資本拠出を伴った提携(以下「資本提携」)は、広義のM&Aに含まれ、株式を持ち合うといった資本提携もM&Aの一形態と解されています。ただし、資本提携はその案件ごとに、大きく異なった形態や背景を持つことから、一義的には定まりません。業務提携を補完する意味でごくわずかの株式を持ち合う株式の相互保有は、業務提携の1つに当たり、広義の資本提携には含めないとする考え方もあります。

本稿では、広義のM&Aの範疇に入ると考えられる一定規模以上の資本拠出を伴ったものを資本提携としていくこととします。

2 資本提携の形態と手法

1)資本提携の形式的形態による分類

資本提携とは、ある程度規模の大きな資本拠出を伴った企業間の提携であり、その形態は次の3つに分けられます。

  • 相手方の株式の取得・新株引受けによる提携(資本参加)
  • 相互に相手方の株式を保有する提携(相互保有)
  • 共同で新会社を設立するジョイントベンチャー、合弁会社の設立

資本提携には、出資比率が提携補完といえる数%の相互保有から、ほぼ買収といえる50%を超えるものまであり、案件によってその性格は大きく異なります。つまり、資本提携の形態の分類は、まず、株式を引き受ける資本参加をしているか、株式を相互に持ち合うかという点で分類することができますが、その規模や出資比率によって、単なる関係の親密化を目的とするものから買収に近いものまで、企業間の目的に応じてその実質は異なります。そのため、形態からの分類はあくまで形式的なものといえます。

また、資本提携の際には、業務提携に加えて資本を拠出することが多く、ほぼ買収に近いものであっても、提携企業のプレスリリースなどでは「業務提携および資本提携のお知らせ」という形で発表されるのが一般的です。

資本提携の概観をイメージするため、資本拠出を伴わない(業務提携補完の意味のごくわずかの相互保有を含む)、業務提携から資本提携までを簡単に図示してみます。 資本拠出から見た一般的な提携の流れは次の通りです。

画像1

2)資本提携の目的による分類

資本提携を広義のM&Aと捉えることで、M&Aの目的から資本提携の分類を考えてみます。M&Aには、一般的に次の6つの目的(動機)があるといわれています。これらは、広義のM&Aである資本提携の際の目的としてもよく見受けられます。

1.節約目的

新規事業進出、技術開発、市場・販売ルートの開拓、工場建設などに関して、新たに自社独自で展開を図るより、既にそれらを保有する企業をM&Aをしたほうが「時間」と「コスト」を節約できる場合。

2.シナジー(相乗)目的

自社の既存事業との組み合わせで、営業面や財務面などで「相乗効果」を発揮しようとする場合。

3.企業政策目的

株式の市場公開や株価対策をにらみながら、自社の財務バランスを目的に合致する形にしたいと考える場合。

4.救済目的

子会社・関係会社や取引先を救済するという意味で行う場合。

5.業界再編目的

業界での市場占有率の拡大や供給過剰体制を解消しようとする場合。

6.企業存続目的

後継者がいないなどの理由により、存続の危ぶまれる企業が存続のために自社株の大部分を譲渡する場合。

3)資本提携の手法

ジョイントベンチャーを除くと、資本提携は提携先企業の株式を取得(相互保有を含む)することになります。株式の取得方法は、既存株式の取得と新株の取得に大きく分けられます。ここでは、それぞれの方法と留意点を紹介します。

1.既存株式の取得

資本提携における既存株式の取得方法には、提携という性質上、特定の大株主から直接株式を取得する相対買付という方法が取られます。この方法は、未公開企業の株式取得では一般的ですが、上場企業(上場していない企業であっても有価証券報告書を提出している企業を含む)などでは、公開買付けの義務が発生することがあります。

2.新株の取得

資本提携で多く見られる手法が、第三者割当増資の実行による新株発行とその引受けです。これは資本参加をする際に、提携先企業が割り当てる新株を取得するものです。 第三者割当増資では、払込金額が引受人にとって特に有利なものである場合、株主総会の特別決議が必要となるため(会社法第199条第3項、第309条第2項)、会社法上の手続きを適切に行う必要があります。

3 資本提携における実務上の留意点

1)提携戦略上の留意点

資本提携は、提携の目的や成果を明確に描く戦略が不可欠です。資本を拠出する以上、提携の成果を企業価値の向上や自社の経営力向上に結び付けなければ意味がないからです。

そのため、資本提携の際には、あらかじめ自社および提携先企業の経営資源をしっかりと分析しておくことが重要です。弁護士や公認会計士、提携やM&Aを扱う証券会社やコンサルティング会社などに相談し、提携の効果や提携後に想定される状況をできる限り把握しておきましょう。

また、自社が資本を拠出し、思い描いた資本提携の効果が得られない状況であれば、思い切って資本提携関係を解消することも戦略の1つといえます。

2)法律上の留意点

資本提携の法律上の留意点として、議決権の停止があります。会社法第308条第1項は、「議決権の数」として次の通り定められています。

【会社法第308条(議決権の数)】

株主(株式会社がその総株主の議決権の四分の一以上を有することその他の事由を通じて株式会社がその経営を実質的に支配することが可能な関係にあるものとして法務省令で定める株主を除く。)は、株主総会において、その有する株式一株につき一個の議決権を有する。ただし、単元株式数を定款で定めている場合には、一単元の株式につき一個の議決権を有する。(第2項略)

この第308条第1項括弧書にある通り、「株式会社がその総株主の議決権の四分の一以上を有することその他の事由を通じて株式会社がその経営を実質的に支配することが可能な関係にあるものとして法務省令(会社法施行規則第67条)で定める株主」は、議決権を行使することができません。 

仮に、株式の相互保有の形で資本提携している甲社と乙社において、甲社が乙社の株式を30%保有し、乙社が甲社の株式を20%保有していた場合、乙社が持つ甲社株式には議決権がなくなることに留意しておきましょう。

また、先にも触れましたが、第三者割当増資における特に有利な発行価額に関しても、事前に専門家などにしっかりと相談することが不可欠です。

これら会社法上の留意点以外にも、株式取得にかかわる関連法規なども適切に処理していくことが求められます。

以上(2019年5月)
(監修 合同会社gtra and company 代表執行役 公認会計士 朝倉厳太郎)

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画像:pexels

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