書いてあること
- 主な読者:販路拡大や生産コスト削減などのために、海外展開を検討している経営者
- 課題:海外展開を成功させるための秘訣を知りたい
- 解決策:海外展開に成功した他の中小企業の事例を参考にする
1 他社の成功事例を知ることも大事な情報収集
海外展開を検討する際、現地のリスクの把握や市場調査の他に、収集すべき情報として、
先行した他社の成功事例
があります。理論や数字などから海外展開の成功ポイントを知るだけでなく、実際の成功事例を参考にすることで、検討すべき課題がより明確になるはずです。
この記事では、日本貿易振興機構(以下「ジェトロ」)「ジェトロ活用事例」、新輸出大国コンソーシアム「海外展開成功事例集」、中小企業基盤整備機構(以下「中小機構」)「中小企業の海外展開入門」などの資料や、各社ウェブサイトなどを基に、中小企業の海外展開事例を紹介します。なお、各機関の資料で紹介されている事例については、各資料作成時点のものです。
2 中小企業の海外展開における成功事例
1)オンライン商談を活用して販路開拓した事例:翠華園 谷村弥三郎商店(奈良県)
翠華園 谷村弥三郎商店は、茶せんなどの茶道具を製造販売しています。
同社は2020年に海外への輸出に取り組み始めました。まずは茶道具の海外ユーザーを増やすために、SNSのInstagram(インスタグラム)を活用し、茶道具の魅力や工房の様子などを発信したところ、ダイレクトメッセージで引き合いがくるようになったといいます。
そして、ジェトロが主催するオンラインカタログサイト「JAPAN STREET」に登録したことで、米国のバイヤーとの取引が成約し、ニューヨークのセレクトショップで販売されるようになりました。
取引が成約に至った決め手は、オンライン商談でした。バイヤーが顧客にも茶せんの価値や魅力を伝えられるよう、スマートフォンを使って実物を見てもらいながら、商品の背景にあるストーリーを説明したことが奏功したといいます。
具体的には、原料となる竹を見てもらいながら素材へのこだわりを説明。さらに、実際に工房で職人が手作業で茶せんを作る様子を映しながら製造工程を紹介することで、商品の価値と魅力を伝えることができたそうです。
2)越境ECサイト内のSNSを活用してリピーターを増やした例:Earthink(兵庫県)
Earthinkは、食品や雑貨の企画製造・販売などを行っており、食品の国内外への通販事業にも携わっています。2015年からは、米国のECモールAmazon.comに「Japan Village」を出店し、うなぎのかば焼きなど日本のこだわり食品を販売しています。
ECモール内で自社の販売する商品を見つけてもらうために試行錯誤する中、同社は2021年にジェトロとAmazonが日本の事業者の商品を特集するストア「JAPAN STORE」に参加しました。事業で提供されるウェビナーや講座からSEO対策や広告運用などのノウハウを得て、売り上げの増加につながったといいます。
また、ウェビナーをきっかけに、Amazon内のSNS「POST」への投稿に力を入れるようになりました。POSTではセールス色を抑え、販売している食品の用途やレシピ、商品の魅力や背景にあるストーリーの他、日本の文化など、より日本を身近に感じてもらう投稿を行いました。その結果、フォロワーや購入リピーターが増えたといいます。また、Amazonのイベント前や販促を強化したい商品があるときに集中的に投稿を行うことで、露出がさらに増えたそうです。
3)技能実習生を活用して現地進出を果たした事例:アーキテック(高知県)
アーキテックは建造物の防水加工や内装工事を行っています。同社はミャンマーで建築資材の防水加工を専門に行う企業がないことを知り、ミャンマーへの進出を考えるようになったといいます。
2017年に現地法人を設立後、新輸出大国コンソーシアムの支援を受けて、本格展開の準備を進めました。コンソーシアムの専門家からは、現地の法律や、ASEANでの商習慣などの助言を受けました。コンソーシアムの専門家の助言を受けて日系ゼネコンなどへのPR活動を行った結果、2018年11月から工業団地の工場の外壁工事や、ヤンゴン市内の学校およびホテルの工事の一部を受注できるようになったといいます。
人員体制の整備については、技能実習生として2015年から日本の本社で受け入れていたミャンマー人を活用しました。技能実習生としての勤務経験があるスタッフを雇用し、現地採用の人材の指導に当たってもらうことで、20人規模の運営体制を構築したといいます。元技能実習生を現地で雇用したことは、日本にやって来る技能実習生にとっても、やる気を引き出す効果があったようです。
4)特許戦略で海外展開の足掛かりを築いた例:アイマックエンジニアリング(東京都)
アイマックエンジニアリングは、プラント用機械の設計・製作を行っており、工場内で製作したユニットを現地で据え付けるだけで建設可能な新工法のノウハウを持っていることが強みです。
同社は2019年度に、新工法のノウハウを武器に、国内メーカーだけでなく海外メーカーとの取引も行うことを目指して、知的財産を活用した中小企業の海外展開をサポートする経済産業省の「戦略的知財活用型中小企業海外展開支援事業」に応募し、採択されました。
当初はライセンス供与による海外メーカーとの取引を計画しましたが、中小機構のアドバイザーと検討した結果、周辺特許を多数権利化する必要があることなどが判明し、PCT出願(国際特許出願)を行うことにしました。PCT出願は、特許協力条約(PCT)への加盟国の1カ国に、統一された出願書で特許を出願すると、全ての加盟国に特許出願したことになるものです。
2020年12月に日本での特許の権利化を達成し、2021年度までにアジアや欧米の9カ国で権利化の手続きを開始しました。同社は特許の権利化を足掛かりに、今後は海外展開を進めていく方針といいます。
3 海外展開の成功事例に関する情報源
1)ジェトロ「ジェトロ活用事例」
ジェトロでは、目的、分野、海外展開先などから、海外ビジネスの成功事例を検索できるようにしています。
■ジェトロ「ジェトロ活用事例」■
https://www.jetro.go.jp/case_study/
2)新輸出大国コンソーシアム「海外展開成功事例集」
ジェトロのウェブサイトでは、ジェトロが事務局を務める新輸出大国コンソーシアムによる支援を活用した、58社の事例を紹介しています。
■ジェトロ「新輸出大国コンソーシアム『海外展開支援活用事例集』をウェブサイトで公開」■
https://www.jetro.go.jp/news/releases/2022/0f885ee3faef4a45.html
また、同じく新輸出大国コンソーシアムを活用して海外展開に成功した、100社の事例も紹介しています。
■ジェトロ「新輸出大国コンソーシアム『海外展開成功事例集』をウェブサイトで公開」■
https://www.jetro.go.jp/news/releases/2019/48c3ea6f0bbe6a95.html
3)中小企業基盤整備機構「中小企業の海外展開入門」
中小企業基盤整備機構では、中小企業による「海外進出の取り組み事例一覧」をウェブサイト上で掲載しています。また、「事例集(中小企業庁編)」では、全国の中小企業支援機関による支援を受けて、海外展開を果たした事例を紹介しています。
■中小企業基盤整備機構「中小企業の海外展開入門」■
https://j-net21.smrj.go.jp/special/overseas/
4)国際協力機構「採択事業検索」
国際協力機構(JICA)では、中小企業への海外展開支援事業に関して、対象国、スキーム、公示年度などから過去の案件事例を検索できるようにしています。
■国際協力機構「採択事業検索」■
https://www2.jica.go.jp/ja/priv_sme_partner/index.php
5)日本商工会議所/東京商工会議所「ヒラケ、セカイ2」
日本商工会議所および東京商工会議所では、2018年1月に中小企業の海外展開事例集「ヒラケ、セカイ2」を発行しました。2016年10月に発行した第1弾に続く電子冊子で、16社の事例を紹介しています。
■日本商工会議所/東京商工会議所「ヒラケ、セカイ2」■
http://www.tokyo-cci.or.jp/page.jsp?id=112735
6)工業所有権情報・研修館 知財総合支援窓口「支援事例」
工業所有権情報・研修館では、ウェブサイト「知財総合支援窓口」において、知財面における「支援事例」を紹介したページの中で、代表的な海外展開支援事例を紹介しています。
■工業所有権情報・研修館 知財総合支援窓口「支援事例」■
https://chizai-portal.inpit.go.jp/supportcase/02.html#supportcase04
以上(2023年6月更新)
pj80101
画像:unsplash