書いてあること

  • 主な読者:経営環境の変化が激しい現在、与信管理をこれまで以上に徹底したい経営者
  • 課題:与信管理として具体的に何をしたらよいのか分からない
  • 解決策:取引開始後も与信管理を継続し、必要に応じて外部機関の情報も参考にする

1 取引先との良好な関係を築くために信用力調査を行う

取引の始まった頃は、あんなにも良好な関係だったのに、時間の経過とともに、少しずつ関係が悪化してしまうことがあります。ビジネスの条件について折り合わないような場合は仕方ないですが、売掛金の回収ができないなどとなると話は別です。

「何となく大丈夫だろう」と思っていたのに、実際に取引を始めてみると、取引先の経営状況が思った以上に悪く、早々に弁済猶予を求められてしまったなどということも珍しくありません。また、新型コロナウイルス感染症の拡大によって、オンラインでしか話したことのない相手と取引することもあります。取引開始時に取引先の信用力調査を、これまで以上に十分に行っておかないと、後で痛い目を見るのは自社であることを肝に銘じて、取引先と良好な関係を築いていくために、信用力調査を怠らずに行っていきましょう。

この記事では、取引先の信用力調査としてどのようなことを行えばよいのかを説明します。

2 取引開始前に行っておきたい取引先調査について

取引を開始するに当たって、今後良好な関係で取引を行っていくために行っておきたい調査事項として、以下のようなことが挙げられるでしょう。

1)取引先の代表者と面談し、会社の経営方針・取引先などを確認する

特に中小企業においては、代表者に実権が集中し、資金繰りなどを含む会社の経営実態を正確に把握しているのは代表者だけであることも少なくありません。そのため、会社の代表者と実際に面談し、経営方針や沿革・理念などを確認しながら、自社が継続的に取引をしていく会社として適切かどうかを見極めるとよいでしょう。

また、その際に、取引先にどのような属性(業種、会社規模など)の会社が多いのかなどを確認してその信用力を調査するとともに、債権の焦げ付きの可能性や支払いサイトがどのようになっているかなどもそれとなく把握できるとより良いでしょう。

2)営業担当者間で連絡を取る方法を確認しておく

些細な違和感が大きな問題の氷山の一角であることも少なくありません。そのため、気になることをすぐに確認できるように、会社の外線や直通番号だけでなく、営業担当者の携帯電話番号やSNS、LINEのアカウントなども確認しておくとよいでしょう。なお、会社によっては、業務上のやり取りをSNSやLINEで行うことが禁止されている場合もあるため、事前に確認しておきましょう。

3)信用調査サービスやインターネット上の情報から企業情報を取得する

会社の代表者との面談や営業担当者とのやり取りを通じて、ある程度は取引先の情報を取得することはできますが、例えば、取引金額が大きく、債権が焦げ付いてしまうと自社への影響が大きいため、信用調査に万全を期したいといった場合には、信用調査サービスを利用して企業情報を取得してみるとよいでしょう。これにより、会社の代表者との面談や営業担当者とのやり取りでは分かりにくい第三者から見た会社の現況や健全度が分かることがあります。

また、インターネットで会社名や会社所在地、代表者の名前などをGoogleなどで検索したり、会社登記簿を取得することによっても、会社の代表者との面談や営業担当者とのやり取りからは知り得なかった事実が分かるかもしれません。様々調べてみて、再度気になることを会社に確認してみるとよいでしょう。

3 取引継続を検討するために確認しておきたい取引先の信用力

 

会社の経営状況は日々変わります。そして、その変化は、小さな変化の積み重ねによって、やがて大きな変化になるということも少なくありません。

そのため、日ごろの取引先の担当者とのやり取りなどを通じて、取引先にどのような変化が起きているかなどを感じ取って、取引継続に支障が生じていないかを確認する必要があります。参考までに、以下のような事情があるかどうかは取引先の変化を察知する一つのきっかけになると思いますので、参考にしてください。

  • 日ごろ、担当者とは円滑に連絡が取れているか
  • 担当者が突然変わったり、定期的に退職者が出ていたりすることはないか
  • 取引先を訪問した際に、会社の雰囲気が変わっていないか
  • 納品や支払いが理由なく遅れることがないか
  • 取引先の事業計画、経営方針が大きく変わったりしていないか

4 取引先の信用力は定期的に調査しなければ意味がない

上述の通り、会社の経営状況は、社会情勢などにより日々大きく変わり得るものですので、取引先の信用力も、現在と6カ月前、6カ月後で大きく変わっている可能性があります。

そのため、取引開始時にきちんと調査をしたから当面大丈夫だろうと思っていても、例えば、大口の取引先の債権が焦げ付いて、一気に財務状況が悪化することもあります。こういったことをいち早くキャッチして、今後も取引先への支援という意味合いも込めて、取引を継続するのか、それとも取引を抑えたり、停止したりするのかを検討する必要があるでしょう。

このように、取引先の信用力の調査は一度行うだけでは意味がなく、取引を継続している間は定期的に行う必要があります。売り上げや取引が増加しても、その代金をきちんと支払ってもらわなければ、意味がありませんので、取引先の信用力を開始前から継続的に調査をしながら取引を行うことを心掛けるようにしましょう。

以上(2021年9月)
(執筆 竹村総合法律事務所 弁護士 松下翔)

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画像:Mariko Mitsuda

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