書いてあること
- 主な読者:最新法令に対応し、運営上で無理のない会社規程のひな型が欲しい経営者、実務担当者
- 課題:法令改正へのキャッチアップが難しい。また、内規として運用してきたが法的に適切か判断が難しい
- 解決策:弁護士や社会保険労務士、公認会計士などの専門家が監修したひな型を利用する
1 役員規程とは
株式会社における役員とは、取締役、会計参与および監査役のことです(会社法第329条第1項)。役員が一定の規律の下でその役割を遂行していくためには、報酬や執務条件などをまとめた役員規程が必要です。役員規程の作成は法令で義務付けられていませんが、トラブルの未然防止などの観点から作成しておくのが望ましいです。注意点は、会社法などの関連法令や定款の定めなどと整合性を取ることです。最後に、「役員規程の作成で押さえておきたい会社法の事項(一部)」をまとめているので参考にしてください。
2 役員規程のひな型
各役員の有無などは会社の機関設計によって異なりますが、本稿では取締役会および監査役設置会社を想定し、一般的な内容の役員規程のひな型などを紹介します。実際にこうした規程を作成する際には、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。
【役員規程のひな型】
第1章 総則
第1条(目的)
1)本規程は、役員の就任・退任・執務条件・役員報酬などに関する基本的事項について定めるものである。
2)本規程に定める事項以外については、会社法などの各種法令、定款、株主総会および取締役会の決議に従うものとする。
第2条(役員の定義)
本規程における役員とは、株主総会で選任された取締役および監査役のことをいう。
第3条(役員の職位)
役員の職位は、次の各号の通りとする。
- 取締役会長
- 取締役社長
- 取締役副社長
- 専務取締役
- 常務取締役
- 取締役
- 監査役
第4条(適用範囲)
本規程は、原則として常勤役員に適用する。ただし、必要があるときは、本規程の一部を非常勤役員に準用することがある。
第2章 選任・就任
第5条(役員の選任)
1)役員は、株主総会の決議によって選任される。
2)株主総会に提出する役員選任に関する議案の内容として、当会社が提案する役員候補者は、取締役会により決定する。ただし、監査役である役員については、取締役会は、監査役の過半数の同意を得た上で監査役候補者を決定する。
3)第2項の取締役会の推薦を得ようとする者は、法令および定款に定める役員の要件を備えている者でなければならない。
第6条(就任の承諾)
株主総会において役員として選任され、かつ役員に就任することを承諾した者は、速やかに役員就任承諾書を会社に提出しなければならない。
第7条(役員の就任日)
役員の就任日は、役員就任承諾書を会社に提出した日とする。
第8条(役員の任期)
役員の任期は、取締役については、選任後2年以内に終了する事業年度のうち、最終のものに関する定時株主総会の終結のときまで、監査役については、選任後4年以内に終了する事業年度のうち、最終のものに関する定時株主総会の終結のときまでとする。
第3章 退任
第9条(役員の退任)
役員は、次の各号のいずれかに該当するときは退任となる。
- 任期満了
- 辞任
- 解任
- 定年
- 死亡
- 資格喪失
第10条(辞任)
1)役員を辞任する場合は、6カ月前までに会社に届け出なければならない。
2)役員を辞任する場合は、業務の引き継ぎを完了しなければならない。
第11条(解任等)
1)役員の解任は、株主総会の決議によって行う。
2)取締役会は、役員として適性を欠くと判断した場合には、当該役員に対して辞任勧告を行うことができる。
第12条(資格喪失)
役員に、会社法または定款に定める欠格事由が生じた場合には、その資格を喪失する。
第4章 定年
第13条(定年)
1)役員の定年は、原則として次に定める通りとする。
- 取締役会長:○歳
- 取締役社長:○歳
- 取締役副社長:○歳
- 専務取締役:○歳
- 常務取締役:○歳
- 取締役:○歳
- 監査役:○歳
2)任期中に第1項の定年年齢に達した場合には、任期満了日まで定年を延長するものとする。
第14条(退任後の処遇)
1)退任する役員が、在任中、特に会社に対して貢献がある場合、会社は当該役員に相談役を委嘱することができる。
2)相談役の委嘱は、取締役会決議によって決定する。
3)相談役の任期は1年とする。
第5章 執務条件
第15条(執務時間)
1)執務時間は、別途定める「就業規則」(省略)第○条~第○条の定めに準じる。
2)第1項に定める時間帯に職務を執行できない場合でも、業務に支障が生じないように配慮しなければならない。
第16条(休日・休暇)
1)休日・休暇は、別途定める「就業規則」(省略)第○条~第○条の定めに準じる。
2)休日・休暇の際には、常に会社と連絡を取れるように努めなければならない。
第17条(会社への届け出)
第15条第1項に定める時間帯に職務を執行できない場合、および休暇の取得に際しては、事前に会社に届け出なければならない。ただし、緊急時などやむを得ない場合は、事後の報告で足りるものとする。
第6章 責務
第18条(役員の責務)
役員は、職務執行に当たって、次の各号の事項を遵守しなければならない。
- 法令・定款・社内規程、株主総会の決議、取締役会の決議に従って職務を遂行すること
- コンプライアンスに対する高い意識を持って適正に職務を遂行すること
- 善良なる管理者としての注意義務を守り、忠実にその責務を果たすこと
- 所轄する部門や業務を統括し、他部門との連携・協調に努めること
第19条(取締役の責務)
取締役は、職務執行に当たって、次の各号の事項を遵守しなければならない。
- 取締役会に出席して、職務執行状況について報告すること
- 会社に著しい損害を及ぼす恐れのある事実があることを発見したときは、直ちに、当該事実を監査役に報告すること
- その他、法令などで定められている事項を適切に遂行すること
第20条(監査役の責務)
監査役は、職務執行に当たって、次の各号の事項を遵守しなければならない。
- 取締役の職務執行を監査し、法務省令で定めるところにより、監査報告を作成すること
- 取締役が不正の行為をし、もしくは当該行為をする恐れがあると認めるとき、または法令もしくは定款に違反する事実もしくは著しく不当な事実があると認めるときは、遅滞なく、その旨を取締役会に報告すること
- 取締役会に出席し、必要があると認めるときは意見を述べること
- その他、法令などで定められている事項を適切に遂行すること
第21条(禁止および制限事項)
1)役員は、次の各号に定める事項をしてはならない。
- 職務上の地位を、手数料・リベートなどの収受のために利用すること
- 個人のために、会社の金品を使用したり、従業員を使用したりすること
- 会社の名誉や利益を毀損する行為をすること
2)取締役は、次の各号に定める事項に該当する場合は、取締役会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。
- 取締役が、自己または第三者のために会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき
- 取締役が、自己または第三者のために会社と取引をしようとするとき
- 会社が、取締役の債務を保証するとき
- その他取締役以外の者との間において、会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき
第22条(機密保持)
1)役員は、職務上知り得た会社の機密情報を、正当な理由なく社内外に漏洩してはならない。
2)第1項の規定は、役員退任後も遵守しなければならない。
第23条(賠償責任)
1)役員が、その任務を怠ったことによって会社に損害を与えた場合、会社に対して、その損害を賠償する責任を負う。
2)前項に定める責任は、役員退任後も免れない。
第7章 役員報酬および退職慰労金
第24条(役員報酬に関する事項)
1)役員報酬は、株主総会の決議で総額を決定し、具体的な配分は、取締役については取締役会、監査役については監査役の決議によって、それぞれ決定するものとする。
2)支給方法などは、別途定める「役員報酬規程」(省略)に定めるものとする。
第25条(役員退職慰労金に関する事項)
1)退任する役員に対しては、株主総会の決議により、役員退職慰労金を支給する。
2)支給方法などは、別途定める「役員退職慰労金規程」(省略)に定めるものとする。
第8章 雑則
第26条(改廃)
本規程の改廃は、取締役会において行うものとする。
附則
本規程は、○年○月○日より実施する。
3 役員規程の作成で押さえておきたい会社法の事項(一部)
役員規程の作成で押さえておきたい会社法の事項(一部)は以下の通りです。あくまで主な事項と当該事項に関連する主な条文のみを紹介したものであって、これら以外にも多くの事項が会社法において定められています。また、定款の定めは、各社によって異なるため、役員規程作成の際は注意しましょう。
以上(2024年2月更新)
(監修 TMI総合法律事務所 弁護士 池田賢生)
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