書いてあること

  • 主な読者:患者とのトラブルを危惧する医療従事者
  • 課題:患者からクレームがあったときの対応が定まっていない
  • 解決策:患者に適切な対応をとるとともに、防止策も検討する

1 医療施設における患者トラブル

高齢化が進み、治療や介護などで医療施設を利用する人が増えています。それに伴い、これまではトラブルにならなかった些細なことが、例えば「これは医療ミスではないか」などといった患者からのクレームにつながるケースが増えています。

トラブルと一言でいっても、治療行為そのものに関するクレームから、「治療内容についてしっかりと説明を受けていない」「治療費に納得がいかない」「処方された薬でアレルギー反応が出た」など、その内容はさまざまです。患者の多くは、健康や生命に不安を感じており、早く身体を治したいという強い願望を抱いています。その思いが強い分、医療従事者との些細なコミュニケーション不足などが原因で、根深い不信感を招き、トラブルに発展するケースが少なくありません。

2 患者が抱く不満

厚生労働省「平成29年受療行動調査の概況」によると、外来患者および入院患者の病院に対する項目別の満足度(2017年)は次の通りです。

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外来患者の不満では「診療までの待ち時間(26.3%)」という回答が上位となっています。また、入院患者の不満では「食事の内容(15.9%)」「病室・浴室・トイレなど(10.2%)」という回答が上位に挙がっています。こうした不満が基でトラブルに発展する恐れが大きいと考えられます。

3 患者からのクレームへの対応

医療施設や医療従事者は、次の2つの考え方を持つことが重要となります。

  • 患者とのトラブルを未然に防止する
  • トラブルに発展してしまった患者に対して適切な対応をとる

「患者とのトラブルを未然に防止する」ために必要なのは、患者の不満に気付く努力をすることです。例えば、「患者向けアンケート調査の実施」「投書箱の設置」などによって、患者の意見を幅広く集めていきます。その結果、アンケートでの評判が良くない医療従事者に対して改善を求めたり、評判が良い医療従事者を表彰したりすることもできます。

患者へのアンケートでは、「病院にどのような対応を求めるか」「これまで診療を受けた病院で最も印象に残っているサービスはどのようなものか」といった、医療施設そのものに対する患者の意識調査を実施し、患者の生の声に基づいて施設や運営、サービスなどを見直すことも効果的です。

「トラブルに発展してしまった患者に対して適切な対応をとる」ために必要なのは、クレームの内容・要求が正当かを見極めることです。必要以上に患者とのトラブルを恐れるあまり、結果的に無理な依頼を受けてしまったりすると、かえって問題をこじらせてしまうことがあります。クレームの内容が正当かつ要求も正当であれば、誠意をもって対応し、場合によっては謝罪することも求められます。逆に、クレームの内容が不当かつ要求も不当であれば、毅然とした態度で臨む必要があるでしょう。

もし、クレームの内容は正当であっても、それに対する要求が不当な場合は、慎重に対応しないと大きなトラブルに発展しかねません。このような場合は、その場で即答することを避け、組織として対応するようにしましょう。

4 医療メディエーション

メディエーションとは、紛争の当事者に対して、メディエーターと呼ばれる第三者が相互の対話を促し、それによって当事者が自主的に紛争を解決していくものです。

「医療メディエーション」は、患者と医療従事者との対話不足を解消することを重視し、相互の不信感の払拭を目指すものです。

2012年の診療報酬改定で「患者サポート体制充実加算」が新設され、医療施設には、患者相談窓口を設置し、患者やその家族からの相談の受け付けや、医療従事者との話し合いの場を作る「医療対話推進者」として専任の看護師などを配置すること、患者支援のマニュアル作成、医療従事者への研修実施など、相談体制の整備が求められています。

こうした中、日本医師会、日本医療機能評価機構などの団体が医療メディエーター研修(医療対話推進者養成研修)を実施しています。医療メディエーターは、公的な資格ではありませんが、患者と医療従事者が向き合う場を設定し、対話を促進することを通して関係の再構築を支援する人材です。

5 ADRの活用

ADR(Alternative Dispute Resolution:裁判外紛争解決手続)とは、訴訟手続きによらずに民事上の紛争の解決をしようとする当事者のため、公正な第三者が関与して、その解決を図るものです。

ADRは、「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」に基づく手続きです。同法では、ADRについて、民間事業者が行う調停、あっせんなどの和解を仲介する業務を対象として、それが法律に定められた基準・要件に適合している場合に法務大臣が認証する制度を設けています。認証された民間事業者の手続きを利用した場合には、一定の要件の下に時効中断などの法的効果が認められるなど、その利便性が高められています。

刑事事件ではない場合、患者が医療施設・医療従事者を相手取って裁判で法的責任を追及するには結審するまで3~4年かかるといわれています。ADRは、半年程度での和解成立を目指すもので、裁判と比べて費用の負担が少ないというメリットがあります。

また、裁判では、原告・被告に分かれて責任のなすり合いをして、結審後にも遺恨が残りがちですが、ADRは、医療施設・医療従事者と患者の対話の場としても期待されています。

■法務大臣による裁判外紛争解決手続の認証制度「かいけつサポート」■
http://www.moj.go.jp/KANBOU/ADR/

医療施設・医療従事者向けのADRに関しては、日本弁護士会連合会が各地の弁護士会医療ADRを紹介しています。

■日本弁護士連合会「医療ADR」■
https://www.nichibenren.or.jp/activity/resolution/adr/medical_adr.html

6 患者トラブルへの対応に関する相談先

各地にある医師会、保険医協会、看護協会などでは、研修会を実施するなど、患者トラブルへの対応に関する取り組みを進めているところも少なくありません。

この他、本格的にトラブルに巻き込まれた場合、暴力行為や威力業務妨害など刑事事件の可能性があれば所轄の警察に相談するとよいでしょう。また、弁護士会を通じて、医療施設に関連したトラブルの案件に精通した弁護士を紹介してもらうのもよいでしょう。

以上(2019年5月)

pj60090
画像:pixabay

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