「ABテスト」というマーケティング手法があります。例えば、インターネットサイトにイベントの「申し込みボタン」を設置するとしましょう。その際、赤いボタンと青いボタンを用意して、どちらの色のボタンがより多く押されるのかを計測します。仮に赤いボタンが多く押されたら、次は人気のなかった青いボタンの代わりに黄色いボタンを設置し、再び赤いボタンと競わせます。これを繰り返すことで、“お客様が押したくなる色”がだんだん分かってくるということです。実際のABテストでは、ボタンの位置や文言などさまざまな条件を組み合わせてPDCAを回し続け、最適な申し込みボタンを見つけていきます。
この例で私が皆さんに伝えたいのは、「最初から、最適な申し込みボタンの色を知っている人はいない。つまり、完成形から始められるビジネスはない」ということです。
ところが皆さんは、失敗を恐れて、初めから完成形を探し求めます。もしかすると、上司の皆さんも「本当にそれで成功できるのか?」などと部下に詰め寄っているかもしれません。しかし、そうしたやりとりに、意味はあまりないでしょう。なぜなら、誰にも完成形は見えていないからです。
とはいえ、とにかく始めようと無策で飛び出すのも問題です。勢いだけのビジネスは、ほぼ失敗するからです。では、どうするのがよいか。それは、「答えを知っている人」に聞いてみればよいのです。
皆さんが好きな色を心に思い浮かべてください。その色を好きなことを知っているのは誰ですか。家族、友人、恋人、同僚など皆さんと親しい人なら知っているかもしれません。この他に知り得る人がいるとすれば、皆さんに「何色が好きですか?」と質問してきた人でしょう。
よく「答えはお客様が持っている」と言いますが、まさにこうした状況を指しているわけです。もちろん、社長である私や上司は、過去の経験や収集した情報を基に指示します。しかし、それはABテストで試される一色を示しているに過ぎません。皆さんはお客様に恐れず質問して答えを聞き、PDCAを回さなくてはなりません。
この活動を継続的に行っていると、皆さんに知見が蓄積されていきます。しかし、その半面、“おごり”も発生します。皆さんは、「自分の考えとお客様のニーズが異なるとき、お客様のほうが間違えている」と考えてしまいがちです。こうした考えを改めるには、謙虚な心を持つしかありません。昭和の歌姫である美空ひばりさんは、『リンゴ追分(おいわけ)』を歌う際の息継ぎについてアドバイスを受けた際、素直にそれを聞き入れました。そして、お客様からより多くの拍手をもらえる息継ぎの歌い方を選んだといいます。
経験は重要ですが、“おごり”はいけません。周囲の声に常に耳を傾け、その内容をPDCAに柔軟に組み込むことができる組織こそが、お客様に選ばれるのです。
以上(2019年1月)
pj16943
画像:Mariko Mitsuda