書いてあること

  • 主な読者:労働条件の不利益変更をオンラインで行いたい経営者
  • 課題:対面との違いが分からない。それに、オンラインだときちんと伝わるか不安
  • 解決策:基本ルールは同じ。オンラインの「伝わりにくさ」を考慮して慎重に進める。必要に応じてWeb会議ツールや電子契約書ソフトを使用する

1 オンラインの「労働条件の不利益変更」は慎重に

「業績が悪化したので、基本給を引き下げる」「ジョブ型の人事制度にするので、仕事との関係性が薄い手当(住宅手当など)を廃止する」。会社には十分な理由があってのことでも、

社員から見ると損をするような労働条件の変更を「労働条件の不利益変更」

と呼びます。労働条件の不利益変更には、

  • 個々の社員の同意を得た上で、「就業規則」や「労働契約」を変更するのが原則
  • 就業規則については、合理的な変更であれば、個々の社員の同意を得なくても変更可

というルールがあります。労働組合がある会社の場合、「労働協約」の変更で対応することもできますが、中小企業で労働組合が組織されているケースは少ないため、ここでは割愛します。

特に注意すべきは「リモートワークをしている会社」です。オンラインで就業規則や労働契約の変更手続きを進める場合、

  • 通信環境が悪く、肝心の変更箇所がうまく社員に伝わらない
  • Web会議ツールの仕様で、労働条件について質問をしたがっている社員が見えにくい

といった理由から会社と社員の意思疎通がうまくいかないケースがあります。以降で、オンラインでの変更手続きのポイントを紹介しますので、確認していきましょう。

2 オンラインでの変更手続きのポイント

1)Web会議ツールを使って社員説明会を行う

オンラインで就業規則や労働契約を変更する場合、Web会議ツールなどを使って社員説明会を開催し、変更箇所やその理由の説明、質疑応答を行います。通信環境の問題などで内容がうまく社員に伝わらないことがあるので、

  • 事前に新旧対照表などのデータを配布し、社員説明会ではそれを「画面共有」しながら説明する
  • 社員が質問のタイミングをつかめないと困るので、質疑応答の時間を設ける(「チャット」の機能を使うのもよい)
  • 通信環境の都合で社員がツールから「落ちる(離脱する)」ことがあるため、社員説明会の内容を「レコーディング」して、後から内容を確認できるようにする

などして対応します。

また、質疑応答で反対意見や批判的な意見が出た場合、「なぜ、就業規則や労働契約の変更が必要なのか」を改めて丁寧に説明します。必要に応じて、個別の説明も行いますが、その場合、1対1ではなく、会社側から複数人が参加して「言った/言わない」の問題が生じるのを防ぎます。

2)電子契約書ソフトを使って社員の同意を得る

就業規則の不利益変更を行う場合、可能であれば「就業規則変更に関する同意書」を会社側が用意し、社員に署名捺印してもらって個別の同意を得ます。しかし、リモートワークをしている場合、書面で同意を得るのが手間です。

こうした場合、電子契約書ソフトで電子署名をしてもらうのが現実的です。一般的には、

  • 会社は、同意書などをPDFにして電子契約書ソフトにアップロードし、電子署名をする欄を設けた上で、各社員のメールアドレス宛てに送信する
  • 社員は、電子契約書ソフトからメールが届いたら、メールに記されたURLから同意書にアクセスして電子署名をする

という流れになります。

電子署名がされた書面は電子契約書ソフト内に保管されます。なお、電子契約書ソフトは、書面を用意する会社側のPCでのみ導入すればよく、社員側は特段の手続きは必要ありません。

3)e-Govを使って変更後の就業規則を電子申請で届け出る

就業規則を変更した場合、変更後の就業規則に就業規則(変更)届出書、過半数代表の意見書(社員の過半数で組織する労働組合がない場合)を添えて、所轄労働基準監督署に届け出なければなりません。

これらの書面は、「電子政府の総合窓口(e-Gov)」を使用できる環境にあれば、直接所轄労働基準監督署に行かなくても、電子申請で届け出ることができます。電子申請の手続きで使用できるアカウントは、次のいずれかです。

  • e-Govアカウント(e-Govのウェブサイト上で取得できるアカウント)
  • GビズID(行政サービス全般にログインできるアカウント)
  • Microsoftアカウント

なお、e-Govから電子申請を行う場合、手続きの内容によっては、会社の電子署名と電子証明書(所定の認定局に申請)が必要になるケースがありますが、

2021年4月1日以降、就業規則の届け出については電子署名と電子証明書が不要

となっています。

4)電子契約書ソフトを使って雇用契約書を再締結する

雇用契約書の再締結も、電子契約書ソフトを使います。雇用契約書は「労使の合意」という形を取りますので、会社側、社員側双方が電子契約書ソフトを経由して署名捺印をします。

雇用契約書を再締結する際は、従前の契約書が変更されたことが明確になるよう、

「従前の雇用契約書を合意解約し、〇年〇月〇日以降の労働条件は本雇用契約書による」

などの文言を、備考欄に必ず入れましょう。

なお、雇用契約書は必ずしも書面で保管する義務はありません。しかし、労使間でトラブルが発生した場合に雇用契約書は重要な証拠書類となるので、

電子契約書ソフト内の他、経営者や人事部だけがアクセスできるクラウドストレージなどにもバックアップ

しておきましょう。

以上(2022年10月)
(監修 社会保険労務士 志賀碧)

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画像:pixabay

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