書いてあること

  • 主な読者:管理会計を取り入れたい中小企業の経営者、経理担当者
  • 課題:管理会計を導入するためには、新たな会計システムが必要だと感じている
  • 解決策:管理会計の導入段階では、現時点の財務会計システム上の勘定科目の調整や補助科目を使うことで、十分に対応できる

1 管理会計システムはなくてもいい

管理会計の実務に関して、「管理会計システムは必要ですか」、あるいは「どの管理会計システムがお薦めですか」などの質問をよくいただきます。

いずれの質問に対しても、「新たな管理会計システムを導入することは必須ではありません。どれがいいかも会社の管理会計の段階や課題次第です」とお答えしています。自社の管理会計で見るべき視点や項目が固まっていない段階でシステムを導入することは、むしろ業務を混乱させる原因になりかねないからです。お金やリソースが不十分な場合は特に、既存のシステムを活用することをまず考えるようにしてください。

なお、自社の管理会計で見るべき視点や項目については、以下のコンテンツをご参照ください。

2 会計システムをフル活用しよう

多くの会社では、お金に関する情報の全てが記録される会計システムが使われていることでしょう。このシステムを管理会計目的に活用することができます。例えば、損益計算書(以下「PL」)の月次推移は、ほとんどの会計システムで標準的な帳票として用意されています。

中小企業が管理会計においてまず取り組んでほしいのは、過去のデータが使える形で、すぐに用意できるように仕組みを整えることです。それができて初めて、予算や業績見込みといった将来の数値にも範囲を広げることが可能になります。

そのためには、まず会計情報を保管する際に使っている会計システムを、自社仕様にカスタマイズすることで、自社に有用なデータを整備するようにしましょう。

3 売上を勘定科目に分ける

会計システムには勘定科目を設定するので、この設定の仕方次第で管理会計の分析にさらに役立ちます。

第3回で売上の中身を区分することについて詳しく紹介しましたが、その区分ごとに勘定科目を用意するのもいいでしょう。例えば、流通業ならば「卸売売上」「小売売上」など、飲食業ならば「持ち帰り売上」「店内飲食売上」などといった感じです。PLにこれらの数字が記載されますので、経営者と話すときにも別資料を用意する必要がありません。売上は会計的には1つの勘定科目としてPLに記載されていることが多いですが、現場に合った複数の勘定科目を用いる対応は経営者にも分かりやすくなります。また、各種の数字の内訳が会計システム内に保管されていれば、過去の分も遡って確認できたり、売上などの推移表も出しやすかったりと、データ管理の点からも有用です。

4 費用は補助科目を使って月次推移を確認する

費用は、内容別に補助科目を設定するのもいいでしょう。例えば、交通費が多額であり、気になるのであれば、電車、タクシー、ガソリン、有料道路といった内容ごとに補助科目を設定します。そうすれば、補助科目別の残高を会計システムから出力することが容易になります。そうしないと、仕訳をしてから、(バラバラな)摘要欄を確認しつつ手作業で集計することになってしまいます。そこで、重要な勘定科目、高額な勘定科目、興味がある勘定科目については、あらかじめ補助科目を設定するとよいでしょう。

補助科目を月次推移表で確認すると、仕訳の起票漏れなどが見つかることがあります。管理会計だけではなく、経理業務上のミスを発見する効果もあり一石二鳥です。

5 事業部門の設定も有益。ただし、“コスパ”には注意

複数の部門がある場合は、事業部門コードを活用するのも1つの手です。例えば、営業部門の中に、営業1課と営業2課に分かれているなら、それぞれの利益を把握するために事業部門を設定し、伝票を事業部門ごとにします。

管理会計では、これを「部門別損益管理」といいます。売上や売上原価といった把握しやすいものだけでなく、人件費や交通費なども個別に把握することで、事業部門ごとの実態が分かります。ただし、管理部門(経理部や総務部)の共通費用の扱いなど細かい決め事も発生するので、実施前にコストパフォーマンスを慎重に検討するようにしてください。

6 設定を工夫すれば、現場への確認も減る

勘定科目や補助科目の内容が分かるようにすることで、What(何に)お金を使ったのかが明確になります。同時に、事業部門を設定することで、Who(誰が)使ったのかが明確になります。そうすると、現場への確認は、「Why(なぜ)使ったのか」が中心になるはずです。「誰が何に使ったのか」について現場に確認することが減れば、現場の負担は軽減されます。

7 エクセルなど、まずは身近にあるものを徹底活用しよう

エクセルなどをうまく使うことも重要です。例えば、よく使う資料は、会計システムからあらかじめダウンロードして、使いやすい形でエクセルに保管しておくのもいいでしょう。急ぎで資料を提出しなければならないときも手間が省け、またミスを減らすことができます。

会計システムやエクセルといった「ありもの」の使い慣れた仕組みをまずは活用することで、管理会計への取り組みを始めてみましょう。そうすることで、数字の分析や経営者への説明に時間やエネルギーを割く余裕が生まれます。

以上(2024年6月更新)
(執筆 管理会計ラボ株式会社 代表取締役 公認会計士 梅澤真由美)

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画像:pixabay

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