書いてあること
- 主な読者:「合同労働組合」(以下「ユニオン」)から団体交渉の申し入れがあった際、落ち着いて対応したい経営者
- 課題:中小企業の多くは労働組合を持たないため、団体交渉に不慣れである
- 解決策:専門家(弁護士や社会保険労務士)に交渉のポイントをヒアリングする
労働者が労働組合を結成し、労働条件の改善などを求めて使用者側と交渉を行うことを「団体交渉」といいます。「ウチには労働組合がないから、団体交渉とは無縁だ」と思ったら大間違いです。「ユニオン」といって、所属する企業に関係なく、個人単位で加入できる労働組合があるのです。
解雇、ハラスメント、賃金未払いなどの労働トラブルが発生すると、中小企業の社員がユニオンに駆け込み、そのユニオンが団体交渉という形で、企業に対し解雇の撤回などを求めてくることがあります。中小企業の経営者は、団体交渉に不慣れかもしれません。そこで、本稿ではユニオンから団体交渉の申し入れが来たときの対応のポイントを紹介します。
Q1 そもそもユニオンって何?
企業ごとに組織され、その企業の社員のみを組合員とする労働組合を「企業別労働組合」と呼びます。大企業で組織されることがほとんどで、中小企業で組織されることは少ないです。ユニオンは、こうした企業別労働組合を持たない中小企業の社員などが、所属する企業に関係なく、個人単位で加入できる労働組合です。
ユニオンの種類はさまざまで、全国規模で活動し、業種や雇用形態に関係なく加入できるものもあれば、特定の地域のみで活動し、特定の業種や雇用形態(パート、派遣社員など)の社員のみが加入できるものもあります。
ユニオンは、企業別労働組合と同様、労働組合法に基づき、団体交渉などの組合活動を行います。団体交渉の内容は、解雇、ハラスメント、賃金未払いなどの労働トラブルに関するものが多く、賃上げなどの待遇改善に関するものは少ないようです。
Q2 なぜ今、ユニオンへの対応が必要なの?
新型コロナウイルス感染症の影響で解雇や雇止めをされた労働者は増え続けており、2020年9月11日現在で累計5万4817人(見込み数を含む)に上ります。社員も、万が一解雇や雇止めをされたときのために情報を集めており、その過程でユニオンに行き当たる可能性があります。特に昨今は、スマホから無料で相談できるオンライン形式のユニオンなどが登場しており、相談のハードルが下がってきています。
解雇や雇止めが現状発生していないという企業も油断はできません。例えば、感染対策としてリモートワークを実施している企業では、労働時間を把握しにくいために賃金未払いが発生することがあります。リモートワークの“過渡期”は我慢していた社員も、いつまでたっても状況が改善されないようであれば、ユニオンに駆け込むかもしれません。
Q3 どうして社員はユニオンに駆け込むの?
一般的には、企業の処分(解雇など)や対応(ハラスメントの相談に応じてくれないなど)に不満のある社員が、「企業と直接話し合ってもらちが明かない」と、ユニオンに駆け込みます。
ユニオンの中には、担当する団体交渉の内容や実際の活動報告を組合ウェブサイトなどに掲載しているところがあり、労働トラブルに悩む中小企業の社員などは、こうした媒体を通じてユニオンに相談に行き、加入しているようです。
また、ユニオンに加入するには、組合費(月額数百円から数千円程度)を定期的に支払う必要があります。弁護士に依頼するよりも廉価に労働トラブルを解決できる可能性があるため、収入面に不安のある社員などが、弁護士の代わりにユニオンを頼るケースがあります。
この他、経営者に近い地位にいる管理職などが経営者とトラブルになり、社内に相談できる人間がいないために、ユニオンに加入するケースもあります(管理職向けのユニオンも存在します)。
Q4 ユニオンから団体交渉の申し入れがあったら?
社員がユニオンに加入すると、社員から事情を聞いたユニオンから企業に対し、「団体交渉申入書」が送付されます。通常は郵送やFAXで送付されてきますが、企業の交渉窓口担当者宛てに「団体交渉申入書」を添付したメールが送られてくるケースもあるようです。
団体交渉申入書の書式はユニオンによって異なりますが、その内容はおおむね次の通りです。
- 団体交渉の日時・場所(企業側で決定するよう求められることもあります)
- 要求内容(解雇の撤回、ハラスメントへの補償、未払い賃金の支払いなど)
- ユニオンの連絡先
- 回答の期限
企業は正当な理由なく団体交渉を拒否することができません。例えば、「団体交渉申入書が届いていることを知りながら放置する」ことは許されません。
団体交渉申入書が企業に届いたら、まず回答の期限を確認します。期限は「団体交渉申入書の到着から7〜10日程度」など、短いのが通常です。団体交渉に臨む前に、要求内容に関連する書類を集めるなどの事前準備が必要なため、次はユニオンに回答の期限の延長を依頼します。
具体的には、「回答書」という書面(書式は任意)で「期限までに回答することが難しい」ことをユニオンに伝えます。要求内容によって、団体交渉の事前準備にかかる時間が異なるため、「いつまでに回答するか」は具体的に記載せず、「めどが立ち次第、回答する」程度にとどめておくのが無難です。
回答の期限の延長を依頼したら、次のようにユニオンの要求内容に関連する書類を集めます。
- 解雇:解雇理由証明書、就業規則(解雇事由に関する部分)のコピーなど
- ハラスメント:ハラスメントの事実確認を行っている場合、記録のコピーなど
- 賃金未払い:賃金台帳、タイムカードのコピーなど
上の書類は一例であり、労働トラブルの内容によって必要な書類が異なります。実務では、弁護士や社会保険労務士などの専門家に、必要な書類について相談するのが無難です。書類集めが終了し、団体交渉の準備が整ったら、再度回答書を作成し、団体交渉の日時・場所などをユニオンに連絡します。
Q5 団体交渉の日時・場所などはどうする?
団体交渉申入書には、団体交渉の日時・場所が記載されていることがありますが、企業には、団体交渉申入書の内容に従う義務まではありません。また最近は、日時・場所について、企業側で決定するよう求めてくるユニオンも多いようです。そこで、回答書に記載する団体交渉の日時・場所などのポイントを見ていきましょう。
1)日時
日時については、要求内容に関連する資料など団体交渉の準備が整っており、同席を求める場合は、弁護士や社会保険労務士などの専門家の都合のよい日程を選択するのがよいでしょう。
2)場所
場所については、外部の貸し会議室などを選択する企業が多いようです。企業のオフィスやユニオンの組合事務所を選択すると、いつまでも交渉が終わらないケースがありますが、外部の貸し会議室であれば、交渉の時間を区切ることができるからです。貸し会議室の利用料は、企業負担となることが多いようです。
なお、最近では、新型コロナウイルス感染症予防の観点から、貸し会議室などを利用せず、チャットツールなどを使ってオンラインで団体交渉を行うケースも少なくありません。
3)出席者
出席者については、経営者のように、ユニオンの要求内容に関する決定権限を持つ人が出席しないようにします。団体交渉の場で、要求内容の即時決定を求められないようにするためです。交渉役として適任なのは、人事労務担当者など、事情を理解していて交渉を進める能力はあるが、要求内容に関する決定権限を持たない人です。
また、交渉は2人以上で臨み、1人が交渉役、1人が書記を担当し、交渉役が話し合いに集中できるようにします。交渉に不安がある場合は、弁護士や社会保険労務士などの専門家に同席してもらうのもよいでしょう。
ただし、弁護士以外の専門家が企業に代わって交渉を行うことは非弁行為に当たるため、社会保険労務士などがユニオンと交渉することはできません。社会保険労務士などが同席する場合、受けられるサポートは企業の担当者への指導・アドバイス、情報提供などに限定されます。
Q6 団体交渉の流れは?
団体交渉当日、交渉役は団体交渉申入書のコピー(またはユニオンの要求内容が分かるもの)、要求内容の関連書類を持参します。この他の書類として、ユニオンから事前に就業規則のコピーなどを持ってくるよう求められる場合がありますが、直ちに応じる義務はないため、弁護士や社会保険労務士などの専門家に相談して対応を決めましょう。
団体交渉には、企業とユニオンが事前に選出した人間が出席します。なお、ユニオン側はユニオンの交渉役と、社員本人が出席するのが通常です。
団体交渉は1回で終了することもありますが、企業もユニオンの要求全てに同意できるわけではないため、通常は何回か交渉を重ねて落としどころを見つけることになります。
例えばハラスメントの場合、ユニオンから企業に対して、社員に対する謝罪を求める傾向があります。しかし、ハラスメントに該当するかの法的判断は難しいものです。ここで安易に謝罪してしまうと、ユニオンは「企業がハラスメントを認めた」ことを活動報告などで発表するため、企業のイメージ失墜につながる恐れがあります。
一概には言えませんが、ハラスメントに当たるかが法的に明らかでない場合などは、「意図せず社員を傷つけた」という理由で、金銭を支払って決着させるのが妥当なケースもあります。
交渉のポイントは、企業がある程度ユニオンに歩み寄る姿勢です。例えば、交渉が何回目かに及んだ段階で、可能な範囲でユニオンの要求に応じる姿勢を見せると、ユニオンもある程度譲歩してくれることがあります。落としどころが見つかれば、団体交渉は終了し、企業は交渉結果の内容に基づく対応(上のハラスメントの例であれば、金銭の支払いなど)を取ります。
一方、何度交渉を重ねても、企業とユニオンの主張が相いれなければ団体交渉は打ち切りとなります。その後は労働審判や訴訟に移行することがあります。ただし、労働審判や訴訟に移行すると、ユニオンは労働トラブルに介入できなくなるため、できる限り団体交渉を継続しようとするユニオンも少なくありません。
Q7 団体交渉などでのNG行動は?
団体交渉で注意すべきなのは、ユニオンが労働協約(労働条件などについて、労働組合と使用者との間で締結する書面の協定)への署名を求めてきた場合です。「労働協約」と書かれておらず、「協定書」「合意書」「議事録」などの名称でも、企業とユニオンの双方の署名があれば、労働協約として成立し得ます。
問題なのは、労働協約の内容が労働条件になってしまうことです。労働協約に定める労働条件などに違反する労働契約は、その部分について無効となり、労働協約の基準が適用されます。労働協約の基準が適用されるのは、そのユニオンに加入している社員のみですが、仮にユニオンに自社の他の社員が加入すれば、その社員も適用対象となるのです。
もちろん、労働協約の内容が、企業とユニオンが合意した内容であれば問題ありません。しかし、例えば団体交渉の途中などで安易に労働協約に署名してしまうと、労働条件などが企業の意図しないものになってしまう恐れがあります。
この他、ユニオンに駆け込んだ社員への接触にも注意しましょう。社員にユニオンからの脱退を促すことは、不当労働行為となります。直接脱退を促さなくても、ユニオンの目の届かないところで「会って話をしよう」などと持ちかけると、不当労働行為を疑われる恐れがあるので、業務上必要な場合などを除き、当該社員への接触は避けたほうが無難です。
以上(2020年10月)
(監修 弁護士 田島直明)
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